潜在ニーズを探る「仮説設定アプローチ」で睡眠ビジネスを考える(蛭川 速)

share

眠れぬ国民性からビジネスチャンスを探る

マーケティング支援を行うフォーカスマーケティング 蛭川速氏によるコラムです。

2017年の流行語大賞では「睡眠負債」というキーワードがノミネートされましたが、日本人の睡眠時間が短いと言われている今日この頃、睡眠ビジネスが活況を呈しています。生活者の時間に関する統計データをもとに、睡眠ビジネスについて誰のどのようなニーズに対して着目したら良いのか、仮説設定をしたいと思います。

特別無料セミナー開催

詳細はこちら

 

1.世界と比較した日本人の睡眠時間

経済協力開発機構(OECD)の発表する2018年の統計によると、比較可能な28カ国の中で日本は断トツの最下位で、OECD28カ国平均より1時間も短いことが確認できます。ほとんどの先進国と比較しても大差をつけられており、世界的に見て日本人の睡眠時間が極端に短いことが分かります。

では性年代別に見てみるとどうでしょうか?

2.社会生活基本調査から睡眠時間のトレンドを掴む

社会生活基本調査は、生活者が何にどのくらいの時間を費やしているかを測定している統計調査で、5年に1度実施されています。平日の平均時間で比較すると、意外にも男女とも50代前半(50~54歳)が最も睡眠時間の短い年代となっています。

20代と30代は、若いので睡眠時間を削って生活を楽しんでいるというイメージがありますが、実態は、男性20代は60代と同じくらい長い睡眠時間をとっています。女性20代はなんと70代前半と同水準の長さです。しかも20代と30代は10年前、20年前の同年代よりも睡眠時間が増加しています。40代を境に、年齢が上がるほど睡眠時間が減少傾向になっているのが非常に興味深いポイントです。若者が睡眠時間を確保し、中高年が短くなるという傾向が窺えます。

では中高年、特に50代の男女は何故睡眠時間が短いのでしょうか?

10年単位で最も睡眠時間が短い年代をピンク色で塗ってみると意外な発見があります。

前述のとおり2016年、男性では50代前半が最も短い睡眠時間でしたが、10年前の2006年は、現50代前半の人達が40代前半であった425分が最も短い年代でした。さらに20年前の1996年は、現50代前半の人達が30代前半であった432分が最も短い年代でした。つまり睡眠時間の長短は、50代になると睡眠時間が短くなるといった純然たる年代に影響を受けるものではなく、人生を送ってきた世代に依存するものと考えることができます。現50代前半の人達は常に短い睡眠時間で人生を過ごしてきたということです。

現50代前半の人達というと、20代をバブリーに過ごしてきた人達です。こうしたバブル時代の人達は、遅くまで仕事をし、寝る間を惜しんで夜遊びしていた年代というイメージがありますが、そのように考えると合点がいきます。20代で身についた生活スタイルが50代になっても抜け切れず短い睡眠時間となっているという仮説です。50代前半男性は「いくつになってもパワフルに寝る間を惜しんで活動しているが故に睡眠時間が短い」と考えることができます。

ちなみに女性は男性の世代論とは異なります。女性は結婚、出産、子育てと、男性よりもライフイベントによる生活の変化が激しく、世代よりもライフステージに影響を受けるためではないかと考えます。男性は大学卒業、就職以降に生活スタイルが変わる大きなライフイベントが少ないのです。故に就職当初の生活スタイルが変わらずに今でも睡眠時間が短くアクティブに活動しているのではないかと考えられます。ある意味大きな環境変化もなくこれまでのやり方を変えずに済んできた、恵まれた世代とも言えます。

3.バブル世代のワーキングスタイル

バブル時代と言えば、栄養ドリンクのCMの「24時間戦えますか」というフレーズが有名ではないでしょうか。睡眠時間を削って仕事や付き合いに没頭すべき、という社会通念のようなものが背景にあったと考えます。まさに「イケイケどんどん」の時代を過ごしてきました。

そんなバブル世代の仕事時間を、現在の30代前半と比較してみました。

左のグラフは30代前半と50代前半の行動種類別の平均時間です。折れ線グラフは50代前半の平均時間から30代前半の平均時間を差し引いたものです。折れ線グラフがプラスのものは50代前半が多くの時間をかけているもの、マイナスのものは30代前半が多くの時間をかけているものといえます。50代前半は仕事とテレビ・ラジオ・新聞・雑誌がプラスになっています。30代前半と比較すると、50代前半のバブル時代の人達は、寝る間を削って仕事時間を捻出していることが分かります。

右グラフは仕事にかける時間を時系列に示したものです。10年前、20年前は、30代前半の方が50代前半よりも仕事に費やす時間が長かったのですが、直近の2016年では逆転しています。現50代前半の人達は、バブル時代に当時の50代前半よりも長時間働き、今は30代前半よりも長時間働いているのです。なんて仕事好きな世代なのでしょうか。

