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全豪オープンから見えた東京五輪が本当にデザインしなければいけないモノ

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#コアライオン 〜南半球から世界を揺るがすアイデア〜

nobuhiri.arai

荒井信洋(COPYWRITER / TBWA\Melbourne)

博報堂入社後、TBWA\HAKUHODOを経て、2017年よりTBWA\Melbourneへ。TwitterやUstream などSNSのエンゲージメント企画からキャリアを開始したソーシャルネイティブなコピーライター。”体験をコピーライティングする” 企画力に武器に、国内外120以上の広告賞獲得(Cannes Lions Gold/London Gold/Clio Grand Prix/ACC グランプリ/文化庁メディア芸術祭グランプリ など他多数)。最近の企画に、オーストラリア政府観光局”GIGA SELFIE” / キングレコード縦型MV ”RUN and RUN” など。

 

質問です。「SNSを上手に活用しているスポーツイベントと言えば何?」

誰もがまず五輪やサッカーW杯を思い浮かべると思います。しかし、 私が勤務するオーストラリアにもマーケティング業界で” スポーツ界最高のTwitterアカウントの1つ”と言われているスポーツイベントがありました。それは、先月メルボルンで開催された全豪オープンテニス。そのタイムラインを眺めてみると、他の世界的スポーツイベントとは一味違った個性が見えてきました。今回は、 全豪オープンのソーシャルエンゲージメント戦略、つまり「熱狂のデザイン 」を探ってみたいと思います。

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KEYHOLEによるアカウント比較(2017/2/10時点)

イベント規模やフォロワー数に違いはあるものの、注目すべきは圧倒的な投稿数。タイムラインを見れば、全豪オープンがいかに「おしゃべり」で「社交的」で「空気の読めるやつ」だということが分かります。

秒速のクリエイティブで、熱狂をデザインする。

私が肌で感じた全豪オープンによる「熱狂のデザイン」。その核は、圧倒的なスピードです。

ここでは中継に次いで最速という意味で「秒速のクリエイティブ」と呼びたいと思います。具体的には、特定のプレーでタイムラインが盛り上がりを見せると、すぐさま公式が動画を投下してくる肌感覚。 凄まじく「反射神経のよい」アカウントなのです。このスピードによりTwitter上の体験は劇的に変わります。TVを補助するセカンドスクリーンとしてのTwitterが、独立した1つのコンテンツに進化するイメージです。

スポーツ中継時のTwitter は、映像のない副音声のようなもの。世界中とつながっているように見えて、実は一部のTV視聴者が#ハッシュタグという壁の中で盛り上がっている内輪な場所だったりします。しかし、そこに「秒速のクリエイティブ」で公式動画が投下されると、試合経過と観客の熱狂の波を再現したコンテンツに生まれ変わります。そこはまるで、試合映像という熱狂のソースに、世界中からコメントが寄せられるリアルタイムなキュレーションメディア(まとめサイト)。視聴者をさらに加熱させることはもちろん、未視聴者にもコンテンツを追体験させて熱狂の輪に加えていくことができる。そんな「火種を見つけたら、すぐに油を注ぐ」という非常にシンプルでTwitterの基本とも言えるアクションが、世界を巻き込んだ熱狂をデザインしていたように感じました。

*これ、実はTwitterでは当たり前の光景。ぜひ現在放送中のTV番組を検索してみてください。ユーザーの声と共に画面キャプチャー(非公式)がタイムラインに現れるはず。TVを見ていなくてもトレンドというビッグウェーブに乗って盛り上がることができます。

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試合経過に秒速で反応して、タイムラインで感動を追体験させる。TVの前にいなくても、手のひらで全豪オープンをつまみ食いできる気分です。

「速度」のために「質」を捨てる勇気がありますか?

この圧倒的な速度。技術的に言えば、Twitter社とのパートナーシップにより実現しているようです。しかし、私はそれより遥かに重要な実現要因があると感じています。それは、「質より速度を優先する勇気」。精神論で申し訳ないのですが、実際この小さな姿勢の違いがSNS上の熱狂に大きな違いを生んでいるのです。

全豪オープンのTwitter動画は、決して質の高いものではありません。編集ほぼなし。リッチな演出なし。秒数バラバラ。時には映像が中途半端に終わることもあります。その荒削り具合の差は、五輪のTwitter動画などと比べると歴然です。しかし、熱狂の旬だけは逃さない。「速度は全てに優先する!」 という関係者全員の意思統一が伝わってきます。

