僕の企画書は文字数が無茶苦茶少ない。パワポに1行だけ書くというスタイルをもう20年も通している。でも、お得意先にプレゼンする前のスケルトンにはもっと多くの文字が書き込まれている。ターゲットのインサイトやコアアイデアがうだうだと書き連ねてあるし、得意先が心配しそうなことへの対応策がいくつも詰め込まれている。これが最後には1行のフレーズに進化する。余計なものを削ぎ落とす作業を繰り返すのに一番時間を使ってきたと思う。
自分の言いたいことは何なのか? 引き算という名の選択が行われる。時に、それは究極の選択になる。せっかく考えたアイデアは残したい。でも、そこはバサッとやるのがいい。究極の選択を繰り返すと企画は一言で説明できるシンプルなものになる。古今東西、いい企画は一言で説明できなければいけない。
そして、このプロセスを経ると企画は強靭なものになる。なぜなら、余計な説明を省くと企画の弱点が次々見つかるからだ。裸になることで何を補強すべきか明確になる。橋口幸生さんの『言葉ダイエット』は自分が何年もかけてやってきたことをわかりやすく言語化してくれちゃった。これは参った。
世の中はコロナで大変なことになっている。緊急事態宣言下の生活を経て人々の価値観はかなり変わった。一番大きな変化は、あらゆるものに対して「エッセンシャルなものか、そうでないものか」と考えるようになったことではないかと思っている。
パーパスという概念がさらに重要になるだろう。このブランドはなぜ存在するのか、より本質的なストーリーが必要とされるようになる。余計なものを削ぎ落としてシンプルにブランドの価値を伝えることが肝心だ。引き算発想はこれからのブランディングにも役立つものになるだろう。
〚プロフィール〛
博報堂 執行役員
博報堂ケトル クリエイティブディレクター/編集者
嶋 浩一郎(しま・こういちろう)氏
1993年博報堂入社。コーポレートコミュニケーション局で企業の情報戦略に関わる。2001年、朝日新聞社出向。若者向けメディア開発を担当。同年~03年、博報堂刊『広告』編集長。05年、本屋大賞立ち上げに参加。現本屋大賞実行委員会理事。06年既存の手法にとらわれない課題解決をする博報堂ケトルを立ち上げ。12年下北沢に本屋B&Bを開業。
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