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上場・全国出店を経て、ひとり広報から部門長へ

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人が資産と言われる広告界。人材育成は、広告界に属する企業に共通する重要課題だ。社員のスキルを伸ばし、成長を続ける企業に人材育成の方針を聞く。

コメダ珈琲店は、1968年に名古屋市で創業したフルサービス型の喫茶店だ。地域密着を心がけ、独自の居心地の良さやチェーンなのに個店主義を貫く独特なフランチャイズシステムが特徴だという。

2016年6月には、コメダホールディングスとして東京証券取引所市場第一部で上場。2019年6月年には、全国47都道府県出店を達成した。21年2月現在、コメダ珈琲店は895店舗、グループでは910店舗を運営しているという。

またコロナ禍では、同業企業と比較し業績への影響が少ないことから、上記をはじめとした同社のビジネスモデルに、あらためて注目が集まっている。

同社の広報活動は「店舗が一番の広告塔だ」という創業者の考えもあり、広告宣伝活動を積極的に実施していなかった。

ところが2011年5月に入社した清水氏が、会社の経営体制の変遷もあり、システム職と兼任でひとり体制の広報担当となり、以降の同社の成長を推進していくことになった。

清水氏は、実は大学生の時にコメダ珈琲店でアルバイトをしていた。その後大学を中退し、自身のキャリアのために、人の差配・接客・コミュニケーションをする力が必要だと考え、引き続き数年間店長として活躍していたという。

しかし2006年報道などから「これからはITシステムの波がビジネスに広がっていくと直感し、未経験ながら長野県のIT企業に飛び込みました」と話す。その後、サービス業での社内SEを経た2011年3月に、東北大震災を経験。価値観が大きく変わったことで、キャリアの見直しを行った。転職先として再びコメダに出会うことになった。

コメダ
コーポレート コミュニケーション室 室長
清水 大樹氏

「当時のコメダは関東、関西へと店舗網を拡大している最中。まだ350店舗の規模でした。投資ファンドのアドバンテッジパートナーズが、上場を視野に全国展開を試みている時期でもありました。そのためにシステム部門の強化が必要だと言われました。コメダがもともと大好きだったことと、自分のスキルが合致したため、2011年5月に入社を決めました」と話す。

いざ入社してみるとギャップもあったという。「配属されたシステム部門は総務部内の部門であり、専任ではなく総務部の他の業務も担当することになりました」。そんな最中で、上記の経営目標の達成のために、『コメダブランドの認知を全国に拡大する』というミッションが清水氏に課されることになった。

清水氏は当時を振り返り「広報とは何か。どうすれば良いのか、相談ができる前任の広報専門担当はいませんでした。何となくTVや新聞に取り上げてもらうイメージはあったが、何から着手したらよいかがわからない、というのが最初の感想でした。そのため、まずは本やインターネットで情報を収集しました。一方で、この時期は今まで知らなかったことを知ることができる楽しい時期でもありました」という。

ただし、独学ゆえの悩みもあったという。「一通りの広報活動はイメージできるようになってきました。しかしこの頃はまだ、広報活動とはメディアに情報を発信しメディアから問い合わせがあったら対応することが仕事だと思っていました。もっと広報活動の本質を理解しないと、これからやろうとしている打ち手が正しいのか判断できない、と悩むようになっていました。広報活動を体系的に学んで深堀りし、活動したいという気持ちが芽生えていました」と話す。

そんな清水氏が、宣伝会議と『広報担当者養成講座』を知ったきっかけは、2015年春ごろだった。宣伝会議の名古屋担当からの情報交換のアプローチであり、そこで紹介を受けたという。

「この講座で、広報活動について体系的に学べるのはもちろんのこと、それを実務でどう活かすかを他社の広報担当者と情報交換できることにメリットを感じました。多くの企業は一人広報の体制が多いので、つながりが持てることは担当者にとってとても大切。その後無事に社内で承認が得られ、15年9月に『広報担当者養成講座 名古屋教室(当時)』を受講しました」と話す。

そんな清水氏に、講座で学んで印象に残っていることや、実践して成果になったと感じることを尋ねた。

「自分で調べたこと・考えたことが、間違っていなかったな、と確認できたことが一番自信につながりました。社内に広報に精通した人がいないため、これまで自分の考えが正しいのか判断できなかったことが、正しいと判断できるようになりました」という。

また講座は、これまでの学びの再確認に留まらなかった。「例えば、新聞記者の方にアプローチする際、入稿の時間など記者の方の1日のスケジュールまでは意識していませんでした。広報成果を出すためにはここまでやらないといけないのだ、という基準や深度に気付くことができました。記者の方に1日に何百本もリリースが届く中で、自社の情報に目をとめてもらうために、もっとできることがあると思えるようになりました」という。

