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リオ五輪で選手が不祥事、エアウィーヴは海外店舗を閉鎖! スポンサー契約のリスクを考える by 中川淳一郎

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2016年に続発した、有名人のスキャンダルは企業の宣伝部門や広報部門にとっても他人事ではない。エアウィーヴ社によるスポンサー契約選手の不祥事後の対応から、広告・PRキャラクター起用により想定しうるリスクを考えていきたい(取材・文/中川淳一郎)

※本記事は2017年1月号『広報会議』の特集「2017年版危機管理広報マニュアル」に掲載されたものです。

2016年は不倫や薬物問題など、芸能人の不祥事が目立つ一年だった。特に不倫騒動のベッキーの場合は、10社のCM契約を打ち切りないしは、契約非継続とされる状況になった。そして、すでに不倫発覚・芸能活動自粛から3年が経過した矢口真里が日清食品「カップヌードル」のCMに出演したところ、苦情が殺到しCMはお蔵入りとなった。

しかし、ネットでは「なんという息苦しい社会」といった声も案外多く、矢口はそれなりに許され始めている状況のようだ。ならばベッキーの今の状況はどうなのか。広告制作会社のディレクターはこう語る。

「ベッキーさんは毎回キャスティング案では出るのですが、クライアントはやはり二の足を踏みますね。起用すれば話題になることは分かっているのですが、ベッキーさんは矢口さんほどまだ『禊』が足りない状態にあり、世間の反感がまだ強すぎるのです」。

というわけで、タレントと広告・PRキャラクター契約をするにあたっては、何かあればとにかく各所からの集中砲火が殺到する状況でやりにくいったらありゃしない。ならば、不祥事を起こさなそうなアニメキャラを使えばいいのかと思えば、熱狂的ファンから「世界観とマッチしない」などとクレームも来るだろう。

さて、こんな時代にいかにしてタレントとの契約を検討すればいいのか。ここで、具体的なケーススタディとして、マットレスなどの寝具メーカー・エアウィーヴが今年の夏に経験した危機対応について紹介する。

会長が語る「ロクテ騒動」の裏側

同社はリオ五輪では米五輪委員会のスポンサーとして、プロゴルファーのバッバ・ワトソン、パラリンピック競泳選手のジェシカ・ロング、そして競泳選手のライアン・ロクテと契約をしていた。ところがブラジル滞在中、ロクテが競泳チームの3選手とともに強盗被害に遭ったと訴えたことが虚偽だと判明。「ブラジル=治安が悪い」というレッテルを利用したとも捉えられかねない行為だっただけに、ロクテは米五輪委員会から処分を受けた。

リオ五輪で米五輪委員会のスポンサーとして、競泳のライアン・ロクテら3選手と契約していた。ロクテは男子800メートルリレー金メダルを獲得。

米国民の怒りは激しく、同選手とスポンサー契約をしていた水着メーカーのSPEEDO、衣料ブランドのラルフ・ローレン、医療用レーザー治療装置販売のシネロン・キャンデラがスポンサー契約を降り、最後にエアウィーヴが降りた。同社の高岡本州・代表取締役会長が当時の状況を語る。

「すぐにアメリカ中のメディアから、我々の数人しかいない米国法人オフィスにガンガン電話が来ました。その電話対応で、本来の仕事ができなくなりました。当初は状況がよく分からなかったのですが、週末にライアン自身がNBCのインタビューで、話を誇張していたとカメラの前で認めました。翌日SPEEDOが降りて、ラルフが降りて、我々が契約しているPR会社からも『もう持ちこたえられない』ということで降りざるを得なかったのです。今回の問題が起こったからといって、ライアンの人間性を否定するわけではないです。たまたま起こったことと捉えています。ただし、企業のアイコンとしては使えない。事実が分かったところで契約はやめました」。

同社は日本国内では浅田真央、錦織圭、坂東玉三郎というエアウィーヴのユーザーと契約をしているが、いずれも長期にわたる関係を築いている。ロクテとの付き合いはこの3人、そしてワトソンと比べれば短かったものの、彼の人間性を否定しているわけではない。

同社は「契約タレント・選手の生きざまが同社の出したいメッセージと近い」ことを、契約にあたっての方針としているため、ロクテとも契約続行する判断をしようかと思ったが、アメリカの人々の怒りはすさまじく持ちこたえられなかった。

「タイガー・ウッズが女性問題のスキャンダルを起こしたとき、スポンサーが軒並み撤退しました。しかし、ナイキだけは残りました。関係者に聞いたところ、ナイキはタイガーのゴルフの姿勢に共感して契約しているわけで、ゴルファーとしてのタイガーを否定するものではないと考えていたそうです。これは立派な姿勢だと思いました」。

