伝えることは難しくなっているのに、もっと好きになってほしい

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広告コミュニケーションが複雑化する中で、求められる本質は、持続する「物語」と記憶に残る「体験」だ—。悩める広告人に向け、現場の経験と言葉で、広告の本質を読み解いた『物語と体験』(宣伝会議 刊)が、全国の書店・オンライン書店で販売されています。本記事では、東急エージェンシーのクリエイティブユニット「TOTB」の河原大助氏が執筆した「第1章 物語」について紹介します。

マスメディアが強力な影響力を持った時代においては、ブランドのつくった「物語」を企業が広告としてつくり、大量に放映し、繰り返し見せることによって、物語を構築することがある程度可能でした。しかし、今日、そのような力技はなかなか通用しません。

一方で、顧客による「推奨」に対する期待は、日に日に高まっています。推奨によるメッセージは、広告よりも信頼性が高く、人々の行動に影響を与えるからです。言う間でもなく推奨は、生身の人間が自分の意思によって行うからこそ価値を持ちます。そのためには、ブランドに対する特別な感情を持ってもらうことが必要です。しかし振り返ってみれば、毎日のように使用しているブランドでも、特別な思い入れのないものが大半だったりします。

「伝えることは難しくなっているのに、もっと好きになってほしい」。

これが、今日広告・マーケティングの仕事の難しさだと思います。

「推奨」を広まりやすくする手段は、SNSをはじめ日々進化しているものの、わざわざ自分の時間や労力を使って、縁もゆかりもないブランドを「推奨」する、ある意味、奇特とも言える行動を引き起こすには、エネルギーがいります。その核となるのは、「物語」と「体験」であると考えています。

ここで言う「物語」とは、CMやボディーコピーといった、コンテンツの内部で語る物語に限りません。ブランドが、ステークホルダーとのあらゆる接点で、「実践・行動する」ことによって具現化していくものと考えています。

書籍『物語と体験』の中では、ポップアップストアや、イベントなど様々な接点で、ブランドのビジョンに基づいた「物語」を顧客が主役となって体験する場をつくり、その体験をコンテンツとして広め、物語を実践していった事例を紹介しています。

ここでは、物語とはどのようなものであるべきか、についてもう少し考えてみます。

顧客に「推奨」を行ってもらうには、ブランドが自分の物語を自分語りするだけではなく、語り手である「顧客にとっての」物語にしていく必要があります。顧客が「自分にとってそのブランドが大切なものである」と意識できる物語です。

そして顧客にとっての物語を、より深いレベルのものとしていくためには社会の集団的意識を捉えていく必要が出てきています。社会という大きな枠組みの中で、「社会課題」という「敵」が登場すると、顧客とブランドは巨大な敵に立ち向かう「協働」関係になり得ます。同じ方向を見る仲間のような関係が生まれるのです。そうすることによって、物語は、より大きな推進力を生み出します。売上を上げる物語よりも、社会をよくする物語のほうが多くの場合パワフルです。

さらに、忘れてはならないのがブランドの視点です。どんなに感動的で、社会的に意義のある「物語」であったとしても、そのブランドである必然性をまったく含まない「物語」は、広告・マーケティングの手段としては、十分に機能しません。物語と接したときに感じた共感が、ブランドに触れたとき(店頭で見た時、街で見た時、実際に使う時など)に、頭の中で、物語として再生されることが特に大切です。

顧客の視点、社会の視点、ブランドの視点。この3つを射抜く「物語」こそが、今日の広告・マーケティングにおいて追求すべきものではないでしょうか。広告・マーケティングの仕事は複雑で難しいものになっていますが、混沌を乗り越え、新たなものを生み出すために、「物語」は欠かすことのできない本質的なもの、と考えています。

河原大助 (1章担当)

1976年生まれ。株式会社東急エージェンシー入社後、マーケティングコンサルティングへの出向、マーケティング局、クリエイティブ局コミュニケーションデザイン部を経て、2014年TOTBを立ち上げる。ブランド戦略、製品開発、クリエイティブに至るまで統合的なディレクションを得意とする。2016年ONESHOW SILVER、D&AD GRAPHITE、2017年広告電通賞優秀賞、2018年ADFEST SILVERを受賞。

 

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