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記者への「逆質問」はタブー? 麻生財務相の「マスクいつまで?」発言で考える

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コツは自分の回答を先に話すこと

「逆質問」といえば、一般に採用面接の場では“効果的である”と言われるものだ。採用面接の場合は、記者会見と違い「面接を受ける者が面接官に質問すること」が逆質問となる。

例えば「面接官に『何か質問はありますか?』と聞かれた場合に、逆質問をして自分をアピールする」と言った具合だ。このように面接官に質問の有無を聞かれた場合は、もちろん積極的に質問するべきだ。質問内容が面接官の心をグイと掴むこともあるだろう。

私は何度か採用面接の面接官を務めた経験があるが、その時に何度か、自発的な逆質問を受けたことがある。記者会見同様、こちらが“回答”を求めているのにも関わらず、質問が返ってくるケースだ。どちらも私の同じ質問に対する逆質問だったので、心に響いた例と、そうでなかった例を比較してみよう。

その面接で、私は次のような質問をした。「ワーク・ライフ・バランスが大事だと言われていますが、あなたはどう思いますか?」

これに対し、私の心を動かさなかった回答は、次のようなものだった。

「ワーク・ライフ・バランスとは、国民一人ひとりが、やりがいや充実感を持ちながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても多様な生き方が選択・実現できることだと思います。御社の社員として、このようなワークバランスの実現は可能でしょうか?」

彼は勉強家だとは思ったが、厳密には「ワーク・ライフ・バランスを“どう思うか”」の私の質問には答えていなかった。つまり自分の回答(思い)を話していない。単に、ワーク・ライフ・バランスの言葉の説明をしただけだった。そしていきなりの逆質問だ。

一方で、私が感動した回答は次のようなものだった。

「ワーク・ライフ・バランスは会社の制度としては必要です。ワーカホリックを出さないため、あるいは仕事の効率を上げるためには何らかのルールや規則は必要だと思います。しかし、私の人生のモットーはクリエイティブでありたいということです。そのため、ワークとライフは、必ずしも明確に分けられるわけではない。ワークの中でクリエイティブにもなれるし、ライフの中でもクリエイティブになれる。それらを合わせると、もっとすごい成果が生まれるかもしれない」

この後に次の逆質問があった。

「ワークとライフを明確に分けなくてもよい生き方も許容してもらえる会社であってほしいと私は願っています。面接官は、御社はそんな会社だとお考えですか?」

これらは、麻生財務相と森前会長の事例とまったく同じだ。心に響いた例はやはり、先に質問者が自分の回答を話している場合だったのだ。

記者会見の場でも、「逆質問」を逆効果にせず大きな効果を持たせるためには、まずは、相手の質問に対して自分の答えを話すことが大切。その後に、記者に対して逆質問をすれば、少なくとも悪印象を与えることは減るではないだろうか。

山口明雄(やまぐち・あきお)
アクセスイースト 代表取締役

東京外国語大学を卒業後、NHKに入局。日本マクドネル・ダグラスで広報・宣伝マネージャーを務めたのを皮切りに、ヒル・アンド・ノウルトン・ジャパンで日本支社長、オズマピーアールで取締役副社長を務める。現在はアクセスイーストで国内外の企業に広報サービスを提供している。2018年2月、『危機管理&メディア対応 新・ハンドブック』(宣伝会議刊)発売。