【前回】「不正取引問題で揺れる「運用型広告」は、人間の知性の無駄遣いか?」はこちら
例えば、筆者が軽井沢でハイエンドなブティックホテルを経営しているとします。中国で軽井沢をロケ地としたドラマが大ヒットし、去年末から外国人宿泊客が激増したため、今年になって「コテージ棟」と銘打ったログハウス3棟を急ごしらえで造設しました。土地の取得費用と建設費用は利益(内部留保)で賄い、借金はしませんでした。
このとき、損益計算書(PL)上は、コテージ棟の建設費がマイナスで計上され、コテージ棟からの新しい収入がプラスで計上されます。ただもちろん、コテージ棟の建設費用をすべてこの年の収入でカバーするのは不可能でしょう。一方、貸借対照表(BS)上は、現金という資産が減って、不動産(土地と建物)という資産が増えることになります。ここは、投資が適切であれば、プラスマイナスがバランスするでしょう。
このコテージ棟という新しい資産は、来年以降も継続的に売上を生み続けますし、場合によっては売却することで現金という試算に戻すこともできます。放っておけば、基本的には経年劣化により価値が目減りしますが、メンテナンスによってそれを防いだり、さらに価値を上積みすることができます。軽井沢を舞台にした別のドラマが、今度は韓国でヒットするなどの思わぬ事態によって、経年変化を補ってあまりある価値の上昇が突発することもありえます。
この「BS上の資産」に関する全てのことが、ブランドという資産に関しても当てはまります。それにも関わらず、ブランド投資にあたる広告宣伝費は、PLにマイナスと一部のプラスだけが計上され、BSに資産としては計上されないため、少なからぬ企業がブランドの資産としてのあり方を軽視、もしくは完全に無視するということになります。
後述しますが、だからと言ってブランド資産が結果として構築できないわけではないですし、そのスタンスが必ずしも悪いことだと言っているわけではありません。
もっとも、ブランドを資産ととらえ、(ブランディングに寄与する)投資を積極的に行っている企業でも、その資産価値を定量的に把握し、逆算して投資計画を立てているようなところは非常に少ない、というより寡聞にして知りません。
そういったブランド積極投資企業も、利益率を圧縮する(赤字にはしない)という形でブランド投資を単年のPL上正当化しているだけで、いくら投資していくらの資産を構築する、というBS視点の正当化はほとんどしていません。
「マーケティングを“別名保存”する」バックナンバー
- マーケティングとブランディングはどう違うのか(2019/4/15)
- 愛を語るより口づけを交そう — “タンジブル”なマーケティングのススメ(2018/11/06)
- 独立志向のクリエイター向け 5分でわかるティール組織(2018/8/27)
- P&Gのマネはできない。巨大広告主でなくても実践できるブランドセーフティ(2018/5/11)
- “何でも屋”にならないために、デジタルマーケティングのSOWを決めよう(2018/4/26)
- 1社のエージェンシーに全てを任せられる時代は終わった — チーム編成こそ「創造的」に(2018/4/19)
- あえていま「サーチエンジン広告」について考える(2018/4/13)
- 海外で300円の商品を売っている、日本発のグローバル企業がないのはなぜか?(2018/4/05)
新着CM
-
AD
宣伝会議
【広報部対象】旭化成のグローバル社内イベント成功事例を紹介
-
マーケティング
『ドラクエウォーク』は「YouTube」で高Imp 週あたり利用時間も長い…米調...
-
広告ビジネス・メディア
日テレ、イオンモールで「没入型CM」実験 次世代広告メディアとして展開目指す
-
マーケティング (コラム)
詐欺広告より恐ろしいMFAサイトを深掘りすると、コタツ記事との違いがわからなくな...
-
クリエイティブ
ピザハット、ブランドメッセージ刷新 割引訴求の“販促型広告”から脱却
-
AD
マーケティング
モンデリーズ、店内ビジョンと「ファミペイ」広告活用で新商品の売上が7倍に
-
販売促進
森永製菓「アイスボックス割」ドリンク販売 日向坂46出演CMの衣装も展示
-
クリエイティブ
予定調和より、クレイジーな挑戦を――2023ACC賞審査委員長が語る
-
特集
CMO X