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WeChatはメッセージを送り合うだけのものではなかった — 中国SNS事情

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【著者】
近衞元博
迪尓希(上海)広告有限公司 (英語名:D2C China Co., Ltd.)
CEO(総経理)

慶応義塾大学経済学部卒業。2001年Webデザイナーとしてキャリアをスタート。ディーツー コミュニケーションズ(現D2C)入社後、2006年より株式会社電通に出向し、その後5年間、電通のデジタル・ビジネス局にてモバイル領域のプランニング並びにサイト制作を行い、多数の大型クライアントのキャンペーン設計に携わる。2011年8月、迪尓希(上海)広告有限公司(D2C China)設立に伴い、同社の総経理(CEO)に就任。中国において、デジタルを活用したキャンペーンを精力的に手掛ける。2016年、中国で最も権威と影響力のある「中国国際広告祭」の「中国広告長城賞- インタラクティブ・クリエイティブアワード」でグランプリを獲得。

 


こんにちは。D2C China代表の近衛元博です。

私は2011年から中国・上海を拠点に、D2Cの100%子会社であるD2C Chinaという企業で、デジタルマーケティング事業を展開しています。

私がいる6年で、中国のデジタルを取り巻く環境は劇的な変化を遂げ、もはや、日本を凌駕するほどの勢いがあります。スマートフォンの普及が進んだことで、スマートフォン決済の利用人数は8億人を超え、2016年の市場規模は600兆円まで膨れ上がりました。これは、日本の国内総生産(GDP)も上回る金額です。

「Leapfrog」(直訳すれば蛙跳び)という言葉があります。日本などの先進国が歩んできたステップを、インフラ不足ゆえに、すっ飛ばしてその先を実現する、という意味ですが、まさに中国はこの状況が起きています。

日本では、日本よりも進んだ中国のデジタルビジネスが記事として取りあげられることは多くないので、私のコラムでは、日本の皆さんにも役立つような中国デジタルビジネス最前線をお伝えしたいと思います。

第一回目はWeChat(微信)についてご紹介します。日本では中国版LINEのような言われ方をすることもありますが、2011年1月のサービス開始から、2016年9月までで、中国国内、海外を合わせて月間アクティブ数は8億に及び、日本で使われているLINEと同じ機能を持ちながら、独自の進化を遂げています。

※出典:CNIT-Research(中国IT研究中心) より
   :WeChat Wikipediaより
   :2016微信数据报告(2016WeChatデータレポート)より
※数値は四捨五入

チャットメッセージ、写真アップなどの投稿、スタンプの使用、無料通話、ビデオ通話、ニュース情報などの機能は日本のLINEと変わりません。では、なぜWeChat(微信)がこんなにも人々に活用されているのでしょうか。調べてみるとそこには、中国だからこそ成り立つ機能の存在がありました。

出典:2016微信数据报告(2016WeChatデータレポート)より

WeChat(微信)にはSNSの機能に加え、その利便性を飛躍的に高める「WeChat Payment」という決済機能が搭載されています。この機能は銀行口座を登録すると簡単に利用することができます。支払はデビット型となっていて、銀行口座からお金を事前にプールしておき、その中から支払う形です。ショッピングでの利用だけでなく、中には携帯料金などの生活関連の支払いから、タクシーの呼び出し、映画チケットの予約まであり、そのサービスはかなり充実しています。

「WeChat Payment」を使うには、実名などの個人情報、銀行口座の登録が必要になります。個人情報、銀行口座の登録まで必要となると、情報漏洩や安全性の問題は大丈夫なのか、という不安が出てくると思いますが、中国の人たちはそのあたりの問題についてどう考えているのでしょうか。

実は、中国では2009年あたりからネットショッピングが爆発的に普及しました。ネットショッピングの利用者は2009年の1.4億人から、「WeChat Payment」が開始される2013年までに3.1億人まで増加しました。ネットショッピングを利用する際には、個人情報や銀行口座の登録が必要となるので、「WeChat Payment」のサービス開始時には、個人情報を入力することへの抵抗は希薄になり、受け入れられやすい土壌が整っていました。

※出典: CNIT-Research(中国IT研究中心) より
※数値は四捨五入

そんな背景も後押しして、「WeChat Payment」は瞬く間に人々に受け入れられ、今では、出かける際に財布を忘れても、ケータイは絶対に忘れてはいけないと言う若者が多く現れるまでになりました。実際、ランチに行っても、タクシーに乗っても、スーパーマーケットで買い物をしても、WeChat(微信)により支払いができる場所が増えています。支払いの際に、WeChat(微信)のQRコードを出し、スキャンさせるだけ、また、店側で出しているQRコードをスキャンするだけで会計を済ませることができます。

そして、もうひとつ紹介したいのは、私も個人的に、家族、友達の間でよく使っている「紅包(Red packet)」と「转账(送金)」という機能です。

※紅包:ご祝儀やお年玉のことで、中国では昔からお祝いごとがある時に、赤いご祝儀袋を使うことからそう呼ばれています。

紅包は特定のひとり、またはひとつのグループチャットにそれぞれ「同額」か「ランダム」な金額を送ることが可能です。一方、转账(送金)は特定の一人としかやり取りができません。紅包(Red packet)・转账(送金)は友達同士の割り勘、支払いなどに多く使われています。1元以下の単位まで対応できるので、手持ちの小銭が増えたり、お釣りが足りなくなることもありません。

紅包(Red packet)は旧正月、誕生日、バレンタインなどのイベント時により多くのやり取りが発生します。最近の実績では、中国の大晦日である2017年1月27日の一日だけで実に142億個の紅包のやり取りが行われました!そして、1月27日~2月1日までの5日間ではその数なんと、460億個に達しました。

※出典:CNIT-Research(中国IT研究中心) より
※数値は四捨五入
※紅包機能は2014年1月から

また、2017年のバレンタインには5.20元(感覚的には100円前後に相当する)の紅包だけが4,589万個もやり取りされました。

※出典:CNIT-Research(中国IT研究中心) より
※520:『I LOVE YOU』 1314:『一生一緒に』 を意味する

紅包(Red packet)は、別に金額が少なくてもいいのです。遊び感覚で家族や友達と送りあうことが目的なので。バレンタインデーには、『I LOVE YOU』 を意味する5.20元や、『一生一緒に』を意味する13,14元などが人気でしたが、旧正月には0.8元、1.8元、8.88元、18.88元などの縁起の良い金額が多くやり取りされていました。

日本ではSNSを活用して、個人間でこんなに気軽に、お金を送りあうことは考えられませんよね。しかし、中国ではすでに一日に何億人もの人がやり取りを行っていますし、タクシーに乗ってもお釣りがない時などは、「WeChat(微信)で払ってよ!」と言われることもあります。

このようなモバイル決済機能は日本のように、ビジネスマンや若者のみならず、年齢や職業に関わらず、幅広い層に一気に受け入れられています。中国でWeChat(微信)が独自の進化を遂げた背景には、こういったモバイル決済機能の存在がありました。日本でも、近い将来、SNSでお年玉を送りあう日がやってくるかもしれませんね。