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コラム

マーケティングを“別名保存”する

「売上の何%」という広告費設定はどこから来たのか?ブランドと財務諸表の関係

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現在多くの企業の広告費は、「売上の何%」という形で設定されていますが、そのようにした当初の意図はともあれ、現時点の広告部・マーケティング部がそれをどう解釈するかには、大きく2つのパターンがありえます。

そんな広告費の設定方法を、1. 売上を最大化するための慣例だと考えているケースと、2. それに加えて上記の通り、ブランドの資産価値を明確にできないための便宜、PLに余力がある限りで最大限 BS的な資産を構築するための方便だと考えているケースです。
 
1.の場合、データドリブンマーケティングの進化に伴い、これまで見えなかったがゆえに慣例に頼らざるを得なかった売上最大化の黄金律を、データを通じて導きだそうとするインセンティブが働きます。

そもそも広告費は売上の何%なのか、という割当の問題から始まり、どこに何をどれだけ投下すれば売上が最大化するのか、という配分の問題までを、売上への貢献(アトリビューション)を基準に可能な限り可視化しようとします。

ここでは「当期の売上を上げるため」の認知や想起や理解(短期的なもの、存続しないものでもいい)が必要な場合も多いため、最終的な目標はPL上の売上ながらも、いくつかの活動は「ブランディング」と呼ばれる場合があります。

これを本稿では「PL上のブランディング」と呼びましょう。メリットとしては、広告・宣伝活動のいくつかの部分が、共通したゴールのもと一つにつながって整理されるので、透明性が高まりマーケティングがより科学的になります。

一方で、資産としてのブランドの価値は、軽視または無視されることになります。無視、あるいは軽視したとしても、結果としてブランド資産は(ブランド主の与り知らぬところで)構築されるので、そこを棒に降ってしまうということにはなりません。

また、ブランドの資産価値構築よりはマーケティングの見える化、データドリブンを重視する、という一つの経営判断で、決してこれが悪いことである、といっているわけではありません。
 
2.の場合、マーケティング投資全体を、当期のPLを意識したもの(上記「PL上のブランディング」+セールスプロモーション)と、BS的な資産構築を意識したもの(これを「BS上のブランディング」と呼びましょう)にざっくりと分けて考えます。

ただ、例え後者であっても、上記「コテージ棟」の例のように、当該資産が当期のPLに貢献する要素もありますし、売り場での棚の確保やPOPなどは前者ですが、これはブランド資産構築にもつながります。つまり、厳密な切り分けは不可能です。

しかも後者、BS的な資産としてのブランドに関しては、現時点では一般化・標準化された価値評価システムがないので、金額の正当化は非常に困難、というか不可能です。これらの全てのことから、マーケティング部隊は競合のベンチマーキングなどを通じて戦略上達成が必要と思しき指標の設定を行い(認知、想起、理解など)、PL上許容できる「何%」の範囲内でその最大化を狙います。

セールス的な指標、あるいはその中間指標も合わせて持つことが多いです。ただ、予算はそのいずれの指標からの逆算でもないので、時に達成が容易過ぎることもあるし、初めから絶対に達成不可能なこともあります。

そこははっきり言うと「ゆるい」のですが、戦略的・意識的にゆるいのであって、資産としてのブランドの価値構築を意識的に行うための方便なのです。筆者はポスト団塊ジュニア世代で、テレビの全盛期に幼少期を送りましたが、当時テレビCMで親しんだ「スイミー」という「鯉のエサ(!)」のブランド名をいまだによく覚えています。

例えば熱帯魚のエサを製造するメーカーがスイミーブランドを買収し、自社の製品名として展開すれば、私が熱帯魚を飼い始めた際はその商品に「信頼できる」とプレミアを支払うでしょう。

当時の「スイミー」のマーケティング投資が、その後30年にもわたって存続する資産価値を創ろうとは、当時の担当者に果たして想像がついたでしょうか。また、実際にはその価値がどれだけ現存しているか、例え現時点にあったとしてもわかる人はいるでしょうか。

ブランドの資産価値を定量化する、というのはかくも難しいことなのですが、同時にブランドの資産価値とはかくも強力なものです。その強力さゆえに、例え明確に定量化できないのだとしても、そこを重視し短期のPLがゆるす限りで最大限の投資をする、というのもまた一つの経営判断です。

問題なのは、そのどちらにも与せず、あるいはその違いを意識せず、ブランディングの定義をあいまいなままにしておくことです。その場合、ブランディングという言葉は3重の意味において曖昧になりがちです。

  1. PL上のブランディングなのかBS上のブランディングなのか。
  2. 認知、想起、理解の、どこの話をしているのか。
  3. 本当にその認知、想起、理解が必要なのか。重要課題はなにか(認知や好感が今回絶対に獲得しなくてはいけないものと決めつけていないか)。

もっとも極端な例は、これは広告会社側、特にデジタル専業の広告会社に多いように感じますが、ブランディングとはダイレクトレスポンスではない何か、という類の理解です。広告主、広告会社、いずれかがこのような状態ではブランディングは覚つきません。

最後に壮大な構想を一つ。不動産鑑定士という資格をご存じでしょうか?弁護士、公認会計士とならび三大国家資格の一翼を担う、不動産系資格の最難関です。

不動産鑑定士は、いわゆる「公示時価」をはじめ、国や地方自治体が税務などの拠り所とするための土地価格を公に算定する業務独占資格です。マクロの経済状況や政治情勢、国際情勢、その土地・建物の地理的、歴史的、構造的な成り立ちを総合的に勘案し、科学的に不動産の価値を算定する技能を有します。

本稿で論じたブランドのBS的な価値について、将来「ブランド・アプレイザー(ブランド鑑定士)」のようなシステムが整備され、鑑定された適正な価値を財務諸表に反映する、というルールが国によって管理されるようになると、日本のブランドマーケティングは一層深化し、世界をリードする日も来るのではないでしょうか。