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エフィー賞の審査で感じた日本の課題【アジア太平洋エフィー賞レポート】

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アジア太平洋エフィー賞(APAC Effie Awards)の審査レポートの最終回ですが、日本人として、そして日本で働くマーケターとしてエフィー賞の審査の現場で感じたことを率直に書きたいと思います。

審査は連日朝から夜まで続いて、かなり疲れるものです。朝9時には集合、休み時間もそれほどない、審査をしている間はエントリーフォームを読み込んで、添付されたエントリービデオを見て、全体議論をして、各自得点を入れるという繰り返しなので、他の仕事やメールを見たりするような時間はほとんどないのです。なので、ほとんど息つく暇もないのですが、その審査のプロセスの中でも気になったことがありました。

日本からのエントリーは5%以下

そう、それは、アジア太平洋エフィー賞なのに、日本のプレゼンスがあまりないことです。

日本はアジア太平洋で言えば、中国に次いでリージョンでは2番目に大きな経済大国であって、3位のインドにはGDPでは約2倍もの差をつけているわけです。それだけの経済規模の国において、他国と比べて優秀なマーケティング活動がないわけがないと思いますが、残念ながら審査をしていて日本のケースに出会うことはほとんどありませんでした。

APACエフィーのエグゼクティブ・ディレクターを務めているビーホン・チュア氏によると、今年のAPACエフィーへの日本からの応募は27ケース。これはAPACからのエントリー全体の5%以下にすぎないのです。

私が現地で携わった2次審査で、日本からのエントリーに出会ったのはわずかに1件でした。私のグループでは約70ケースを審査したと思うので、約1%です。インド、香港、オーストラリア、台湾、ニュージーランド、中国などの国と地域からのケースが多いのに対して、日本からのケースが少なかったのは個人的にも少し寂しい気がしました。

審査員から見る日本のプレゼンスの低さ

もう一つ気になったのは、日本からの2次審査員の少なさです。昨年は3名、今年は2名でした。地元であるシンガポールにて働いている人が一番多かったのですが、それ以外にも、中国、オーストラリア、香港、などいろんな都市からの審査員が集まっていました。中華系、インド系、アメリカ系、韓国系、イギリス系、などいろんな人種が審査員として集まっているのもこのエフィー賞の特徴ですが、いずれにしても、日本のプレゼンスが弱いのは気になりました。

ビーホン氏は、「日本はアジア太平洋で2番目に大きな市場で、世界では3番目の経済大国である。なので、自然とこのリージョンで果たすべき大きな役割があるはずと感じています」とコメントしてくれました。その上で、「イノベーションやデザインのリーダーでもある日本が、クリエイティブの広告賞において、非常に多くの優秀な仕事で受賞しているのを私は見てきました。しかし、同様の参加がエフィー賞をはじめとする広告効果を評価するアワードに対してはまだ見られていません。クライアントに対して、真の結果を生み出しているような仕事やキャンペーンを表彰するというエフィー賞のようなアワードへの参加意識がそれほど高まっていないことを感じています」と事務局としても同じことを感じているようです。

審査会は業界のリーダーが集う場であるべき

日本人審査員の人数が少ないという話もしましたが、私は、人数だけの問題ではないと思います。広告賞での審査員は、各国を代表する立場にあります。日本から来ているもう一人の審査員は「審査に来ている人たちはほとんどがCEOとかリーダーレベルであり、自分のようなディレクターレベルはほとんどいません」と驚いていました。確かにその通りで、エフィー賞に来ている人たちは、プランニング部門のリーダーか、CEOなどが多くを占めています。

各国のマーケティングに関するリーダーが集まることで、業界全体としてどうあるべきかという議論が求められているのだと思います。審査は参加することに意味があるのではなくて、審査に加わることでどのような価値をグループに足していくことができるかが重要です。

世界各国に展開しているエフィー賞

もうひとつ気になったのは、エフィー賞自体が日本にないことです。実はエフィー賞というのは、グローバルのエフィー賞、そして今回のようなリージョナルのエフィー賞に加えて、各国ローカルのエフィー賞があります。アジア太平洋においても、中国にも韓国にも各国のエフィー賞があるわけです。

例えば、中国のエフィー賞は数年前に創設され、中国広告協会が主催する中国国際広告祭と共に運営しています。私も2015年に、エフィー賞を実施している中国貴州省貴陽でのイベントで講演をさせていただき、エフィー・ワールドワイドのCEOニール・デイビス氏や先述のビーホン氏とも会い、エフィー賞の発展について議論したのを覚えています。

我々のような広告会社は、面白い広告をつくるために存在しているのではなく、各企業の商品やサービスを知ってもらうことで、経済が活性化することを目指しているわけです。もっというと、クライアントであるブランドと共に、時代とともに生まれる大きな社会課題を解決し、よりよい社会をつくり、社会を明るく活気あるものにしていくことを目指しています。

その中で、「効果」というものは非常に重要な評価基準であり、日本における我々の仕事が、本当に効果があるものだったのかどうか、そのことについてもっと議論する機会があった方がいいのではないかと感じています。

