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「伝説の授業採集」という名でリサーチを始めてからというものここ10年、面白い問題や授業探索に常にアンテナが立っていて、何を読んでも敏感に反応してしまうようになっていたのだが、伝記についてもそうだった。
神童と呼ばれてすくすくと、そのまま何の紆余曲折もなく育って、偉人になった例はない。泣き虫だったとか弱虫だったとかいうマイナスや、貧乏や不遇と言った境遇的な逆境を克服して、世界を変える人になる。
偉人が偉人になる、そのストーリーに、人間ってすごいなと勇気をもらったり、この世は捨てたもんじゃないぞ、奇跡は起こるぞと、時代を超えて夢を見させてくれるのが伝記だが、そのプロセスで必ずと言っていいほど、登場するのが「師」である。
ヘレンケラーにはサリバン先生。坂本龍馬には勝海舟。偉人予定者が、殻を破って、偉人に化けるのを助ける。
伝記に登場する師たちの指導はそれぞれ様々で、手の引っ張り方も、才能への水のあげ方も、原石の磨き方も、わざと冷たくするやり方も、鼻のへし折り方も、師の数だけ方法がある。
今回は、そんな「伝説の授業採集 伝記篇」から1つご紹介。
それは「蝦蟇の油〜自伝のようなもの〜」(岩波現代文庫)という本の中で採集した、映画界のレジェンド、黒澤明監督が受けた伝説の授業だ。
「たくさんの師との出会い 〈黒澤明〉を生み出したすべて」と帯にすでに書いてある通り、この本ほどたくさん師が出てくる伝記はなかなかない。
実のお兄さんから小学校の先生、映画の師匠山本嘉次郎監督ほか多数の人々が、黒澤監督の師として登場する(ヒューマニティを重視する黒澤監督としては、その方々を取り上げて感謝を形にしたかったんだろう)。中でも僕が注目したのは中学の歴史の岩松五良先生。特に、彼が出題した期末試験のくだりだ。
「ある期末試験の時のことである。問題は十問ほどあったが、私には殆ど出来ない問題ばかりだった。(中略)私は窮余の一策で、十問目の『三種の神器について、所感を述べよ』という問題だけ取り上げて、答案用紙に三枚ほど勝手なことを書いた。」
せっかくなので、中学時代の黒澤監督も回答したこの問題。ここでちょっと、みなさんにも取り組んでみて欲しい。
(読者が考え中の間に、注釈を2つ書いておく。中学といっても、当時は旧制中学。年齢で言うと12-16歳にあたる。また、戦前の話なので三種の神器と言っても、テレビ、冷蔵庫、洗濯機のことではない。本物の方です。)