そんな清水氏は、受講中から学びを実践し取り組んでいった。「講義で学んだ『新規性、話題性、社会性などのニュースバリューを重ねることで記者の興味を惹く』ことを実践しました。また、リリースのデザインについても、ひと目見てコメダのリリースだ、と直感してもらうために、デザインやレイアウトなどアイキャッチになるように、細かい所にも工夫をするようになりました」と話す。

リリースの発信回数を重ねるごとに発見もあったという。「文章の表現では、〇〇初という情報を書きたい時に、コメダ初・喫茶店初・日本市場初とフレームを変えることで、ニュースバリューをブラッシュアップできるようになりました。また、数字の情報について去年◯個売れました・今年は◯コ売れましたなど、記者の方の目線に立って欲しい情報の提供を心がけることで、記事が書きやすくなるように工夫ができるようになりました」と話す。

さらに新たなチャレンジも行った。「全国的に影響力のある東京のTV局や雑誌社、Webメディアに対して、メディアキャラバンとして訪問することに挑戦しました。上記のように工夫した情報を直接伝えると『こんなのは初めてです、コメダは面白い企業ですね』という反響を多くいただき、露出の増加につながりました」という。

普段スルーされてしまう情報も、担当者と顔を合わせて、直接届けることや、届ける情報はメディアにとって価値のある情報として編集することを意識する。このような活動が功を奏し、同社のニュースが雑誌やWebメディアを中心に露出が増えていった。

清水氏がこうした新しいチャレンジを続けられたのは、講義のメッセージが心に残っていたからだという。「広報責任者の方のお話で『広報は一見派手にみえますが、花火師のような仕事です。火薬を詰める等の時間のほうが長く、打ち上げる日の最高の一瞬のための下準備を、裏で地道に頑張っています』という言葉が新しいことに取り組み続ける心の支えになっていました」と話す。

2016年4月には上場の広報を経験した。

「いつもとは違う新聞、テレビ等の経済メディア対応からはじまり、通例となるストックボイスへの社長生出演、東証の鐘を鳴らす瞬間をしっかりカメラに収めることや、兜倶楽部へ上場リリースを投函する等、全てが初めてでとても貴重な経験でした。一般的には会社にとって一度しか無い機会でもあるため、人数の関係で会場に入れない社員やオーナーさんにも共感してもらえるような、コンテンツ作りと発信を心がけました。上場という成果はコメダブランドを長年支えてくださったFCオーナー様や、現場の最前線で働く店舗スタッフのおかげです。当日のメディア露出はすべてのステークホルダーにコメダの上場を誇りに思ってもらえるように意識して業務を行っていきました」と振り返る。

2017年2月には、SNSの運用を始めた。「毎年2月にキャンペーンを行っているのですが、『コメダのチョコ祭り』を話題化するためにTwitterを立ち上げました。話題化にはデジタル上で若年層のトレンドをキャッチすることが不可欠。いま世の中的には何に興味関心があるのか、トレンドは何か、を常にキャッチしないと変化においていかれてしまう、という焦りのようなものがありました」と話す。

こうしたデジタル広報を実践することで発見があった。「Webメディアは消費者と身近なコメダブランドと相性が良いことに気付けました。シロノワールやクリームソーダなどのアイコニックな商品は写真映えもよく、メディアを通した先にいる消費者が共感するコンテンツなんだと思います。

また、webニュースはひとつの記事だけ出ても、情報の海に埋もれてしまいます。SNSでのバズをフックに、10から20のwebメディアが同じタイミングで記事を発信すると、瞬間最大風速が上がって影響力が高まる。そして、さらに他のメディアにも取り上げられる。所謂、メディアがメディアを呼ぶ、という一連のポジティブな流れを経験しました。そこからは年に一度、webメディアに集まっていただく試食会を開催することを仕組み化しました」という。

こうして前向きな広報活動を続ける2017年9月、広報を専門とするグループが設立され、清水氏が部門長となった。

その時を振り返ると「担当者から部門長になることで何が変わるのか当時はよく分かっていませんでした。チームは人材豊富、というわけでもないため、自分が会社としての広報の“戦略”と“戦術”の両輪で成長しないといけない、という思いが日に日に強くなっていきました。こうしたこともあって、19年3月に『広報リーダー養成講座』を受講しました。ここでの学びが、部門長としてステップアップをするターニングポイントになりました」という。

受講で得た学びから、具体的に3つの取組みを行ったという。「まず1つ目は『数値目標を会社とコミットすること』です。経営陣に対して広報部門はこれだけ成果を出します、という説明と合意をしてから活動しないと、成果では見えにくい日々の重要なプロセスが評価されにくくなります。

アクションプランの段階で、どのぐらいの露出があり、どの程度の来店が見込めるか、という仮説を持ったうえで説明をすることで、広報活動が見える化し、社内の協力体制も以前より増し、経営陣の理解度も深まりました。また、数値目標があると具体的に施策の結果を振り返ることができるため、次回のアクションプランに活かせます」と話す。

