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独立は働き方をどう変えた? 石山寛樹×代田淳平×明円卓

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クリエイターの変化するワークスタイルやオフィスを紹介する連載「WORKERS」の番外編。今回の対談に参加いただいたのは、2020年、2021 年に独立した3人のクリエイター。独立のきっかけや今後どのように働いていきたいか聞きました。
(本記事は月刊『ブレーン』2021年6月号に掲載したものです)。

石山寛樹(いしやま・ひろき)

CAMOUFLAGE 共同代表/クリエイティブディレクター。ADK、Wieden+Kennedy Tokyoを経て、クリエイティブプロデューサーの山科考穂と、2021年1月に独立。どんな変化にも適応して、あらゆる環境のハブとなり、アイデアとエグゼキューションで世界をより楽しくすることを目指すクリエイティブ・ユニット。

 

代田淳平(しろた・じゅんぺい)

越境 FOUNDER/ビジネスディレクター。総合広告会社、クリエイティブエージェンシーを経て、2020年に企画ファーム「越境」を共同設立。ブランドが手に入れる未来へ至る道筋を、企画・牽引するコミュニティとして越境を運営する。越境ではブランドと生活者の出会いを通じて、社会を「幸せな分人」で満たし、市場をつくり出す仕掛けを開発する。

 

明円卓(みょうえん・すぐる)

kakeru クリエイティブディレクター。2014年より電通でCMプランニングやコピーライティングを軸に統合コミュニケーションプランナーして活動。2020年7月に電通を退社後、kakeruを創業。CHOCOLATEにも所属。また恵比寿のコーヒー屋「JANAI COFFEE」の代表も務める。

 

個人指名で仕事が依頼される時代に

明円:僕は2020年の春に独立を決意したんですが、きっかけはSNS経由で仕事を指名でもらうことが増えてきたからです。これからはクライアントもSNSでクリエイターを探して「あの仕事が好き」「この人に頼んでみたい」と、個人単位で仕事を頼むようになるのではと思いました。それだったら独立して、自分の名前で仕事が受けられる体制をつくるのがいいと考えたんです。

代田:確かにその流れはあって、僕もDMで直接連絡をいただくことが多いですね。その依頼に対して「もっと得意な仲間いるな」と思ったら「この人にお願いした方がいいのでは」とバトンを渡すといったことが、フラットにできるようになりました。逆にバトンを頂戴することもあり、ギルド的に仕事やプロジェクトが回っている流れがあると思います。

石山:僕は以前、エージェンシーにいたときにある企業の方からSNSを通じて直接連絡をもらったことがありました。個人的には受けたい仕事だったんですが、“会社対会社”になると実現が難しいこともありますよね。担当営業を誰にする、誰があいさつに行くんだって。そのときに「興味のある仕事だから個人だったらギャラ関係なく受けるのに」と思ってしまった。そういうことが、ストレスになったんです。自分のやりたい仕事と会社として受けるべき仕事のミスマッチがあって、これはあまり健康的じゃないから、フリーでやった方がいいと思うきっかけのひとつになりました。

代田:すごく共感します。一定のフィーをいただいて、経済的な効果の大きい仕事をして、たくさんの人が潤うことはいいことだと思うんです。でも、自分がやりたいと思ったことに対して自分でブレーキを踏まなきゃいけないとなると自分の人格が崩壊するタイミングが結構あって。そこをシンプルにしたいというのは、僕も独立を決めた理由のひとつです。やりたいと思ったことはやりたいなと。

明円:あと、辞めないことの方が、リスクがありそうだなと思ったんです。仮に辞めてチャレンジに失敗したとしても、どうにかどこかで生きていけるんじゃないかと。独立するっていうのは、ひとつのチャレンジだからひとつ旗が立つと思うんです。こういうチャレンジをするんだっていう。

代田:わかります。楽しいことをやっていればどうにかなるかなって(笑)。逃げているなら次のチャンスはないかもしれないけれど、前向きに倒れたらきっと何か新しい気づきがある。

石山:「よくコロナ禍に、リスクがある中で独立したね」とみんなに言われるけれど、僕としてはこのタイミングがベスト。5年後、10年後独立するにしても、今独立しなかったことを後悔することの方が嫌ですし、そういう人生を自分は選択できないと思いました。また30歳の時に40歳で独立しようと漠然と決めていたってこともあります。

代田:リスクっていうと、言葉通りの不確実性としてのリスクと、その先にあるダメージを一緒くたにしていることが多いと思うんです。独立すると、どうなるかを自分で決められるからリスクは比較的低いというか……。少し格好つけてみたんですが、本当はどうにかなるっしょ、という感じです(笑)。

何をしているときが自分は幸せか?

