同じ属性の人は、同じ地区に居住する!? 海外市場「エリアマーケティング」の有効性
このコラムを読んでくださっている方の大半は日本人の方だと思いますので、今回は日本企業が海外市場で自社製品・サービスをプロモーションする場合で考えてみましょう。クロスカルチャー・マーケティングの具体例として「エリアマーケティング」の有効性について話をしたいと思います。
エリアマーケティングとは、企業のマーケティング活動において、全国均一の戦略を行うのではなく、地域(エリア)の特性に応じた戦略を展開することを言います。海外には、非常に多種多様な消費者が存在しているのですが、居住エリアは同じ属性の人間同士が集まるという不思議な傾向があります。
私が住んでいるシドニーは、まさに人種のるつぼのような場所ですが、エリアごとに明確に居住している人間の属性が異なります。
例えば、日本人はシティ中心街と郊外をつなぐハーバーブリッジの北側に位置するニュートラルベイとクロウズネストというサバーブに多く住んでおり、周辺に彼らをターゲットにした日本食材スーパーや昨今日本食レストランの多くはアジア系を含むローカルの方々をメインにターゲットされてはいますが、日本人が好むような日本食レストランも多くみられる傾向にあります。
一方で街の中心から西のほうのLeichhardtと呼ばれるエリアに行くと、イタリア系の人種が多く住んでいます。そうすると、周辺にイタリアンレストランや教会が数多くできて、街の雰囲気がヨーロッパっぽくなっていきます。実際に、シドニーで人種ごとの居住地分布を見ると、同じ国の遵守が特定の地域に集まる傾向であることが分かっています。
在住する人間の属性に合わせてレストランの食のジャンルや、製品やサービスの取り扱い店舗が偏っていき、ひとつの街を形成していく様子は海外ではよく見かける光景で、最も顕著な例が「中華街」でしょう。日本でもエリアによって街の雰囲気が異なるということはありますが、海外ではその差がより顕著なのです。そして、この海外ならではの傾向に着目して、ターゲットが多く居住しているエリアに絞ってプロモーションを実施していくエリアマーケティングは非常に有効です。
以前、私たちは日本の大手不動産開発業を手がけるクライアントのマーケティング事業に携わらせていただきました。開発中の住宅地の新規契約者を増やしたいという相談だったのですが、オーストラリアのシドニーは、世界の中でもトップクラスで不動産価格が高い場所として有名です。誰もが簡単に土地や一戸建て住宅を購入できるような価格帯ではないため、例えば「ある程度所得水準がある若いファミリー世代」といったターゲット設定だけでは、どの場所に何を宣伝すべきか最適なプロモーション計画が定まりません。
私たちは、まずビジネス中心街に通勤している社会人の目線に立って、物件から半径25km圏内に居住している人たちに絞りました。25kmは電車やバス等の公共交通機関で片道1時間くらいの距離です(東京で例えると、東京駅〜横浜、柏、府中の距離です)。家から会社まで片道1時間という通勤時間は「遠い」と感じられないひとつのボーダーラインだと考えました。
次に、先ほど挙げたエリアマーケティングの考え方を取り入れました。当時、シドニーではインド系と中華系オーストラリア人による不動産購入が最も盛んであることがニュース等でも明らかになっていました。ですので、25km圏内の中で該当する属性が最も多く居住しているエリアを割り出し、その周辺の幹線道路やショッピングモールを中心に屋外広告を集中的に掲出しました。
さらにインド系や中華系のオーストラリア人がよく閲覧しているエスニックメディアにも広告を掲出しました。エスニックメディアとはある国や地域に居住する特定の民族のためのインターネット・新聞・雑誌・ラジオ・テレビなどのメディアです。中華系の人々は、英語以外にも簡体字ができる人が多くいますから、簡体字のエスニックメディアがここオーストラリアにも数多く存在します。
当社グループでも、オーストラリア国内に住む日系コミュニティ向けに日本語媒体誌「日豪プレス」というエスニックメディアを運営していますが、各国の言語で現地エスニックコミュニティーに情報を発信しているメディアは数多く存在します。これらのエスニックメディアの特徴は転換率が非常に高いことです。ある得的のエスニックグループ(人種)をターゲットする場合に、エスニックメディアを活用することでそのグループの大半にリーチできるというユニークな特性があります。
幸いにも、住宅地の新規契約は問い合わせが増加し、プロジェクトは軌道に乗ることができました。成約者の8割以上がインド系オーストラリア人だったことからも、我々の戦略は間違っていなかったと思います。
日本の市場では「人種」という切り口でターゲットを分類することはまずありません。ましてや主要言語以外の言語で情報発信されているエスニックメディアを選定する、という視点自体がないかと思います。
ところが、多種多様な消費者が介在する海外市場においては、ターゲット設定に合わせて、日本市場では考える必要のなかった絞り込み作業が必要になることがあります。
その国の状況に合わせて施策を最適化するクロスカルチャー・マーケティングの考え方は、日本人マーケターの方が海外市場で勝負する際に今後はさらに重要な視点となるはずです。
次回以降もクロスカルチャー・マーケティングについて事例を交えながら、メソッドをお伝えしていきたいと思います。
「これからのマーケティングはクロスカルチャーだ! ―日本人マーケターが世界で価値を伝えるには?」バックナンバー
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