「続いては『戦略PR』についてでした。ひとつの仕掛けだけで、戦略PRは達成されるものではなく、PR全体のストーリー構築、情報を解禁するタイミング、メディアミックスで情報が拡散する仕組みづくりや、ユーザーの共感を呼ぶコンテンツ制作などを、どう組み合わせて設計するか。PRを“点”でなく、“線”として、戦略的に作りあげていくという発想ができるようになりました。2月に実施したゴディバ様とのコラボレーションキャンペーンは今年も話題となり、これまでとはまた違う好反響が得られました」という。

「最後は『米国のPR事例』でした。広報活動が始まったのはアメリカですが、今アメリカの先進企業が広報で実践していることが、数年後に日本に来る。新聞・テレビ・Webといったメディアへの露出を追い続けるだけではなく、自社メディアで活動しているというトレンドに共感しました。自社が直接ファンサイトをもつコミュニティを持つことでこれまでにない広報成果が得られることを直感しました。早速、お客様とのファンコミュニティ『コメダ部』やデジタル版のコミュニティサイト『さんかく屋根の下』を立ち上げました。

今後も、メディアはさらに多様化し、情報は爆発的に増えると思っています。その中で、自社の情報を届ける新しい可能性を拓くことができました」と話す。

なお、21年2月現在清水氏が率いるコーポレート コミュニケーション室は、4名体制へと拡大している。また各メンバー『広報担当者養成講座』を受講している。そんな清水氏に、メンバーの育成方針について尋ねた。

「チームのマネジメントと育成については、まずは同じように『広報担当者養成講座』を受講して、広報を体系的に学んで基礎をつくって欲しいと思っています。受講後の実務での応用が重要で、既存のやり方に固執せず、常に新しいやり方がないか、考えてもらうように呼びかけています。手段の話からするほうが簡単ですが、重要なのはPRの目的は何か、ということ。そのため、いつも『どうしたらいいと思うか?』を問いかけるように意識しています。チーム全体で自分で考えるように働きかけてきたことで、各メンバーの成長スピードがとても早いと実感しています」という。

そんな清水氏だが、広報を5年担当しているからこその危機感もあるという。「どうしても名古屋を拠点にしていると、流行の最先端である東京のPRと比べ活動内容や持っている情報に差がでてきてしまいます。そのためできるだけその差を埋めるべく常にアンテナを高く張り、世の中的なトレンドや最新の情報を取り入れて、広報活動を日々アップデートしていくことを自分に課しています」という。

最後に清水氏に、これまでの振り返りと2021年の抱負を聞いた。「振り返ると、おかげさまで様々な形でコメダの取り組みをポジティブなニュースとして報じてもらえるようになりました。しかしこれは広報活動だけの成果ではありません。日本全国へ出店し多くのお客様にご愛顧いただいていることは、常にお客様と最前線で向き合っている店舗オーナーや店舗スタッフの方々が、お客様に「くつろぐ、いちばんいいところ」というコメダの店舗体験を日々、提供してくださっているからこそ。これこそがコメダのブランディングです。

本部としてまた広報としてできることは、現場への感謝を忘れず、コメダのポジティブな情報を日々発信して、草の根的にコメダファンを拡大していくことです。そうすることがコメダに関わる全てのステークホルダーの皆さんへの貢献につながるものと考えています」。

「広報はマーケティングの手段のひとつだと認識しています。これからは広報業務だけをやり続けるよりも、売れ続ける仕組みをつくるというマーケティング発想で会社全体を見てコメダに貢献していきたいと考えています。特にデジタルマーケティングの領域。

昨今DXと叫ばれていますが、今この分野をやっていかないと、古いやり方を続けていくことになる。それでは、ミレニアル、Zと言われている若い世代にコメダの店舗体験価値を届けることができなくなってしまう。時代の流れを掴んで社内に風を取り込み、新たな価値を創出する。これからのコメダブランドにとって良い進化の起点になりたいと思っています」と明快に語ってくれた。

ひとり広報から部門長へ 現在の広報チームのひととき

 

広報の考え方を体系的に習得するため、清水氏が受講した講座は……
「広報担当者養成講座」でした
 
広報業務の重要性が高まる一方で、業務の基本、また新常態で広報がカバーする分野を実務に活かせるレベルまでを学ぶ機会は少ないものです。
 
本講座は、広報に求められる資質、社内情報が集まる仕組み、報道関係者への対応など広報が身につけておきたい基本を全10回でマスターできるカリキュラムとなっています。
 
<次回の開催日程 〔オンライン開講〕>
■講義日程
第31期 2021年2月26日(金)開催
 
■受講定員
60名を予定
 
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株式会社宣伝会議 教育事業部
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