言葉を磨くのにお金はかからない
人と違うものを作る。そのときに特に武器になるのが「言葉」です。言葉は映像をあらゆる角度から助けてくれます。セリフ、ナレーション、キャンペーンタイトル、着地のコピー、そこに鋭いコピーがあればコミュニケーションはぐっと質が上がります。しかも言葉は、お金をかけずに永遠に磨き続けることができます。編集の最後まで言葉に関してはいつも考え続けています。
震災の直後、僕はビームスの広告で「恋をしましょう」というコピーを作りました。あの当時は言葉にとても慎重にならざるをえず、使える言葉はすごく限られていました。何を言っても響かない気すらした。そして世の中は絆という言葉でいっぱいになりました。
ビームスは何をすべきか。しばらくとっかかりが見えなくて困り果てていたとき、ふと、ビームスって「ビーム=光線」の複数形だと気づいたんです。それで、「もっと、光を。ビームス」というコピーを書きました。その瞬間、いいものができたと思ったのですが、3分も経たないうちに「あれ? もっと光をと急に言われても、どうしたらいいかわからないよな」と思いました。そのコピーで人が動く感じがまったくしなかったのです。もっと世の中が明るくなって、人が動くようなコピーにしようと考えて「恋をしましょう」という言葉にたどりつきました。
リー・クロウ氏は、「優れたブランドは自分のことを語らず、自分の愛するものを語る」と言っています。本当にそうだなと思います。これはいつも自分に言い聞かせるようにしています。そうしてないとすぐに忘れてしまうくらい現実の作業の要求は現実的だということでもありますが。
もうひとつオリジナリティをもたらすポイントは、視点を大きくするということです。消しゴムのCMで、よく消える。消しカスが出ない、と語るのは誰にでもできる。でもそこで何かを学ぶことの価値を語ると少し戦っている場所が変わる。教育という視点でもいいかもしれない。そうすることで問題提起もできるかもしれないし、守るべきものを伝えることもできるかもしれない。ビームスの広告で僕はそのことを学びました。
新しい地図の2人を起用したサントリーのオールフリーのCMは、また少し違う感覚になりました。表現こそ王道メジャーなものになっていますが、感覚的には、新しい地図というコミュニティとの関係のなかでどうあるべきか、ということを考える時間のほうが長く感じました。新しい地図の広告を、サントリーのオールフリーというメディアを使ってやる。みたいな意識逆転の芽のようなものがありました。これは実はとても大きな意識の変化で、メディアとクリエイティブの関係の変化なのかもしれないとも思います。
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