マーケティングの先生は協賛企業だった
—国技館の開催は衝撃的でした。しかも、大スポンサーがついて。イベントの中身も仕組みもダンス界にとっては画期的だったと思います。格闘技の殿堂で、戦いに向かうダンサーの姿が本当にかっこよく見えました。
カンタロー:ナイキさんと一緒に取り組んだことは僕らにとっても大きな成長の機会で、マーケティングについてもたくさん勉強しました。最初に契約料を「一億円です」と言ったんです。僕はダンスアライブにそれだけの価値があると思ったし、将来必ず大きくなるこのイベントに初期に協力してくださったということが企業の方々にもプラスになると思っていました。さすがに驚かれましたが、数千万円で契約して頂けた。
絶対にそれ以上の価値を提供しようと思って、色々なチャレンジをしました。まず、当時ダンサーがはいているシューズはアディダスが全盛でしたが、ナイキを最大勢力にすることができました。決勝の国技館に出るダンサーにはこちらからシューズを提供して全員ナイキをはいてもらう。すると、影響力のあるダンサーのファッションを、生徒やファンが追いかけていく。
ダンスアライブはバトルのエントリー時に自分がどんな靴を履いているか、どんな携帯を使っているか、どんな音楽を聴くか…、というようなアンケートに答えることを、ダンサーに協力してもらっているんです。それを、マーケティングデータとして企業に提供していく。もちろん、場内でCMも流しますし、商品を触ってもらえるブースも用意する。企業との間でどのようなKPIを設定し、どうすれば、企業が協力しやすい形になるのかは、いまでも常に考えています。それが、結果的にダンサーに賞金や演出という形で還元できることになるので。
—それだけのビジネスマインドを持っているダンサーは稀有だと思います。ダンサーの口からKPIという言葉が出たのは初めてです。企業の方々はダンサーにどんな価値を見出していると思いますか?
カンタロー:企業がダンスを使うというのは、やはり若者へのアプローチを考えてのことが多いと思うのですが、ダンスをやっている子がクラスで一番最先端の子であり、周りに影響力があると説明しています。実際に、音楽やファッションに敏感で、人前で踊ることができるということは目立つ子なのは間違いないと思うんです。
—普通はチケット収入をビジネスのベースにすると思いますが、イベントのブランド力を向上させて、ブランド自体も商品と考えてビジネスを拡大させていったんですね。その後、ワールドカップへと展開していったのはなぜですか?
カンタロー:ダンスアライブはダンサーがダンスでスターになる場所にしたいという思いがあったのですが、なかなか世間一般に届くようなスターが生まれませんでした。そのために、より舞台を大きくしたかったんです。ある時期からマンダムさんとお仕事させて頂くのですが、その過程の中でアジアでのイベントも何回か行い、その経験で世界大会のようなものをできるのではないかと思ったこともあります。
そこで、2013年に最初のワールドカップの決勝をシンガポールのマリーナベイサンズで開催しました。世界中のダンサーが憧れる場所になるようにとシンボリックな場所でやりたかったからです。さらに、翌年は台湾で決勝を開催しましたが、イベントとしては満員になりましたし、大会も非常に盛り上がったのですが、その熱がなかなかアンダーグラウンドからメジャーなところまでは広がっていきませんでした。
—完全なスポーツでもなく、作りこまれたエンターテイメントでもないので、既存のメディアも取り上げにくいのかもしれませんね。
カンタロー:ダンスを広げるためにSNSなどが機能しているのは確かですが、やはりメディアの力は必要だと思っています。自社制作でテレビ東京系列の番組「DANCE@TV」を放映していたこともありますが、規模の小さい我々では体力的に厳しかった。今はDEWSというダンスニュースを扱うメディアの運営などを行っていますが、メディアプロモーションは課題ですね。
ここ数年は挑戦的な事業を行うために投資家の皆さんからのご協力もあって四億円程度の資金調達をしましたが、それも返さなければならないものなので、プレッシャーはあります。
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