明円:独立して一番変わったのは、プライベートワークと普通の業務の境目が何もなくなったことだと思います。通常の仕事と、自分のための創作活動というのがなんとなくあって、その2つをごちゃまぜにできるようになりました。いただいたお金はなるべく前向きに使っていきたいと思っています。つくってみたいミュージックビデオや映像表現があったら、そこに投資してみるとか。

石山:僕は社会に貢献できることも模索してやっていきたいと思っています。まずは資金をプールして、いずれは、自分がやりたいことに会社として投資したい。

明円:お金の使い道を考えて、たとえば創作にお金を使うというのも、自分の会社だからできることなのかなとも思ってます。

代田:何で稼ぐか?と同じくくらいに、何にどう使うか?ということが、会社らしさにもつながりますよね。それぞれの経営の“らしさ”だとも思います。

石山:これまで会社の中でガチガチに決められていたものに対して、自分たちの裁量と目利きでいろいろなことをやっていける。独立した人は、そういう面白さを感じているのかもしれませんね。

明円:本当にそうですね。自分で生きていくために必要なことを考えるのもすごく大事なことだなと思いました。気持ちよく働くために何が必要なのかを考える。

代田:お2人の話を聞くと、“自分の幸せの定義”なのかなと思いました。それは、お金がどうこうよりも、「自分が何をやっているときが幸せなんだろう」ということで。そしてひとつに限定する必要もなくて、たくさんの幸せの定義を自分の中に持てるようになるといいなと考えています。

会社としての循環をいかにつくるか

明円:今までいい話が多かったですが、独立する一番のリスクは組織としての血の巡り、循環がなくなることだと思います。僕は今のところひとりの会社なので、自分が年を取る=会社が年を取ることになるんです。「今のCMプランニングのスキルのままで30年間食べよう」と考えているのはヤバくて、たとえば仮に今後CGやテクノロジーを活用した制作がメインになってくるのなら、そこに移行しなきゃいけないことがあるかもしれない。新しい知識やスキルをどう身につけていくのか、循環をどうつくっていくかというのは、今後の課題としてあります。

石山:今は2人の小さな会社ですが、若い人を入れようかなって思ったりしますもんね。僕は会社員時代、自分の下に誰かを付けることはほぼなかったんですけれど、フリーになって、自分の思考であと10年も働いたらもう古くなるかもしれないので。そう考えると、新しい発想や感覚の人と一緒に、自分も鮮度を保つということが必要だなと最近思ってきました。

代田:僕らの会社は3人のファウンダーを軸に、複数の方に越境というコミュニティに関わっていただいているのですが、やっぱりみんな同年代。そこで、最近インターンの学生たちを迎え入れたんです。彼ら、彼女たちと話をすることで、かなり勉強になっていることが多い。当たり前のことが当たり前じゃないというか。仕事を教えてくれるだろうっていう期待で、きっとインターンに来てくれていると思うんですけれど、むしろ逆だなっていう(笑)。

明円:社内の循環は減った一方で、出会いは増えました。僕は今、どの広告会社さんとも一緒に仕事できるようになったし、コンテンツスタジオのCHOCOLATEにも所属しているので、いろいろな会社にいるような感覚があります。独立したけれど、ひとりという感じじゃなく、変な感覚です。これからどういうスタイルがいいかは模索中で、答えがまだないんですが、走りながら考えていけばいいかなと思っています。

代田:僕は少し寂しがり屋だから、会社でいくつか場所を借りて、知り合いであればいつでも来られるようなフリースペースにしています(笑)。いろいろなコミュニティに所属することで、溶け合っている感じはします。

明円:僕もJANAI COFFEEというお店をやっていて、するとそこにいろいろな人が来てくれます。僕らの仕事は、人に出会って仕事が生まれて、新しい技術との出会いもあったりするので、その仕組みづくりだけはちゃんとしたいと思っているんです。実際にクライアントが僕の店にオリエンに来てくれたり、YouTuberさんが話しに来てくれたり。出会う場所を持っておくのは大事だなと思います。

