「アドタイ」読者のみなさま、オーストラリア・シドニーを拠点とするクロスカルチャー・マーケティング・エージェンシー「doq Pty Ltd(以下、doq)」の代表を務める、作野善教です。
初回のコラム「外資系広告代理店マンを経て、職なし、コネなし、カネ無しのシドニーで起業」の掲載後、読者の皆様から大きな反響をいただき、瞬間風速的ではありましたがランキング2位に入ることができました。引き続き、皆さんの貴重なお時間を頂戴して読んでいただくに値するコラムをご提供できればと思っています。
今回のコラムではクロスカルチャー・マーケティング、そして日本と海外のマーケティング・プランニングの違いに関して、日本、アメリカ、オーストラリアで広告ビジネスに携わってきた経験をもとにお伝えしていきます。
シカゴからシドニーへ移住 語学に自信のはずがDJの会話が全く耳に入ってこない!
2009年1月7日、シカゴからシドニーに移住した際、アメリカの広告代理店レオバーネット本社の実務で鍛えられた3年間で英語圏のビジネス社会で生き抜く精神力と英語力は随分と磨かれたと自負し「オーストラリアに行っても、同じ英語圏だし語学やコミュニケーションにおいては全く問題ないだろう」と自信を持ってオーストラリアの地に足をつけました。
ところが、到着した空港から宿泊施設に向かう際のタクシーに乗った際、ローカルFMラジオを聴くと、DJの会話が全く耳に入ってこないことに衝撃を受けたのを今でも強く覚えています。また、これから会社を経営するにあたり、しっかりと経営学を身につけオーストラリアのビジネスコミュニティーのネットワークを構築しようとニューサウスウェールズ大学でMBAを受講した際、アメリカで培ったディスカッションスキルを駆使して挑みましたが、どうもオーストラリア人相手にはしっくりと受け入れられず、どうしたものかと悩んだ時期もありました。
アメリカとオーストラリアを比べると、アクセントをはじめ、話し方、言い回し、コミュニケーションにおける作法やバランスが想像以上に異なり、自分がそれらに気づき調整をしながら慣れるまでに半年から1年かかったことを覚えています。
つまり同じ英語圏でも国が違えば文化やコミュニケーションは少なくともご想像されている以上、私から言わせると全く異なり、アメリカとオーストラリア、イギリスやカナダ、シンガポールのような英語圏を決して一緒くたに考えてはいけないのです。
約270の異なるバックグラウンドを持つ「オーストラリア人」がいる
それでは、それら異なる国々でどうやって自社のブランドや製品の価値を適切に伝えることができるのか、もう少し踏み込んで考えていきましょう。まずその市場の消費者・ターゲットの特性やインサイトを知ることは、マーケティング戦略立案において最も重要なステップであり、「アイデア」や「エクスキューション」と同等、もしくはマーケティングプランの方向性を定めることになることを鑑みれば、それら以上に大事であると私は考えています。
もし、あなたが日本企業に勤めるマーケターだとして、日本ではなく海外の市場で戦うとなったときに、まず肝に銘じるべきことは「海外市場では日本市場よりも多種多様の消費者セグメントが存在する」ということです。
私が住むオーストラリアを例に見てみましょう。
コロナが蔓延するまで右肩上がりで成長を続けた訪日旅行市場において、訪日中の支出額が高い『欧米豪』の中でも、オーストラリアは1人当たり旅行支出額247,868円で全市場中第1位、平均訪日滞在日数も12.9泊と長期にわたり滞在。いわゆる「上客」として訪日マーケティングにおいても重要な役割を担っていたのが「オーストラリア人」でした。彼らを取り込むために、日本から多くの自治体や企業が「オーストラリア人」をターゲットにオーストラリア市場でのマーケティングの実施を試みました。
では、ここでいう「オーストラリア人」って一体どんな人たちなのでしょうか?読者の皆様もご想像してみてください。
「オーストラリア人」と聞いて真っ先に思い浮かべるのは、スキーや旅行、お酒が大好きで、大らかで温厚、カンガルーやコアラを愛する西洋人種(いわゆる「白人」)というイメージでしょうか?
オーストラリアの国勢調査最新データ(2016年)を見てみると、両親の出生地が海外である割合は34.4%、どちらかの親が海外で生まれた割合は11.1%、つまりオーストラリアの世帯において半分弱の45.5%がオーストラリア国外で出生した両親またはどちらかの親を持つことになり、また自分自身が海外で生まれている割合は約3人に1人(33.3%)にのぼります。
国勢調査が行われた2016年にBuzzfeedが公開した「What Australia Actually Looks Like」(実際のオーストラリア人の見た目は?)を見てみると、中華系やドイツ系、南アフリカ系など約270の異なるバックグラウンドを持つ実に様々な「オーストラリア人」がいることがお分かりになると思います。
すなわち、デモグラフィック属性で分析する際、言わば日本の常識だったり社会経済的なデータ、つまり性別、年齢、在住地域、学歴、職業、所得という古典的な切り口に加え、日本のデモグラフィックではあまり注目されない人種や言語、宗教など、多種多様なバックグラウンドを考慮する必要があり、私が経験した米国、欧州、アジアパフィシックの市場でも同じことが言えます。
また人種特性や異なるバックグラウンドは、そのターゲットのサイコグラフィックにも大きな影響を与え、また彼らの親近者やソーシャルでの繋がりに大きな違いが生ずることを忘れてはいけません。「オーストラリア人」というステレオタイプな一括りのイメージで捉えて、マーケティング・プランニングに取り組んでしまうと非常に危うくとても大きな機会損失を生みかねません。
一方で、海外から見た日本市場は非常にユニークだと言えます。厚生労働省が2019年に実施した最新の人口動態調査では、出生地が海外である日本人の割合は2019年年間の出生数全体のわずか1.5%(12,724人)で、ほとんどの日本人が日本国内で生まれていることが明らかになっています。
特定の民族の割合が全人口の大多数(約95%以上)を占める国家をあげれば日本、大韓民国、朝鮮民主主義人民共和国、アイスランド、ポルトガル、アルバニア、ポーランド、イエメン他、南太平洋諸島のポリネシア系の島国などが挙げられ、グローバル市場の観点ではマイナーで珍しい市場です。こういった市場では、国民の大多数がある一定の共通リテラシーを有しているために、言語化されずとも相互理解できる「暗黙のルール」のような独自の商習慣や社会文化的要素が形成されるケースが多く、海外企業が進出する際に大きなハードルとなっているケースも少なくありません。
多種多様なバックグランドがベースとなっているグローバルの世界と、海外から見てユニークな日本の世界。少子化に伴う市場の縮小により海外市場への参入を余儀なくされる大多数の日本企業にとって、この2つの世界で形成されている文化や消費者の特徴、違いを理解することは、今後ますます重要になってくるでしょう。
私たちdoqグループでは、企業が自国で培ってきた文化やサービスの特徴を活かしながら、海外の現地特性に合わせてマーケティングの戦略立案や、実施施策の最適化をしていくことを「クロスカルチャー・マーケティング」と呼んでいます。
「これからのマーケティングはクロスカルチャーだ! ―日本人マーケターが世界で価値を伝えるには?」バックナンバー
- Withコロナの時代 海外に向けて、どのように日本を伝えていくか?(2021/4/01)
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