テレビCMの炎上が増えている背景
前回のコラムでは、テレビCMが炎上しやすくなっている昨今、炎上を起きにくくするためには顧客視点で見た際の「Authenticity(真実性)」へのこだわりが重要ではないかという話を書きました。
ただ一方で、最近の炎上事例を見ていると、もはやテレビCMなどのマス広告が炎上しないように、事前に完璧な努力をするのは難しいのではないかという考えが徐々に頭をもたげてきます。
それは、もはや現在の日本には、炎上をネットメディアがネタとして取り上げるサイクルができあがってしまっているからです。
テレビCMの炎上騒動の多くは、一人のユーザーが表現に対して問題提起することから始まります。この段階で、通常はその発言はフォロワーなり、友人の数10人~数100人が見て終わるだけですが、たまに1つの発言が大勢の人にリツイートされたり、シェアされたりする状況が発生します。
ネット上では数限りなく繰り返される行為なわけで、それだけではとても炎上と呼ばれるような状況にはなりません。ここで、登場するのが常に炎上ネタを探している、ゴシップ系のネットメディアです。
特にTwitterはリツイートが多い発言数や、急増したキーワードを可視化するサービスが多数あります。ゴシップ系のネットメディアの記者は、これらのツールを駆使して、ネット上のボヤ騒ぎを常にウォッチしています。
そこで、一部で物議を醸していたり、議論を呼んでだりしているテーマを見ると、「炎上」というタイトルで記事化するわけです。
この手の炎上報告記事には、数件のツイッター上での発言が引用される形で、炎上が事実化されてまとまります。しかし、この段階ではそれほど本格的に「炎上」と呼ぶほどの騒動になっていないのに「炎上」という記事になるケースが増えてきている印象があります。
5年ぐらい前までの炎上騒動は、どちらかというとしばらくネット掲示板やブログを中心に炎上し続けて、問題や話題の大きさが確認できた後に、数週間、早くても数日経過してやっとネットメディアや既存メディアが、総括として記事にすることが一般的でした。
そもそもよっぽどのネットウォッチャーでなければ、炎上の存在自体に記者が気づくことが難しかったですし、ネット掲示板や一部のブログに書かれているだけだと、騒動の大きさの確認も難しかったわけです。しかし、それが今ではTwitterのリツイート数や発言数を見れば、ある程度のボリュームを簡単に把握できる時代になりました。
また、こうした最近の流れもあり、テレビCMのようなマス広告に対する問題提起は、比較的ネット上で話題になりやすいテーマとなりつつあります。当然ながら、1つの表現を日本国民全員が諸手を挙げて賛成するということは起こりにくいわけです。
何度も放映されているテレビCMであればあるほど、もしくは話題になったネット動画であればあるほど、何かしらの批判や反論が起き、それに対する賛否の声が話題になることが増えているわけです。
そこで、その話題の盛り上がりを捉えて「炎上」という文字がタイトルに入った記事を他社に先駆けていち早く書くことが、一部のゴシップ系のネットメディアにとっては重要なアクセス数稼ぎの手段になっています。
実際の騒動の大きさは別として、「炎上」とタイトルに入った記事を読んだ読者は、当然その騒動を「炎上」している前提で読むことになります。そして対象になっているテレビCMや動画広告を炎上している前提で視聴し、「これはダメだろう」「これはアリだろう」という感想を投稿することになります。
そうするとネットメディアの記事がきっかけとなり、ネット上でさらなる論争が拡がることで、炎上のサイズが拡大してしまうというスパイラルが始まる可能性が高まっているわけです。さらに、現在ではネットメディアの炎上記事がヤフートピックスに取り上げられたり、大手新聞系ネットメディアやテレビ番組に取り上げられたりするスピードも上がっており、スパイラルが拡大するリスクも高まってしまっていると言えるでしょう。
ペヤングの異物混入騒動や、PCデポの高額解除料騒動のような企業側の対応に何らかの問題がある炎上騒動であれば、炎上を回避するための方法は、「顧客が怒るような対応をしない」「顧客が怒るような問題が実際にあるので、あればそれを真摯に取り除く」という比較的、シンプルな王道があります。
しかしテレビCMのような広告コミュニケーションの表現を起点とした「炎上」を確実に回避するのは、前述のようなメディアの環境変化を踏まえると、かなり難しくなってきていると考えた方が良いのかもしれません。
そんな時代において、企業の宣伝部やマーケティング部は広告表現に対して、どのように考えれば良いのか。そこで重要となるのは、「炎上」した後に、どう対応するかという姿勢でしょう。
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