博報堂が2年に1度実施している生活定点調査では、生活者の意識・行動両面の時系列変化をトラッキングすることができます。性年代別のクロス集計をExcelファイルでダウンロードできるので、時系列の意識の変化を掴むのには最適です。

生活定点を年代別に比較してみても同様の傾向が読み取れます。30代と比較して、50代は「基本的に仕事が好き」の項目で5ポイント、「仕事を家に持ち帰る」の項目で6ポイント高い数値を示しています。その反面、時間的ゆとりも確保しているのが興味深いところです。50代は、子供が成人を迎える年代で子育てが一段落します。自分自身の時間を捻出できる年代です。そうしたゆとりある時間を仕事に割いているということが読み取れます。

4.アクティブに活動するバブル世代

バブル世代の人達が時間を費やしているのは、仕事だけなのでしょうか?

全国都市交通特性調査は、生活者の自宅からの外出する割合や外出目的場所への立ち寄り回数、交通手段などを調べている統計調査です。50代の外出率は、平日は30代・40代と大きな差はありませんが、休日は30代が約6割なのに対して約7割の人が外出しているという、50代の方が外出する割合が顕著に高い傾向が見られます。

また休日のトリップ数(移動回数、例えば自宅から職場を往復すると2トリップとなる)でも50代が最も多いことがわかります。仕事のある平日だけでなく休日も自宅以外に移動している人が多く、しかも複数箇所立ち寄っているアクティブな状況が確認できます。

5.睡眠に関する不満

では50代の睡眠は問題ないのでしょうか? 睡眠の不満に対する回答で、他の年代と顕著な差が出ています。男性30代・40代は質より量に不満をもっていて、睡眠時間は多くとれれば良いという考えが大勢です。眠る時間さえ確保できれば問題が解決します。対して50代・60代と年齢が上がるほど、熟睡できない、何度も目覚めるといった質的な不満が増加していきます。女性はどの年代も量より質に不満をもっています。この点は世代論より性別や年代の特性が強いと考えられます。

6.まとめとニーズ仮説

睡眠時間が最も短い世代は、50代前半のバブル世代の人達でした。中でも男性50代の睡眠時間が短い理由は、世代特性の可能性が高いことが特徴です。バブル時代に20代を過ごした50代前半の人達は、いまでも短い睡眠時間でアクティブに活動しています。睡眠時間そのものに対する不満は小さく、「短時間でもぐっすり眠りたい」という潜在ニーズ(仮説)を抱えています。

そのような50代男女へ向けては、短時間の睡眠でもしっかりと休養できる肌着(リカバリーウエア)やサプリメントをプロモーション展開していくことが有効と考えられます。

プロモーション訴求は、「やすらぎ」や「心地よい眠り」を前面に出すのではなく、あくまでも「明日もアクティブに活動するために、短時間でもパワーチャージできる」というアプローチが良いでしょう。

もう1つは、女性特有の睡眠特性を解明し、課題解決を提案することも検討課題として挙げられます。男性よりも睡眠時間が短い要因を深掘りし、女性の眠りにフォーカスすることで大きなビジネスチャンスがあると考えます。

蛭川 速

フォーカスマーケティング 代表取締役社長。大学卒業後、地方銀行を経てマーケティング専門のコンサルティング会社へ勤務。以来18年間、商品企画や販売促進などマーケティング支援を行う。2012年より現職。「マーケティングは仮説設定が全て」が信条。定量データから戦略仮説を見出す手法を考案。著書に「マーケティングに役立つ統計の読み方」「よくわかるExcelデータ分析入門」がある。

 

顧客の潜在ニーズを探る!
マーケティング仮説のつくり方 ~定性・定量データからエッジの効いた仮説を見出す~
日時:2019年1月18日(金) 19:00~20:40
講師:フォーカスマーケティング 蛭川 速
 

詳細はこちら

「マーケティングはやってみないと成否は分からない!」
唐突ですが20年以上、マーケティングの企業支援をした中で、私が最も痛切に感じていることです。当たり前のことと感じると思いますが、マーケティングを実務展開する上で改めて認識をしてほしいのです。

例えば、「前年に売上高が増加したから今年も同水準の売上が計上できる」ということは、確証が得られていることではありません。

また新商品を開発する、新たな機能を付与する、ネーミングを考える、価格設定をする際に、実際に販売してみないとマーケティングが有効に働くかどうか分からないというのが現実です。

実施する前に「絶対大丈夫だ!」という特効薬のような、完璧なマーケティング施策は存在しません。全ては仮説であって、マーケティングに携わる方は、日々『価値の高い仮説』づくりをしているという前提に立つことが必要なのです。本講座ではマーケティングに特化した仮説設定のアプローチ方法について学んでいただきます。

Follow Us