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「自分は感覚派の人間」と思う人にこそ勧めたい、アイデア発想のためのデータ分析の本 — 『デジノグラフィ』に寄せて(氏田雄介)

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「宣伝会議のこの本、どんな本?」では、弊社が刊行した書籍の、内容と性格を感じていただけるよう、「はじめに」と、本のテーマを掘り下げるような解説を掲載していきます。言うなれば、本の中身の見通しと、その本の位置づけをわかりやすくするための試みです。今回は、CHOCOLATE Inc.のプランナーで、プライベートワークでもSNSを起点に数々のオリジナルヒット企画を生んできた氏田雄介さんが『デジノグラフィ インサイト発見のためのビッグデータ分析』を紹介します。

博報堂生活総合研究所著『デジノグラフィ インサイト発見のためのビッグデータ分析』 3月5日発売 定価2,035円

「夢に出てくる亀は、分裂しがち」

これは、僕が「亀 夢見た」というキーワードでツイートを検索して見つけた法則です。もしも、みんなが見ている夢がすべて同じ世界での出来事だったら?そんな妄想から、夢の世界の百科事典をつくる「夢世界大全」という企画をnoteで連載しています。何のオチも脈絡もない夢の話でも、集めて並べて法則性を見出すことで、異世界の一端を垣間見るような壮大なストーリーが浮かび上がってくるのです。

そんな活動を細々と続けていたところ、著者の酒井さんから、この夢収集には「デジノグラフィ」の手法に通じるものがあるとの連絡をいただきました。この活動にそんな立派な名前がついていたとは……。デジノグラフィとは、検索ワードやSNSへの投稿などのビッグデータを通して人間の行動を観察する手法。アンケート調査などと違って、生の声や実際の行動記録を拾うことができるため、人々のよりリアルな無意識をあばくことができるとのこと。言われてみれば、夢はまさに無意識そのもの。アンケートやインタビューだけでは「夢の世界では亀が分裂する」なんて誰も知ることができなかったでしょう。

「亀が分裂することがわかったところで何の役に立つんだ?」と思われるかもしれませんが、これもデジノグラフィの面白いところ。ビッグデータは、データサイエンティストやエンジニアだけでなく、作家やプランナーの領域にもなりつつあります。日々大量に生まれるデータに手軽にアクセスできる時代だからこそ、それを扱う人間の視点や捉え方がより重要になるのです。

たとえば、街でふと聞いたカップルの会話から生まれた曲があるならば、ビッグデータから読み解いた人間の感情を曲にするアーティストがいてもいいかもしれません。たとえば、まだ顕在化していない人間の行動を発見し、最強のあるあるネタをつくる芸人。たとえば、「◯◯ 使い方」で検索されがちな、使い方のわかりにくい商品をリデザインするブランド。たとえば、絵文字使用率の統計を毎日とって、その日の平均顔をつくるプロジェクトなんてのも面白そうです。

データを、正解を求めるためだけでなく自由な創作に活用できると考えると、どんどんアイデアが湧いてきます。データには縁がない。自分は感覚派の人間だ。そう思っている人にこそ、勧めたい本です。

氏田雄介氏

1989(平成元)年、愛知県生まれ。早稲田大学を卒業後、面白法人カヤックに入社。2018年、株式会社考え中を設立し、企画作家として独立。著書は、ごく当たり前のことを詩的な文体で綴った『あたりまえポエム』(講談社)や、1話54文字の超短編集『54字の物語』シリーズ(PHP研究所)、迷惑行為をキャラクター化した『カサうしろに振るやつ絶滅しろ!』(小学館)など。「ツッコミかるた」や「ブレストカード」など、ゲームの企画も手がける。プランナーとしてCHOCOLATE Inc.にも所属。