「本を買えない人」も未来の書店の大事なお客さま

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『編集会議』最新号では、書店を取り巻く特集を組んでいます。お客さまが街の本屋に期待していることは何か――。売り場を活性化すべく、ユニークな試行錯誤を続ける山下書店大塚店の出沖慶太氏。日々、本の売り場という最前線でお客さまと向かいあう店長が考える、「いま本屋にできること」と「未来の本屋のあり方」について聞いた。

あるおばあちゃんのこと

先日、店に一本の電話がありました。「欲しい本があるんだけど、家まで届けてくれない?」とおばあさんの声でした。

人員的な事情から配達サービスは基本的にやっていなかったので、最初は丁重にお断りしようと思っていましたが、話を伺うと、私が休憩中によく利用するコンビニが1階に入っているマンションにお住まいとのこと。

それならばと思い、「①配達日時のご指定はできかねること(大体1週間ぐらいを見てほしい)、②お支払いは現金のみとさせていただきたいこと、③お届けに上がるのは配達に行く直前に店から電話をするので、そのときにご在宅であった場合のみとさせていただきたいこと」の3つだけご了承してもらいたい旨をお伝えすると、「いいわ、ありがとうねえ」と喜んでくださいました。

数日後、ご所望の本が届き、電話でお客さまのご在宅を確認し、配達へ行きました。玄関のインターフォンを鳴らすと、細く「はーい」と、おばあさんの声。しかし1分、2分経っても誰も出てくる気配がありません。

おばあさんの声は自分の聞き間違えだったのか、3分経った頃にもう一度インターフォンを鳴らそうか考えていたところ、ほどなく玄関先に出てきたのは、3年ほど前まで、週2~3回お店に来てくださっていた見覚えのある常連のおばあちゃんではありませんか。

玄関先に出ることさえ難儀するほど弱々しくなっていたおばあちゃんの姿は、ショックでした。本屋に来ることができない人も、現在はネット書店で本が手に入る環境は整っているから大丈夫だと安易に考えていた自分がいたこと、店からこんな近くに本を読みたくても読めない人がいたこと。

真剣に向き合わないといけない課題を眼前に突きつけられた気がしました。

雑誌の売り場が語ること

新刊・話題書、文芸、人文、ビジネス、コミック、コミック文庫、文庫、新書、雑誌、地図・ガイド、実用書、児童書、資格、語学、文具……いままで私が携わってきた担当ジャンルです。それぞれに面白みや難しさがあり、どうしたら売上が上がるのかを考えていく過程で、退屈さを感じるジャンルは一つもありませんでした。

しかし一番長く携わったからでしょうか(6年)、最も思い入れがあるジャンルは「雑誌」です。書店の雑誌売り場は「毎号決まった雑誌を購読される常連のお客さま」が、目当ての雑誌をすぐに見つけられるよう「いつも同じ場所に同じ雑誌を置くこと」が基本です。

そのため、雑誌売り場の配置やボリューム感が、ときにその店の客層や街の地域性を如実に語り始めることがあり、他の書店さんを見学する際も、雑誌売り場はいつも興味深い場所です。

2017年1月末、2016年の雑誌売上は19年連続の前年割れで、41年ぶりに書籍売上を下回る見通しであると、出版科学研究所が発表しました。

我々書店としては、苦戦している雑誌売り場のジャンルレイアウト修正はもとより、文庫や新書、文具や雑貨など、POSジャンルとしての雑誌にとらわれず、お客さまに寄り添った提案商品を随時投入していく必要があります。

同時に、情報濃度の高い雑誌売り場をミニフェアのような形で店内にちりばめながら、お客さまの非計画的購買意欲を喚起する店づくりをしていきたいと考えています。

……「書店の棚構成はどのように決めているのか」「いまの時代だからこそ書店にできること」「いま本屋で本を買わない人こそ大切なお客さまである理由」など、続きは『編集会議』2017年春号「本屋会議」特集をご覧ください。

山下書店 大塚店 店長
出沖慶太 氏

2005年入社。渋谷南口店、渋谷東口店、渋谷南口店、新宿西口店、東銀座店、大塚店、半蔵門店を経て大塚店。好きな作家は、安部公房、上野友行、上原善広、中村文則、山田芳裕(敬称略・五十音順)。

 

『編集会議』2017年春号は「記事論」「メディア×働き方」を総力特集
 

◇ヨッピーが語る「“編集”の価値とはなんぞや」
◇改めて知りたい「ネイティブ広告ハンドブック」
 

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