日本の広告界を代表する210名のアドバイザーが参画をし、いま日本の広告界が議論するテーマを持ち寄り、企画される「Advertising Week Asia」。そのアドバイザリーボードのメンバーたちが今、日本の広告界が向き合う課題、そして希望についてリレー形式で語っていく。
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もう一度、熱狂の広告業界を創るために必要なこと
【執筆者】
イグナイト 代表取締役社長
「Advertising Week Asia」エクゼクティブ・プロデューサー
笠松良彦氏
博報堂において媒体・制作・PR・イベント等、コミュニケーション戦略全体を統括。電通に移りメディアマーケティング局チーフ・ストラテジストとしてメディアプランニングを中心に実施。電通とリクルートのジョイントベンチャーであるMedia Shakers代表取締役社長を務めた後、電通のコミュニケーションデザインセンターを経て2010年7月にイグナイト設立。2006年カンヌ広告祭メディア部門プロモライオン受賞。
デジタルは、マーケティングの一部の機能である
最近、「デジタルマーケティング」という言葉がよく使われますが、私は個人的にはこの言葉自体が間違っていると思っています。デジタルはあくまでも「マーケティング」の大きな概念の1領域にすぎません。
かつてデジタルがないとできなかったこと、例えば膨大な顧客IDの管理、IDから顧客の行動履歴や状況を分析し理解すること、個人の嗜好に対して、ある程度最適なリコメンドがることなど、デジタル登場前は、人力で実現するには無理があったことが簡単にできるようになった「領域」が生まれただけで、“デジタルだけでマーケティングが完結する”わけではないからです。その意味では、デジタルはマーケティング上の強力なツールではあるけれども、それだけで全てを解決するものではないということです。
広告業界からアフターデジタルの世界を変えよう
その一方で、デジタルが社会にもたらすインパクトは、従来のマーケティングの概念を大きく上回る革命に近いインパクトがあることも事実です。私は昨年、数回にわたって、中国のデジタルトランスフォーメーションの実態視察に行きました。テンセント、アリババ、平安といった企業や、実際にサービスを立ち上げた方々とお会いして、お話しをする中で痛感したのは、「日本はいつのまにか、マーケティングの世界でも中国に先を行かれてしまった」という実感です。
最近になって、ようやくOMO(Online Merges Offline)という概念や、アフターデジタルの世界について、日本のマーケティング業界の一部で語られるようにはなりましたが、実践という観点では、ようやく最初の一手に手をかけ始めているというのが実情だと感じています。
その一番の差は「マネタイズポイント」と「プロモーション(投資)ポイント」のタイミングや考え方の差です。ビジネス全体の中で、どこで「マネタイズ」するのか?そのためにどこで「プロモーション(投資)」をするのか?さらに言えば、その投資が、「顧客の体験価値・ロイヤリティを上げるために使うのか?」「単なるプロモーション(お得や値引き)に使うのか?」を考えているかいないかの差です。