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コラム

藤村厚夫のメディア地殻変動

近未来のメディアでは、「編集部」が姿を消すかもしれない

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「編集部」が姿を消す

「編集部」という組織をめぐるコンセプトも、変化を始めている。これまでも、編集部員がリモート(自宅や遠地)で仕事をするというアプローチは存在していた。だが、ONA16で浮上したのは、「分散型編集部」というコンセプトだ。

分散型編集部というネーミングは、分散型メディアのトレンドに呼応するものとして、筆者が付けたものだ。ONA16が最終日の「キーノート」に選んだのは、この分散型編集部のコンセプトをジャーナリズムのど真ん中に投入した「reported.ly(リポーテッドリー)」という、実験的なメディアをテーマにしたセッションだった。

同メディアの編集長アンディ・カーヴィン氏以下、主要ジャーナリストがそろって登壇した1時間あまりのこのセッションは、動画で振り返ることができる(ここを参照)。

「リポーテッドリー」の主要な記者らが勢揃いしたONA16のキーノートセッション

リポーテッドリーは、開設からまだ2年の若いメディア。バックにはイーベイ創業者のピエール・オミダイア氏が設立した革新的なメディア群を擁する企業「ファーストルック・メディア(FLM)」がある。

同社のポートフォリオであるメディアの中でも、特に実験的おもむきの強いリポーテッドリーは、主要なレポーターが北米、ヨーロッパ、そしてアジアなどに分散しており、物理的な編集部は存在しない。https://reported.ly/about/

戦地など、事件の現場に出向いて深く取材する調査報道のスタンスと、ツイッターやストリーミングを用いたリアルタイムな報道を組み合わせた実験的スタイルを持ち味とする。自社サイトも運用するが、コンテンツの多くはフェイスブックやツィッターなど外部配信プラットフォームを活用する。FLM全体の方向性として外部配信を重視しており、報道コンテンツのライセンスにも意欲的だ。

編集長のアンディ・カーヴィン氏自身、NPRという米国の公共ラジオ放送のジャーナリスト、パーソナリティ出身者でもあり、自ら「リアルタイム・ニュースDJ」を名乗り、そのリアルタイム報道、リアルタイムファクトチェックなどへのスタンスは突出している。ページ仕立てを基にしたメディアづくりではなく、リアルタイムな放送的アプローチをコンセプトに組み込んでいるメディアと理解すべきなのだろう。

強調したいのは、革新的なメディアの試みであり、現代の富豪から資金援助を受けた斬新なメディアではあるものの、それぞれ実績を踏んだ個性豊かなジャーナリストたちが主役に立っていることだ。特別なソフトウェアや設備を用いるわけではない。21世紀に存続可能なジャーナリズムの正当派をイメージさせるおもむきを備えているのだ。聴衆の真剣度の高さと興奮も、このジャーナリズムの新風への期待が込められていたと受け止めた。

ここまで駆け足で、“近未来のジャーナリズム”をめぐる動きを素描した。テクノロジーにだけに寄ったトレンド変化ではなく、われわれの生き方、存続にかかわる地殻変動が見えてきているのだ。


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