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コラム

「ダメ出し」から「ホメ出し」へ コピーライター思考の実践

褒めるときは、木を見て森も見る。

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『わたしの言葉から世界はよくなる コピーライター式ホメ出しの技術』

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この連載をはじめてから、
先輩や後輩から、
僕自身が褒められることが増えた気がします。

ひょっとして…読んでくれてますか…?
もし読んでいただいているなら、
この場を借りてお礼を言いたいです。
ありがとうございます!(←直接言え)

さて、今回も大切な話です。
褒めるときに観察が足りないと、
つい雑褒め(ざつぼめ)しちゃうときがあります。
しかし逆にいうと、
正しく丁寧な観察さえすれば、
解像度の高いホメ出しをすることができます。

実はそこには:
1 「森を見る」ホメ出し
2 「木を見る」ホメ出し

の2パターンがあります。

「森を見る」ホメ出しとは、
その人の大きな方向性や特徴、
揺るぎないスタイルなどを褒めること。

「木を見る」ホメ出しは、
その人の細かな特徴、
あるいはニッチな面を、
因数分解して、言語化して、
なるべく具体的に、
できれば多く褒める。

そして、実は森を見るホメ出しとは、
木を見るホメ出しの積み重ねの先に
見つかったりします。

高浜虚子さんの「俳句への道」という本に、
「客観写生」という手法が紹介されています。
主観を消して淡々と観察することの
意義を語られているのですが、
これは木を見るホメ出しにおいて
大切な心構えです。

そこに「我」が入ることで、
観察の精度が落ちることがあります。
とにかく目の前の相手の魅力を
見たまま、感じたままに、
ストレートに拾い上げていく。
自分の存在を消すから、
出現する相手の「美」がある。

20代のときに、あるCMを納品した日。
先輩と祝杯をあげたのですが、
「澤田くんが良かった点が3つある。
映像素材を丁寧に見たことと、
ベストな音楽を探し当てたことと、
最後のコピーを入れるタイミングを指摘したこと。
本当にありがとう」
と言われ、びっくりしたんです。
何故なら先輩が指摘した3点とは、
正に自分としては、
力を入れ、妥協しなかったポイントだったからです。
「細かいところまで、見ていてくれたんだ!」
という驚き。そしてなにより、
「色々指摘して先輩に失礼かな」
とちょっと思っていた矢先だったので、
先輩が自分のプライドとかはさておき、
ピュアに僕の頑張りを認めてくれたのが嬉しかった。

「やっぱり僕は、この3点を頑張れたんだ」
と、自分のことを再発見できたし、
この三本の木から、
ひょっとして僕は「粘り強い」「忖度せず意見を言う」、
そんなマクロな強さがあるのかもしれない、
という僕という森が見えてきたんです。
そんな自信を持てたのは、
先輩の「客観写生」のおかげです。

で、キャッチコピーにも
「木を見るホメ出し」のヒントがあります。
何故ならコピーを書くとは、
企業や商品の魅力をとにかく
細かく分解がして、
言語化することだからです。
つまり、その森にどんな木があるかを、
一本一本じっくりと見ていくんです。
例を見ていきましょう。

たとえばみんなが知っているセメダイン。
仮にセメダイン君が後輩だったとしたら、
上司であるあなたはどう褒めますか?
「なんでもくっつけて偉い!」
みたいになるのではないでしょうか。
ちなみに、今セメダインのメインに使われているコピーは、
「つくることは つけること」です。
セメダインの揺るぎない、
王道的な価値が端的に詰まっています。
つまりこのコピーは「森を見る」で書かれています。
ひるがえって、セメダインの「木を見る」なコピーは何か?
過去、こんなコピーがありました。

ビールと同じくらい、「とりあえず」が似合う。
(セメダイン)

セメダインの良さってなんだろう、
とミクロにニッチに掘っていった結果、
「代替品がない」というポイントに行き着いたのでしょう。
名作です。

ですので、前回お伝えした通り:
1 相手が自信を失っているとき
2 相手に努力の跡が見えたとき
3 自分が相手に嫉妬をしたとき

が褒めどきなのですが、
マクロに褒めるのもいいですか、
これ以上細かく分解できないぐらい、
木というよりも枝葉に着目するぐらい
細部に輝きを求めていくことをおすすめします。

例えば丁寧な仕事に定評がある後輩がいたときに、
「いつも丁寧に仕事するよね、ありがとう」ではなく、
このマクロなホメ出しを分解していきます。
「いつも抜け漏れがないか資料チェックしてくれるよね、ありがとう」
「毎朝誰よりも早く出社して、確認時間を多く取ってくれてくれるよね、ありがとう」
どうでしょう、ミクロなホメ出しは、
「自分の細かいところにまで目を向けてもらえている」
という実感も伴いませんか?
その分、印象に残りますよね。

ちなみに、「木を見て森を見る」
天才だと僕が思う人物がいます。
吉田松陰です。
言わずと知れた長州藩の思想家で、
明治維新に進んでいく日本の中で
もがき続けた歴史的人物。
「諸君、狂いたまえ」
というワイルドな発言や、
黒船に密航しようとした奇行など、
エキセントリックな人として
記憶している人も多いかもしれません。

でも、吉田松陰の凄さは、
その激しさだけではありません。

江戸末期に吉田松陰は、
かの有名な松下村塾をつくります。
教育期間はわずか一年ですが、
高杉晋作、伊藤博文、山県有朋など、
明治維新で活躍めざましい若者たちを
輩出したのです。

でも、どうして?
「ホメ出し」が効いていたんですね。

実は吉田松陰、
松下村塾から巣立っていく塾生たちに、
かならず「送序」(そうじょ)というものを
送っていました
「愛の檄文」とでもいいましょうか。

自分との出会いからはじまり、
本人の性格や長所を指摘し、
生き延びるための術があり、
決別の言葉で締める。

つまり、これは、
冷静に分析した相手の良さを
手紙という形で送る
ホメ出しなんです。

あなたは詩がうまい、策を練るのがうまい、
学業が急激に進歩した、いつか天下をとるであろう。
読んでみるとびっくりするのですが、
めちゃくちゃ細かい点を突いているんです。
つまり、木を見ている。

その送序には、
それぞれ何度も推敲した跡が
あったそうです。
つまり、この手紙で、
どう相手をホメ出しするかが、
塾生たち、ひいては日本の運命を
左右するかを理解していたのでしょう。
ああ、僕も吉田松陰さんに
褒めてもらいたかった。
この送序はネットでも見られますので、
ご興味があればぜひ検索してみてください。

客観写生、先輩の言葉、キャッチコピー、吉田松陰。
さがしてみると、ホメ出しのヒントは
日常にいくらでもあるものです。

全然ホメ出しの表現に話が行きつきませんが、
(語りたいことが多すぎる)
おそらくたぶん次回こそは。
また来週!