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FinTechは小売業にどのような変化をもたらすのか?オイシックス 奥谷孝司氏に聞いた

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月刊「宣伝会議7月号(6月1日発売)」では、「FinTechの浸透で変わる マーケティング戦略」を特集。決済行動や人と人とのお金のやりとりのスタイルが変化することで、マーケティングがどう変わるのか考えます。本記事では、小売業のマーケティングにFinTechがもたらす可能性について、オイシックス 執行役員 統合マーケティング部 部長の奥谷孝司氏に聞きました。

現金を介さない決済が購入へのハードルを下げる

「スターバックス タッチ(現在は販売終了)」。

FinTechの浸透が小売業に与える影響で、最も注目しているのは決済に関するイノベーションです。それによって消費者に「シームレスな購買体験」を提供できるのではないかと考えています。

※本記事は、6月1日発売の『宣伝会議』に掲載されている記事を抜粋したものです。

消費者の体験を想像してみましょう。店内に入り、自分の欲しい商品を探して、レジまで運ぶ。そして現金やクレジットカードで支払うという旧来からの体験。それが例えば、アプリに搭載された決済機能で、スマートフォンをかざして購入するという体験に変化しています。

さらに「AmazonGO」の世界観のように、専用アプリをダウンロードすれば、商品を選んで、そのまま店舗を出ると自動的に決済されている、という未来が見えてきました。

私は毎朝、iPhoneだけでスタバの支払いができる専用ケース「スターバックスタッチ」でコーヒーを買っています。自動で3000円チャージされて便利ですし、毎朝買っても、実際のお財布の中の現金は減らないわけです。現金を介さない決済は、少なからず購入へのハードルを下げています。小売業にとって、モバイル決済に代表される新しいテクノロジーを導入した「シームレスな購買体験」の提供は、購買意欲を高めるという重要なカギになるのです。

ただ消費者側も決済行動が見えなくなることに、当然ながらリスクを感じています。出費がかさまないように意識することはもちろん、安全性や信頼性、そして使いやすさを求めます。そうした消費者側からの課題をクリアしなければ、FinTechは普及していきません。すでに米国では、新しい金融テクノロジーを普及させていくための過程を調べた学術研究があります。それによると、アーリーアダプター層はサービスへの「知識の有無」で導入を決定しますが、レイトマジョリティー層は「使いやすさ」が判断基準になるようです。

家計簿アプリが普及していくなかで、ノートに家計簿をつけ続ける人もいるわけで、サービスを広めていくためには新しいサービスがどう普及し、受容されていくのかの研究が必要です。企業側が課題を正しく把握し、解消できるかが試されます。

顧客をリアルタイムにターゲティング可能に

FinTechの浸透は、小売業のマーケティングにとってチャンスです。それは消費者の購買データと行動データの両方を、取得できる可能性があるからです。

例えば、私がスターバックスで決済アプリを使って購入した後、タクシーに乗って渋谷に向かったとします。そのタクシーの支払も、同じアプリを使います。すると、スマートフォンは位置情報も取得しているため、アプリを提供している企業は、コーヒー購入後に私が渋谷まで移動したことを認識できるわけです。従来のクレジットカード会社もコーヒーを購入し、その後にタクシーを利用したことまでは分かりますが、位置情報までは取得できませんでした。そこでFinTechサービスを提供している企業が、私が渋谷に着いた瞬間に近くの店舗のクーポンをプッシュ通知できるかもしれません。精度高く、リアルタイムに顧客をターゲティングできる世界が実現するのです。

この「行動データ×買い物データ×サービス利用データ」の掛け合わせに、私は期待を寄せています。商品購入だけでなく、電車などの交通機関など、さまざまなサービスの利用にもおいて決済が伴います。そうした情報が連携されて、見えてきたカスタマージャーニーの価値は高いはずです。さらに購入商品と金額を分析することで、定価で買う人、割引価格に反応する人といった志向も分かり、広告のメッセージ開発にも使えるでしょう。オムニチャネルとは、リアルとオンライン上をシームレスに行き来する考え方です。決済がシームレスになれば、自然とチャネルもシームレスになっていくでしょう。

ただし小売業側の視点から見ると、願わくは決済機能を提供するFinTechサービス企業には決済手数料を下げてほしいです。もし下げられないのであれば、さきほどの掛け合わせデータを提供し、小売業のビジネスチャンスを増やしてほしいと考えています。

小売・サービス業のマーケターならいますぐ検討を

未来の店舗には、レジがないかもしれません。コンビニやスーパーのような商品の選択肢が多い業態では、商品や価格の組み合わせが複雑で、実現に向けたハードルの高さがあるでしょう。それでもサービス業であれば、すぐに実現できる可能性は高いと考えています。たとえば、スーパー銭湯やフィットネスジム。これらの業態は施設内に入れば、サービスを利用することが確定しており、価格帯もほぼ決まっている。入店時か退出時に決済をシームレス化し、見えなくするのに適しています。

良いこと尽くめのFinTech。消費者にとっても決済の利便性が高まります。そして、「お金を使っている」という感覚の減少が小売業側のメリットになるかもしれない。さらに、小売業側は蓄積されたデータをマーケティングに活用できる。もっと言えば、お金を運んだり、店頭で受け取ったりといった、物理的な制約からも開放されていく。

決済手段の検討は、企業内の経営企画室などで検討されることが多いですが、消費者への購買体験への影響も大きいことから、マーケターも関心を持つべきテーマだと思います。それによって購買の瞬間から逆算し、どういう情報を提供すれば購入につなげられるのか考えられるはずです。マーケターは主に「AIDMA(アイドマ)」の「Desire(欲求)」を抱かせるまでが仕事でした。これからは「Action(行動)」を見ていく必要があるのです。

それはマーケターとして、すごく面白い体験なはず。FinTechに取り組むことは、マーケターの可能性を広げる機会になるでしょう。

オイシックス 執行役員統合マーケティング部 部長 COCO(Chief Omni-Channel Officer)
奥谷孝司氏

1997年良品計画入社。3年の店舗経験の後、取引先の商社に2年出向しドイツ駐在。帰国後、企画デザイン室を経て、衣服雑貨部カテゴリーマネージャー。「足なり直角靴下」を開発し、ヒット商品に。2010年WEB事業部長。「MUJI passport」のプロデュースで第2回Webグランプリ Web人大賞を受賞。2015年10月にオイシックス入社。2016年10月より現職。