健全に仕事ができる環境をつくりたい

石山:今後の目標のひとつとして、僕は、現役プレーヤーとして長く働きたいですね。できるだけ自分らしく働きたいと思っていて、今は映像や広告をつくることが楽しいので、また違うことをやりだしたとしても、その時間をより長くしたいんです。独立すると定年退職の概念はなくなるので、実現できるんじゃないかなと思っていて。

代田:僕は、大切にしたい人とおいしいご飯とおいしいお酒をずっと食べ続けたいし飲み続けたいなと思っています。新しい価値観との出会いという意味でのおいしいご飯とおいしいお酒を知るっていうのもあるし、いい仕事をしたら楽しめるおいしいご飯とおいしいお酒もある。いろいろな人と、そういう機会があり続けるといいなと思っています。

明円:僕は「人」とちゃんといい関係でやっていくことに尽きますね。全員が幸せになるものづくりをしていかないとヤバイと思っていて。土日返上で何徹もして、クリエイティブプロダクションの方々に仕事を押し付けたり、赤字を背負わせたり。そういう健全ではないことは全て正していかないといけないと思います。そうして初めて、人との関係性がちゃんと構築されるし、「あの人の仕事だったら頑張れる」だったり、逆に僕も「あの人の仕事だったら絶対頑張りたい」という状態になる。仲間をつくっていくのが大事だと思っています。とにかく健全にみんなが幸せになるものづくりをすることが僕の目指したいことです。

石山:仲間づくりって、すごく身に染みます。周りの人もハッピーにしながらやっていく仕事、という部分をないがしろにしてきた部分も少なからずある業界なだけに、それは僕も痛感しますね。

代田:この仕事は関わる人数が多いから、自分が会ったことのない人が喜んだり、気づかないうちに苦しんだりすることがある。このアイデアがどういう影響を与えるのか、考えることが大切ですよね。もっと想像力働かせなきゃ、という気づきも多いです。

明円:最近、プロダクションワークを初めて担当したんです。スタジオの予約、照明さんのアサイン、お弁当やお菓子の買い出し、水の手配、経理も全部やったんですけれど、「こんなにいろいろあったんだ」とやっとわかったんです。見えてなかったものがあり過ぎて。僕たちが無理な費用で仕事を受けてしまうと、発注した人全員に、「お金ないんだけれどごめんね」と言わなきゃいけない。そういうことを今まではプロデューサーさんにぶん投げていたんだなって。それは健全じゃないし、格好悪いことなんだなって思いました。

代田:ちゃんと仕切って、みんなが「おいしい」って言うご飯が当たり前にあることは当たり前じゃないというか。でも、それがあることでアイデアを考えるべき人がその場で考えることに集中できて、意思決定する人が意思決定できて、そしてみんながハッピーな雰囲気になれる。だから、「お弁当、されどお弁当」ですよね。

明円:僕たちが仕事をいただく相手はやっぱり人です。その人たちがいないとお仕事がゼロになっていくので、本当に。

石山:一つひとつの仕事のありがたみを、噛みしめながらやっていってます。それは独立して良かったことのひとつですね。

CAMOUFLAGE 石山寛樹さんの最近の仕事

日清シスコ/ごろっとグラノーラ「母と電話」篇(テレビCM)、本田技研工業/CBR600RR「Awaken the Race」(Web動画)。

越境 代田淳平さんの最近の仕事

三省堂/新明解国語辞典「考える辞書」(CDとAEを担当)、ヤッホーブルーイング「よなよなビアファンド」(CDは、越境 門井舜さん)。

kakeru 明円卓さんの最近の仕事

代表を務める恵比寿のコーヒー屋「JANAI COFFEE」、Sony Music「フワちゃんと完全リモートで新CM作ってみた」。

月刊『ブレーン』6月号

 

【特集】
企業の意志を伝える ブランデッドコンテンツ

・マンダム/ギャツビー「カッコいいは、変わる。」
・エポック社/シルバニアファミリー「Forever Your Family」
・ブラザー工業「ブラザーからくり」篇
・企業が考えるブランデッドコンテンツの定義と活用法
文:小助川雅人(資生堂)

【青山デザイン会議】
偏愛なるクリエイターたち

・イソガイヒトヒサ
・加藤優一・菅谷真央(銭湯ぐらし)
・岸本拓也