グローバルなプラットフォームに参画しよう

きっとこういう意見もあると思います。「国内にもマーケティングの賞があるし、国際的なエフィー賞は日本人には必要がないのではないか」とか、「そもそもこのエフィー賞は、日本人にとっても参加すべき最も適切なマーケティングの賞なのだろうか?」など……。

もちろん、日本国内にも素晴らしいマーケティングの賞があり、私もそれ自体を否定することは何一つありません。しかし同時に、日本国内で実施される日本人の日本人による日本人のためのマーケティングの賞以外にも、我々はもっと国際的なマーケティング関連のアワードに積極的に参加してもいいのではないかなと思うわけです。

言わずもがなですが、日本は人口減少を背景にした経済の伸び悩みという課題に直面しています。多くの日本企業もその中期経営計画において海外市場での成長を目指し、海外売上比率を高めようとしています。私も日本では多くの日本企業のお仕事をサポートさせて頂いていますが、多くの企業において、欧米を含めたグローバルでのマーケティングやブランディングに対して、真剣に取り組んでいこうという動きがこの1~2年、急速に増えています。

これは、企業だけの動きではなく、日本の政府も同様で、日本市場にもっと多くの訪日外国人客を呼び込もうとしています。その成果はこの数年で顕著に出ていて、2012年には836万人しかなかった訪日外国人の数が、2016年の段階ですでに2400万人を超えています。政府は2020年には4000万人を超えることを目標にしています。

そういった中で、私が感じているのは、我々日本人はもっと他の国で起きていることに関して、それを知ることにもう少し貪欲にならないといけないのではないかということです。世界中で起きている社会課題は、違いもあれば、似ていることも多いものです。他国で考えられた素晴らしいマーケティング施策とその裏にあることをもっと学ぶべきだと思っています。もちろん、そのまま使えるものではなくても、絶対に何かの刺激になるはずです。

一方で、いま日本で起きていることは、他の国の人たちにとっても刺激になるはず。そのために、日本の最新のマーケティング成功例を、惜しげもなく、他国にアピールしていくべきじゃないか、そういう風に思うわけです。

日本のマーケターが、他国からの学びも取り入れつつ、日々、素晴らしい仕事をしていることに対して、世界からも評価されて、その自信を深められたらいいのではないでしょうか。

日本にもエフィー賞を

そんなことを考えながら、いま日本においてもエフィー賞を開催できないかと考えています。日本には日本だからこその社会課題を解決するような素晴らしい効果を出したマーケティング施策が、大きいものから小さいものまでたくさんあると思います。

先述のビーホン氏も、「これまでも強いローカルインサイトがあり、イノベーティブなアプローチでクライアントのビジネスチャレンジを解決しようとする日本のケースが見られました。私たちは、日本市場には、もっと多くのイノベーティブなケースがあると感じています。それらが、世界中の人に与える影響も大きいため、日本のエージェンシーやクライアントからのより多くの参加を求めています」と話していました。

近い将来に日本でもエフィー賞を開催することで、効果のあるキャンペーンを表彰し、世界的なマーケティングの発展に貢献していけたらいいのではないでしょうか。

最後になりますが、今回のエフィー賞での審査を経て私が一番感じたことは、もっと日本のコミットメントを高めるべきだということです。

それは簡単なことではないのかもしれません。英語が一つのバリアになっていることも大きな要因かもしれません。確かに日本でエフィー賞をやる際に、言語をどうしようかというのは、ビーホン氏からも相談されたことの一つです。

英語については、これはどこかで乗り越えないとならないステップだとも感じています。いま業界の多くの諸先輩方も、同じ課題意識から、英語でカンファレンス運営を実施することに挑戦しています。宣伝会議でも、マーケティング英語の教育に力を入れていますし、私もそこに微力ながら貢献させて頂いています。

英語の授業で私が一番大事にしていることは、「大きな意味を伝える」ことです。細かい文法にとらわれて、自信を無くすよりも、大きな意味を伝えられればそれでよい。私たちは、どうやっても英語のネイティブスピーカーにはなれません。一番ならないとならないのは、「自信のあるスピーカー」です。自信を持つためには、いろんな国の人たちと積極的に対外試合を行うことしかないと思うわけです。

最後に、APACエフィーの事務局の方からいただいた言葉で終わりたいと思います。

「我々APACエフィーは、マーケティング・エフェクティブネス(効果)が賞賛され、そういった素晴らしい仕事が国際的な舞台で大きく認知され、認められるようなプラットフォームであり続けたいと思います」

ぜひそのプラットフォームに積極的に参画して、もっと日本のマーケティングのエクセレンスをアピールしていけたらと願っています。

松浦 良高(まつうら・よしたか)
マッキャンエリクソン プランニング本部長 エグゼクティブプランニングディレクター

博報堂、上海博報堂、TBWA\HAKUHODOを経て、2014年12月より現職。アジア市場でのブランド業務や、7年間の中国駐在での広告業務経験、グローバルチームと連携したブランディング業務など、グローバル関連のブランド/マーケティング戦略構築業務に強い。カンヌ広告祭のセミナーは04年から参画し、グローバルの広告業界の動向の分析をしており、内外での講演も多数こなす。

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