「質を犠牲にするだけなら簡単だ」と思う方が多いかもしれませんが、それは誤解。LIVE系コンテンツの場でSNSを運用すれば痛感しますが、時間とタイムラインは異常な速さで流れていきます。「速さが大事」と頭でわかっていても小さな迷いで簡単に旬を逃します。Twitterユーザーは 飽きっぽく、移り気。60点のコピーを75点にしようと迷っている間に、話題は変わり、誰にも届かない0点のコピーになってしまうのです。

*これもよくある光景。先ほどのTV番組の検索結果に、スマホでTVを撮った投稿があるはずです。画質も音質も最低。でも、熱狂に一役買っている。私たちユーザーは時に質より速さを求めています。

投稿時間と演出の絶妙な差からSNSリテラシーの高さを実感できます。Twitterは速度重視の「素うどん」的映像のようなものです。派手さはないが、空腹という旬は絶対に見逃さない、というイメージです。

「バズらせること」よりも10倍大切なこと。

秒速のクリエイティブで熱狂の火に油を注ぐ。しかし、 それだけでは全豪オープンの成功はありえません。私の経験上、SNSキャンペーンには2つの設計が必須です。それは「バズらせる設計(大成功の確率を高める)」と「滑らない設計(大失敗の確率を下げる)」です。 どうしても前者が注目されがちですが、個人的には後者の方が10倍重要だと考えています。

バズは運に左右されるもの。もちろん綿密に設計しますが極論「運」です。それを理解した上で大切なのが「運という乱数が最低値だった時でも、ある程度盛り上がる設計」です。つまり「ナダルvsフェデラー!」「姉妹対決の決勝!」のような神展開がなくても機能する保険のようなものです。地味な事例ですが、見逃せないポイントなのでご紹介します。それらのヒントは全て、身近なソーシャルゲームにありました。

ソーシャルゲーム流”滑らない”熱狂デザイン。

1)インセンティブで人を動かす「ミッション」

まず1つ目は、インセンティブを軸に運営vs全ユーザーの構図を作る手法です。ソーシャルゲームで言う「RTが1000に達したらプレゼント!」のような共同ミッションです。全豪オープンに関するシェア・写真投稿など、SNS上のアクションに課題を設定し、クリアすれば抽選でプレゼントが当たるという愚直な戦い方をしていました。これにより、拡散数と期間をコントロールしやすくなるため、SNSキャンペーンで最も怖い沈黙を避けることができます。

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2)習慣化する「曜日別クエスト」

2つ目は、日替わりコンテンツで、体験を習慣化させる手法です。SNSで速度とともに非常に重要な要素である“リズム”を作ります。毎日、その日のベストショットを紹介する動画を配信する、美味しいとこだけつまみ食いしたいSNSユーザーにとっての主食コンテンツです。滑る確率が低いのはもちろん、プレー内容次第でバズ化の確率を高めてくれます。

3)盛り上がり方を可視化する「実況」

3つ目は、企業主語で語るのではなく、第三者が熱くなっている様子を見せるゲーム実況的手法です。Twitter Blue Roomという簡易スタジオを作り、そこからPeriscopeでライブ配信。選手との雑談やカラオケなど、非公式的なゆるいコンテンツで親近感を作り、自然体の熱狂を無意識に覚えさせます。

東京五輪では「どう見えるか」より「どう燃えるか」を考えませんか。

以上、本当に簡単ですが、私が肌で感じた全豪オープンによる「熱狂のデザイン 」でした。

こんなテーマで書いていると頭によぎるのは、3年後に迫った東京五輪。色々と話題が絶えませんが、ほとんどはロゴだったり競技場だったり演出だったり、 世界から「どう見えるか」という議論が多いように思えます。もちろんそれらも大切ですが、本当の意味で考えなきゃいけないのは「どう燃えるか」という熱狂のデザインなのではないでしょうか?

オリンピックの主役は、イベントを彩る演出家やアーティストではなく、選手と観客。そして、それを見る私達が、どれだけ熱くなれたか、どれだけ泣けたか、どれだけ記憶に残るかが全てだと思います。2002年の日韓W杯のロゴとか開会式って覚えていますか?ごめんなさい。少なくとも私は覚えていません。ただ、学校サボってパブリックビューイングで喉を枯らした熱狂の記憶は確かに残っています。

当たり前ですが、1964年にはなかったSNSとスマホがつくるソーシャルオリンピックが初めて東京にやってきます。必ずしもオリンピックを進化させるのは未来の技術だけじゃない。たった1つの#ハッシュタグ、たった1つの絵文字で進化させられるオリンピックもある。そんな風に私は思います。かつてない熱狂を作りたいじゃないですか。「#バルス」を超えなきゃダサいと思いませんか?そろそろ東京五輪の「熱狂のデザイン」を考え始めませんか?