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コラム

NYから解説!日本企業のグローバルブランディング

オバマ前米大統領のスピーチに学ぶ リモート時代のトップメッセージ

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【前回コラム】「ジョンソン英首相の退院スピーチが心を揺さぶる理由は、8回もの「ありがとう」」はこちら

5月16日(土)米国東海岸時間8pmから行われたGraduate Together 2020。これは今回の世界的パンデミックCOVID-19(新型コロナウイルス)の拡大により、卒業式などの大勢が集まるイベントが行えない中、全米の高校卒業生に向けて行われたバーチャル卒業式だ。米国の主要ネットワーク(ABC、CBS、NBC、FOX)やSNSで同時放送され、1400万人が視聴したそうだ。

このバーチャル卒業式の締めくくりは、オバマ前大統領のスピーチ。そこに込められたメッセージは、主役である高校卒業生だけでなく、今の時代に生きるすべての人、そして人々を率いていく立場のリーダーや、社会を構成する一部となる企業にも、自分たちのあり方や、ニューノーマルを生きるために一からブランディングを見直す時なのだということを考えさせられるものだった。そして、そうさせたのは、すべての人にとって伝わりやすい、バーチャル時代の映像メッセージとしてエッセンシャル(不可欠)な要素がすべて詰め込まれていたためだ。

 

若者との共通の話題で心をつかむ

さすが「演説の名手」と言われたオバマ元米大統領。高校卒業生というハイティーンの心を冒頭からつかんだ。

「本来ならパーティをしていたはずなのに、家族と家にこもって、テレビで『タイガーキング:ブリーダーは虎より強者?!』を見ることは、きみたちの想像していた卒業式ではないだろう」という導入部は、2019年のボブソン大学卒業式でのTOYOTAの豊田章男社長のスピーチで「私は今晩あまり遅くまでは遊んでいられないんです。明日は『ゲーム・オブ・スローンズ』の最終回ですからね」と言って笑いを取ったのと同じく、ティーンエイジャーの心をつかんだであろう。

共通の話題を最初に出すこと、それは聞き手を理解した上で何を話すか考えられている証拠。自分が話したいことではなく、相手が聞きたいであろうことを主体としている、まさに相手への思いやりを持って自ら共感を示す、近づきやすさと温かさを感じる行為だ。

特に今回は、すべての人がテレビもしくはネット上で閲覧するバーチャル卒業式だからこそ、心理的距離をどれだけ近づけられるかが、スピーチの冒頭で重要になった。見事に聞き手を引き込んだと言えるだろう。

“Now, I’ll be honest with you(あなたたちには本当のことを言いますね)”と、親近感と共感を与える冒頭句から始まり、実際の卒業式ができなかった残念さに同意しながら「あの帽子はどんな人にも似合うわけじゃないんだ、もし私と同じように耳の大きい人には特に(笑)」と、自身の経験を例に出し、話を和らげているのも絶妙だ。

子どもにも伝わりやすい間合いやスピード

このオバマ前大統領のスピーチは、まさに子ども(小学生ではないが)にも分かるような話し方で人に伝えるお手本だ。

目の前に存在する卒業生に話す時のそれとは違う。それも、一つの高校の卒業生に向けたものではなく、全米の高校卒業生全員に向けたもの。よく大人向けのスピーチを「子どもにも分かるように話して」というが、本当の意味であらゆる高校生に分かるように共感を伝え、そして得て、この激動の時代に、大人への一歩を踏み出す覚悟と勇気を与えるメッセージであることが望まれる。

今回特筆すべきはPAUSE(間合い)だ。このスピーチを聞いていると、各センテンスの間に、必ず絶妙な間が入る。1秒強と言ったところだろうか。これは、聞き手が「うん」という間とぴったり一致する。この「PAUSE(間合い)」は、リモートでのメッセージ伝達には特に大事。どれだけ良い話をしていても、このPAUSEがない人の話は聞いていられなくなるのが人間だ。また、アメリカという多国籍国家、対象は高校生。幅広い種類の若者に対して、分かりやすくメッセージを伝えるには、これは欠けてはならないエッセンシャルな部分だ。

また、話し方のスピードとワード数も、高校卒業生を対象にした場合、適当だっただろう。

一般的に英語のスピーチは、1分間に120〜150ワード。120ワードだと聞き手にはとてもゆっくり感じ、150ワード以上だと早口に聞こえると言われている。

今回のスピーチの時間とワード数を照らし合わせてみた。すると、スピーチは7分26秒、単語数は1101ワード。1分に約146.8ワードという計算だ。緩急、テンポの良さ、十分な間合いなど、重苦しくならずに聞かせる計算ができていた。そして、落ち着きと深みのある張りのある声と明るい話し方は、聞く人を安心させる。また、難しすぎる言葉も表現も使われておらず、話がするりと耳に入ってくる。

話の内容はともかく、早口で聞き取りにくく、耳に心地良くないと評される現大統領のスピーチと対照的であるというのは、筆者の個人的な感想だ。

次ページ「温かで親しみを感じるプレゼンスとアピアランス」へ続く