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日本人には会議を進めるOSがインストールされていない?【ナガオ考務店・長尾彰さん】

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プロジェクトにおいてファシリテーターが果たす役割とは?

前田:組織形態がリーダーシップに影響を与え、リーダーシップの在り方がプロジェクトの意思決定に影響を与えるということがわかった上で、もう一つ聞きたかったことがプロジェクトにおけるファシリテートの機能についてです。以前、この対談企画で、Googleで人材開発に携わっていたピョートル・フェリークス・グジバチさんとプロジェクトにおける会議をテーマに対談させて頂いたことがあって、ここで「プロジェクトマネージャーやリーダーには、ファシリテートの能力が求められる」というお話があったんですが、長尾さんが関わっていらっしゃるプロジェクトで、ファシリテーターとしての長尾さんはどのような役割を担っていらっしゃるんでしょうか?

長尾:会議を取っ掛かりにしてお話しましょうか。会議は、「共有」→「発散」→「収束」→「決定」のという枠組みで基本的に設計します。参加者が不満を感じるような会議の多くは、「共有」の事前準備が足りていないことにあります。足りていないからうまくいかない。ゴールとその達成プロセスをデザインをしないまま、「とりあえず会議しよ」、となっちゃう。これはおそらく、学校教育の中で話し合いの学習や話し合いの手立てや手続きの技術や方法論を学んでいないことに拠っていると思います。例えばロータリークラブやライオンズクラブなど、国際的な団体ではロバート議事法という、議事進行の規則があり、会議を進めるための細かい手順が決まっています。これが日本だと学級会や委員会活動といった特別活動の時間に「話し合いの作法」を学ぶことが限られるため、会議を進めていくために必要なOSを持てていないのではないでしょうか。

前田:「共有」の事前準備が足りないこと、会議を進めていくための手続き、OSを持てていないということですね。それがファシリテートによって解決されるということでしょうか?

長尾:ファシリテートとは、物事を「支援する、促進する」という意味を持ちます。「支援」なら、会議を例にとれば、場のしつらえや、資料が整っているかどうかの確認、それと意思決定する人をちゃんと決めるといったことがあります。「促進」なら、会議を進めていくために必要な情報提供や時間管理、行き詰っていたら休憩を入れるといったことを行います。

前田:つまりファシリテーターとは、会議を円滑に進めていくための進行補助役といったイメージでしょうか。これは会議に限らず、プロジェクトを進めていく上でも有効な機能というか役割のような気がします。一つ気になるのは、ファシリテーターが利害関係のない第三者であれば、AとBいずれかの選択肢があった時、いずれにも肩入れしないでいられる、というかいそうあらねばいけないと思うんですが・・・

長尾:僕は完全に中立な立場、というのはあり得ないと思っているので、「私はこう思うけど、皆さんはどう思いますか?」と提示・提案します。そうやって、話し合える場を動かしていくんですね。

前田:ではファシリテーターが最も機能するプロジェクトのフェーズ、段階はありますか?

長尾:ファシリテートが果たす役割や意義は、フォーミング期におけるものが9割だと思います。フォーミングというのはタックマンモデルという集団が発達するプロセスを4段階に分けて考えるフレームワークです。

フォーミング期にはチームが形成されたばかりで、メンバーが互いのことをよく知らず、自分が何をすべきかよくわかっていません。与えられた指示や目標に向かって、とりあえず行動している状態。誰かがなんとかしてくれるという他メンバーへの依存度が高かったり、「これを言っても大丈夫かなあ」と心理的安全性が低かったり、会話が「Should」で語られていたりするといった特徴があります。

前田:賢者風リーダーの口ぐせの「~しなければならない」が、リーダーだけでなく、個々のメンバーにもあって、それが行動や思考をしばっている感じですね。

長尾:ちなみに、フォーミングの次に進むストーミング期では、メンバーに「私だったらこうするのに」「私はこうしたい」という意見やアイデアが出てきます。そうやって個人の主張や意見が出てくるので、対立・衝突・混乱が生まれてきます。

前田:長尾さんの『完璧なリーダーシップはもういらない』でこの4つのステージを紹介されているのを拝読して私も感じましたが、プロジェクトはこのフォーミングからストーミング期に移行するタイミングでもっとも炎上している気がします。

長尾:フォーミングからストーミングへとチームのステージを移行するには、コミュニケーションと情報の量が必要になるので、フォーミングの会議においては、いかにその場のメンバーにリラックスしてもらえるか、どんなアイデアを言っても大丈夫なんだという環境をつくること、つまり心理的安全性を確保することが大事です。そうなるように会議をファシリテートしていく。


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