「スキルこそがメディアの最大の価値」、米国メディアのトレンドを現地取材

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日本を先行しているアメリカのメディア界では、どのような変化が起こっているのか。激動するメディアの震源地とも言われるニューヨークで話を聞いたのは、Jeremy Caplan(ジェレミー・キャプラン)氏。昨年刊行された『デジタル・ジャーナリズムは稼げるか』の著者 ジェフ・ジャービス氏とともに、メディアの未来戦略について提言をするキャプラン氏は、ニューヨーク市立大学ジャーナリズム大学院で教育担当ディレクターを務めている。「メディアにとっての最大の価値は、彼らが持つ“スキル”だ」と語る真意とは。
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Photo:GION

—今回は、アメリカにおけるメディアの最新事情についてお伺いできればと思います。まず、最近顕著なトレンドとしては、どのようなものがありますか。

メディアを取り巻く変化は激しいので、本当にさまざまな潮流がありますが、いくつか象徴的なトレンドがあります。まず一つは、狭いテーマにフォーカスしたメディアが増えているということです。

「AXIOS(アクシオス)」や「The Marshall Project(マーシャル・プロジェクト)」、「The Outline(アウトライン)」など、最近アメリカで勢いのあるメディアに共通して言えるのは、他のメディアがまだやっていないことを明確に打ち出して、自分たちのポジションとしてのオリジナリティを確立していることです。

ここ数年で台頭していた「Medium(ミディアム)」や「BuzzFeed(バズフィード)」、「VICE(ヴァイス)」などは、広いテーマをカバーし、より多くの読者を獲得することを重視していましたが、先に挙げたメディアは、ターゲットとする読者をはじめから絞っています。

メディア全体で見ると、いまお話ししたような、ニッチなテーマを掲げることで深い読者を開拓しようとしているメディアと、大きなメディアとしてどれだけ読者を拡大できるかに注力しているメディアとで、対極化が進んでいます。

大きなメディアとして存在感が際立っているのは、やはり「The New York Times(ニューヨーク・タイムズ)」です。「ニューヨーク・タイムズ」の有料電子版の契約者数は、2017年1~3月期で30万人以上増え、これは四半期として過去最高の増加数です。彼らは昨年の大統領選を契機に有料購読者が増え続けており、「The Washington Post(ワシントン・ポスト)」にも同様の傾向が見られます。

—メディアのマネタイズに関しては、どのようなトレンドがありますか。

マネタイズの観点で言えば、これまでのように目先の利益を上げることばかりではなく、長期的な収益源をどのようにしてつくっていくかという考え方にシフトしています。ご存知の通り、いまや多くのメディアが乱立していて飽和状態にあります。

多くの読者に記事を届ける、それによって広くリーチすることによる広告収入の拡大は限界を迎えつつあります。広告に依存したマネタイズが難しいことから、メディアに対する“忠実な読者”を確保して、新たな収益源をつくろうという動きが活発化しています。

“忠実な読者”というのは、一言でいえば、情報の価値に対してきちんとお金を払ってくれる読者です。たとえば、「マーシャル・プロジェクト」は、銃の規制をはじめとする刑事司法に関する報道に特化したメディアですが、そうしたテーマに問題意識を持っている読者のパッションが収益源となっています。

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ジェレミー・キャプラン氏 (Jeremy Caplan)
ニューヨーク市立大学ジャーナリズム大学院 アントレプレニュリアル・ジャーナリズム・コース 教育担当ディレクター。タイム誌やニューズウィーク誌で記者・編集経験があり、「アントレプレニュリアル(起業家)ジャーナリズム」教育の第一人者。いま米国のメディア・ジャーナリズム業界で注目されている人の一人。 Photo:GION

—それは、これまで無料で読むことができていたネット上のコンテンツに対し、きちんと情報の対価を払うという文化が醸成されつつあることを意味しているのでしょうか。

先に挙げた例は、読者からのサブスクリプションによって収益の一部を賄っていますが、ただそれだけでマネタイズしているメディアはありません。情報への対価を払うというのも、まだ一般的に普及している状況とは言い難いですね。とはいえ、デジタルコンテンツに対してお金を払うという考え方自体は、徐々にではありますが、根付きはじめていることも事実です。

実際に、読者から取材資金などをクラウドファンディングで募る手法は定着しつつあります。これまで単発のプロジェクトでの資金調達が主流でしたが、ここ最近は“メンバーシップ”として会員になることで、より持続的なサポートをしていく動きがあります。

メディアのメンバーシップになることで、記者にどういう記事を書いてほしいか、また記者があるテーマについて記事を書いているのなら、どんな点にフォーカスをしてほしいかなど、コンテンツの企画からかかわってもらうマインドセットを醸成していこうという動きです。

次ページ 「メディアのマネタイズの手法は、より多様化していく」へ続く

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