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コラム

パーソナライゼーション時代-メディア企業のマーケティング戦略

メディアを根本から変える!? マーケティング理論の刷新とエマージング・テクノロジー

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現出しつつあるテクノロジーをどう使いこなすか

それではパーソナライゼーション時代にふさわしいメディアへと変革を果たすため、いまメディア企業に必要なものとは何か。そこで鍵となるのがエマージング・テクノロジーだ。PwCではメディア産業に大きな影響を与える要素技術として、以下の8つのエマージング・テクノロジーを指定している。そのテクノロジーとは、以下の8つである。

① VR
② AR
③ ブロックチェーン
④ IoT
⑤ AI
⑥ ドローン
⑦ 3Dプリンター
⑧ ロボティクス

この8つの中でも特に、VR、AR、ブロックチェーン、AIはメディアにも大きな影響を与えると考えられる。特に既述のようにメディア業界が最も注目すべきキーワードは「パーソナライゼーション」だと考えられることから、その文脈でのエマージング・テクノロジーの取り込みは業界にとっての最重要事項のひとつになるだろう。

ここで具体的に先の8つのエマージング・テクノロジーを取り入れたメディア企業の変革の仮説を提示したいと思う。

仮説①:
同時配信が可能になり、5Gインフラが整うと、コンテンツの付加価値サービスとして様々なVR/AR活用型のビジネスモデルを持つプレイヤーが出てくると予測されている。現状のメディア企業は既述のように新聞社がAR技術を活用して新聞紙面とモバイルを紐づけているが、全く新しいプレイヤーのビジネスモデルが現状のディスラプターになる可能性もある。顧客の体験をベースとしながらも、テクノロジー・オリエンティッドなビジネスアイデアを事業構想化することがますます必要になる。

仮説②:
視聴者の囲い込みという文脈では、日本の放送局は後れを取っている。特に、放送外収益の一つの柱であるイベント事業では参加者の行動実態や、現場での決済機能をデジタル・トランスフォーメーションできていない。イベントのような顧客の顔が見える現場では、フェース・ツー・フェースのタッチポイントがあるにもかかわらず、原始的なチケット販売が多く、顧客データが集りにくい構造になっている。

また、決済手段もチケットと連動させたポイント使用などアナログ決済が多く、こちらも貴重な行動データが集められていない。例えば、参加者のプライバシーを保護しつつ参加データを集め、同時に決済機能も担保する手段としてブロックチェーン技術の活用などは大きな可能性をはらんでいる。ブロックチェーンの改ざん困難性はプライバシーを保護するし、仮想通貨発行機能を使えばその発行トークンを活用した決済も同時に行える。

ブロックチェーンのCRMは情報の秘匿性が高いため、各局は個別にCRMプラットフォームをつくらなくても共同のプラットフォームをつくり、そこに参加する形で各局が個別のモジュール型アプリケーションを構築・運用すればコストの面からも効率がよい。このアプリケーションを活用して集まった顧客の行動データは将来の放送局のパーソナライゼーション事業の基礎となりうる。

仮説③:
メディアの将来像を規定する際に最も重要なキーワードの一つが「パーソナライゼーション」だとすると、顧客体験をいかにデータベース化し、それに基づく個々のユーザーの個別の価値をどのように分析するかが非常に重要なファクターになる。既述したように、消費者の購買行動は「分布する」のだという前提に立ち、視聴ログやコンテンツの購買履歴をもとに、その人の嗜好性や価値観をセグメントして、それらに基づくリコメンデーションをしていくというスタイルが基本となる。

現状では「協調フィルタリング」などを活用してパーソナライズド・リコメンデーションを実施しているプラットフォーマーが多いが、メディア産業もその方法論のみならず、さらにAIの機械学習やディープラーニング機能を活用してユーザーが気づいていない深層に存在する価値観や嗜好性までも予測したリコメンデーションを行うまでに進化すると、未来のメディア市場での優越的ポジションを築ける可能性が高い。

数十年前に確立された「分布」に注目したマーケティング理論が、パーソナライゼーション時代に技術の進化で再注目されているということが非常に興味深いと思う。固定概念にとらわれずに、まさに「温故知新」も取り入れて日本から世界に向けてメディアのマーケティングに関してのイノベーションを起こしたいと切に願う。