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谷口マサトはやってることが奇天烈で無茶苦茶すぎだ
谷口マサトとは特に仲が良かったわけではない。歳もひとまわりぐらい違うし、一緒に仕事をやっていたわけでもない。ただ、私は彼が好きだった。人柄はよく知らないので人間的にではなく、彼の発想とそれに基づいた仕事が好きだった。でも事務的ながらたくさん言葉を交わした感じからして、人柄もいい人物だったと思う。奇天烈な表現をするのとは反対に、礼儀正しく義理堅い男だった。
多くの人同様、私が彼を認識したのは例の「大阪の虎ガラのオバチャンと227分デートしてみた」だ。今もこのタイトルで検索すると記事が出てくる。2013年5月とあるからもう7年も前。知らない人はいないと思うが念のため説明すると、映画『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』のブルーレイ発売を告知する広告企画だった。それを、熟女ブームなのでと大阪のオバチャンとのデートのレポートとして記事にし、その中で「トラ繋がり」というものすごく強引な文脈で『ライフ・オブ・パイ』の内容を紹介するものだった。
やってることが奇天烈で無茶苦茶すぎだ。これも一種の広告だが、こんなやり方は見たこともなかったので大いに気に入った。何より、手間をかけている。あとで聞いたのだが、大阪のオバチャンをオーディションでちゃんと選び、イケメンを連れて行って大阪ロケを敢行したのだ。バッカじゃないの?と手を叩きながら読ませる感覚が好きだった。
それに彼の手法にはどこかメッセージも感じていた。
この頃からすでにネットでの広告はメディアとの関係が議論になっていた。いい加減な編集の新興ネットメディアが跋扈し、しょうもない記事をひたすら連発して小賢しくPVを稼ぎアドネットワークによる広告収入を得ていた。コンテンツに質なんか要らない。そんな空気が蔓延していた。
一方「ステマ」の問題も浮上していた。有名ブロガーがさりげなさを演出しながら商品を語って、裏では企業からお金をもらっている。ブロガーならまだしも、ちゃんとしたメディアが「客観記事に見せかけた広告企画」を掲載するようになっていた。クレジットが必要ではないかとの議論もギスギス音を立てて巻き起こっていた。
