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ベストセラー編集者が語る「他人と差をつける勉強論」

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あらゆる編集者にとって仕事そのものとも言える「勉強」。取材や著者とのやり取りにおいても、編集者の知識や見識の広さ・深さが仕事のクオリティを左右する大きな要素になる。ではその「勉強」をどのように考え、実践するべきか。
Text : 長谷川リョー

業務時間の半分は勉強してみよう

私にとっての勉強とは、自分の生産性やパフォーマンスを上げようとする行為のことです。では、ビジネス書の編集者の生産性は何で決まるかと言うと、①アスピレーション ②マーケットの理解度 ③コンセプトをつくる力の3つだ、というのが持論です。

本の商品としての成功は、著者側の要因を除けば、この編集者側の初期設定でほぼ決まると思っています。原稿が来てから、ゲラになってから頑張るのではなく、事前にどれだけ①~③の向上、つまり勉強に時間を割けるかが勝負の分かれ目になるのです。

アスピレーションは、「志」や「憧れ」「目標」と言い換えてもいいかもしれません。これが正しくないと、売上だけを目的に、世の中を悪くする本もつくってしまいます。

私の場合は「日本一のビジネス書の編集者になる」というものなので、法律から会計、最新のテクノロジーまで、ビジネスに関することはできる限り把握しておきたいと思っています。もし仮に「日本一の税金の本をつくる」ことが目標ならば、税理士の資格を取ってみたりと、アクションも変わるはずです。

マーケットの理解とは、要は社会で評価される価値の本質や大きさを把握することです。具体的には、すでに発見されているテーマ、ニーズ、読者についての市場規模を理解する。そして、新たな読者層を発見するたびに、その読者が次に求めるものは何かと考えるようにしています。

コンセプトについては、「本の価値を凝縮した言葉」あるいは「本のつくり手による世の中への宣言」というのが私なりの定義です。タイトルは事後的にもつけられますが、コンセプトは企画の最初から存在すべきものです。力のあるコンセプトは、読者を惹きつけるだけでなく、著者の頭の中で化学的な反応を引き起こしてコンテンツを一気に完成させる力すらあります。

話を戻すと、私が思う編集者にとっての勉強は、①~③を強化し、磨き上げること全てです。読書もネットサーフィンも人に会うのも、どれも勉強になります。毎日多くの情報に触れることになりますが、「目指す理想の編集者はどんな知識を持っているべきか?」という意識があれば、関連する情報が自然と引っかかってくるようになるはずです。

その上で、情報のなかから価値の発見と洞察を繰り返す。そして自分ならどんなコンセプトにするかを考える。これらの繰り返しの回数をいかに増やせるかがポイントです。

その意味では、私の言う勉強というのはトレーニングに近いのかもしれません。よく何かに習熟するためには、1万時間の訓練が必要だと言いますよね。例えば1日に約3時間の情報収集をすると、1年間の蓄積は1000~1500時間ほどであり、1万時間に到達するには6~10年を要します。

自分の過去を振り返っても、直感的に企画の良し悪しを判断できるようになったのは30歳くらいのときです。ですから編集者としての成長を第一に考えるなら、業務時間の5割以上を勉強に充ててもよいくらいだと思います。

その時間に具体的に何をすべきか? 何でもいいと思いますが、自分はやはりネットを見ていることが多いです。単純に情報が早く探しやすいということもありますが、ネット上にある知識の総体が、真の意味で本の競合だからです。

読書量は1週間に1冊読む程度と、20代のころと比べるとかなり減りましたね。ただ、本の構造やストーリーについては、やはり本から学ぶのが一番なので、若い人には多読をお勧めします。難しい本でも、その価値やコンセプトが推し量れるので目次だけは見ておくといいと思います。

編集者として避けたほうがいいと思うのは、ヒットした本ばかりを読んだり、研究したりしてしまうこと。それをやると、売れていることの表面的な理由を真似することに陥りがちですし、自分のアスピレーションやマーケットへの感覚を鈍らせることになります。

自分だけのアスピレーションを定め、マーケットの理解を深めながら、コンセプトを立てていく。この繰り返しが、私にとっての勉強なのです。

※本記事は、『編集会議』最新号に掲載されているものです。

ダイヤモンド社
横田大樹 氏

ダイヤモンド社所属の書籍編集者。担当書に『フリーランスを代表して申告と節税について教わってきました。』『起業のファイナンス』『自分のアタマで考えよう』『ゼロ秒思考』『統計学が最強の学問である』など。