危機対応はコメントで決まる

このように苦渋の決断をしたわけだが、同社は結果的にロクテを招いた五輪期間中のイベントを中止せざるを得なくなり、オンライン販売用のウェブサイトの不具合も重なり、五輪後にニューヨークの旗艦店を閉鎖。販売用サイトの再構築を含めて事業の見直しをすることに。高岡氏はこの決定について、「ライアンがすべての原因ではなく、一つの要素ではありますが、事業のあり方を考え直す一つのタイミングになりました」と語る。

エアウィーヴは2015年3月、米ニューヨークのトレンド発信地「SOHO」にアメリカ第一号店をオープンしたばかりだった。

今や、電話での抗議だけではなく、SNSでの炎上なども含め、契約タレントの不祥事が企業にとっての火薬庫にもなり得る時代である。リスクについては忌避すべきことかもしれないが、前出の高岡氏は「むしろチャンスになることもある」と語る。それは、炎上しているときや危機に直面しているときの「コメント力」にある。

騒動が発生した際、最高責任者としてブルームバーグに対してコメントを送ることになったが、高岡氏は会社として準備していた文面に一言足した。元々の文面は「私はライアンにアスリートとして尊敬の念を持っており、契約が残っている限り、エアウィーヴのアンバサダーであり続けます」だったが、「持っており」と「契約が」の間に「彼が尊敬できるアスリートであり続けるならば」を追加した。

他社がノーコメントを貫く中、企業としての姿勢を明確に示したことがむしろ高評価となり、さらにはブルームバーグの記者とも関係を深めることにつながった。そして、この直後に米国内の売上が年間最高を記録したという。

冒頭のカップヌードルの場合、前出のようにむしろ「叩く側がおかしい」「セカンドチャンスを許さない不寛容さ」といった論調がネットでは強く、矢口真里と日清食品はむしろ同情される結果となった。そして覚せい剤取締法違反で逮捕から7年、今年6月に酒井法子がスキンケアブランド「ORIGAMI」のイメージキャラクターに就任したというニュースもあった。するとネット上では「やっぱかわいい!」といった声もあり、結局はキャラ次第といったところもある。人の心の機微の難しさをつくづく感じるのである。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
編集者・PRプランナー

一橋大学卒業後、博報堂で企業のPR業務を請け負う。2001年に退社。PR活動、ライター、雑誌編集などを経てニュースサイト編集者となる。現在は編集・執筆の他、情報発信に関するコンサルティング、プランニングを行う。

 

「広報会議」2017年1月号は、広報関係者必読の記事満載の渾身の1冊!

【巻頭特集】2017年版 危機管理広報マニュアル

「広報会議」2017年1月号特集「危機管理広報マニュアル」はこちらから

三菱自動車の燃費偽装、有名企業のお家騒動のほか、タレントや著名人など個人に対する批判など多くの不祥事が発覚した2016年。編集部の独自調査をもとに、その問題点や世の中の評価のほか、クライシス発生時の広報部の動きを想定した水面下のシミュレーション、危機管理広報の考え方、炎上対策まで専門家とともに考察していきます。

Part1 2016年の不祥事総まとめ

■問題1
三菱自動車とスズキ 相次ぐ燃費偽装
信頼を取り戻せるのか? 自動車業界の危機管理と広報
–アナリスト 中西孝樹

■問題2
セブン&アイ、出光、大戸屋…続く「創業家の乱」
問われるガバナンス 企業は「聖域」にしない努力を
ジャーナリスト 大西康之

■問題3
増える内部告発、隠し通せる秘密などない!
INTERVIEW
『週刊文春』編集長と総括 2016年の不祥事と広報対応

■ノウハウ編
(1)
もしもあなたの会社でパワハラが発覚したら?
水面下の広報対応 シミュレーションマップ
監修/佐々木政幸

(2)
「謝罪」までのステップ
有事後の「心の持ち方」「行動の手順」

■CASE STUDY
なぜ西武ホールディングスは 10周年誌で「負の歴史」を記したのか

(3)
「社員への対応は後回し」は厳禁 !
不祥事発覚時こそ社内広報が重要

Part2 クレーム過激化社会を生き抜く方法

■レポート
変わる炎上のメカニズム
劇場化するネット世論

■問題4
PCデポ問題が明らかにした「クレームから炎上」の構図

■CASE STUDY
契約選手の不祥事で海外店舗閉鎖 !
エアウィーヴが直面した危機