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『戦争広告代理店』著者に聞く広報観【広報会議150号記念】

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ボスニア紛争をめぐる国際情報戦にPRパーソンが深く関わる実態を2000年放送の「NHKスペシャル」をもとに描いた『戦争広告代理店』。著者の高木徹氏は今、どのようなテーマに関心を持っているのでしょうか。

※本記事は『広報会議』150号(2021年6月1日発売)より転載しています

NHK国際放送局
チーフ・プロデューサー
高木 徹(たかぎ・とおる)

1965年東京生まれ。1990年東京大学文学部卒業、NHKにディレクターとして入局し、大型番組作りに携わる。2018年より国際放送のNHKワールド JAPANの番組を担当。2020年から現職。

『ドキュメント戦争広告代理店 情報操作とボスニア紛争』
高木 徹/著 講談社 416ページ、836円(税込)
「民族浄化」報道で世界に衝撃を与えたボスニア紛争。その裏にあったPR戦争の実態を描いた。

『戦争広告代理店』のもとになった「NHKスペシャル 民族浄化~ユーゴ・情報戦の内幕~」の放送から20年以上経ちますが、今も番組づくりでPR視点を意識することはあります。

世界が評価したNZ首相の配信

コロナ禍において素晴らしいリスクコミュニケーションを実施した、と感じたのはニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相です。同国はこれまでのところ感染者数を低いレベルに抑えています。広報の皆さんにぜひ研究してほしいのは、2020年3月ロックダウンの措置を発表した日の夜、同首相がFacebookを通じて発信した動画です。「カジュアルな格好ですみません、子どもを寝かしつけていて」と言いながらも、その内容には科学的な根拠も含まれ、原稿の読み上げもしていません。未曾有の非常事態に、少しでも不安をやわらげ、共に戦おうとする姿勢が伝わるメッセージでした。

もちろんこれは誰でもできる手法ではありません。アーダーン首相は大学でコミュニケーションを専攻し、PRの仕事に就いてもおかしくないスキルがあるのではないかと思います。現職首相として産休を取得してきた経歴も活きました。国民に語りかけたこの動画は、世界を駆け巡り、評価され、コロナ禍でのニュージーランドの存在感を高めたと思います。置かれた環境、資産をいかに活かしPRにつなげるか。これは企業広報においても同様で、広報の手腕が問われるところです。

国際感覚を養う方法は

国際的にどのような価値観の変化が起きているか。その感覚を養うツールとして、アプリやVODでも見られるNHKワールド JAPANの番組は活用してもらえると思います。視聴者が世界中にいるので、国際感覚を意識して制作せざるを得ないのです。キャスターも、多様性に富んでいます。例えば時の人に鋭く切り込む番組『DEEPER LOOK from New York』のキャスター、デル・イラーニさんは、インドで生まれ、オーストラリアで教育を受け、現在アメリカを拠点に活動している女性で、多様性を体現したような人です。

SDGs関連の番組も継続して放送しています。SDGsの方向にビジネスを進めることが経済成長のプラスにつながる。そうした価値観を持つ人が増えているように思います。

私が今、関心のあるテーマはコロナ終息後の価値観。コロナ禍でDXが進み、新しい事業も生まれています。こうした変化が人類の発展にいかに寄与するのか。まだ誰も分からないからこそ興味があります。番組『The Signs』は、この大変な時代に日本で見えるそうした兆し(サイン)を取材し、世界へ発信しています。

広報の皆さんは、日々の業務の中で、あらぬ批判を受け腹が立つような経験をされることもあるでしょう。しかし見方を変えれば、日本に報道・表現の自由があるから起きている現象、とも言えます。世界を見渡せば、その自由が脅かされている国もあります。言論には言論で応じる。『戦争広告代理店』に出てくるPRパーソンのジム・ハーフさんは、そうしたコミュニケーションをとり、「報道・表現の自由という大切な価値観を守り育てる一員であ る」という誇りを持って、情報を取り扱っていました。
広報判断に迷ったときは、報道・表現の自由という価値観を守る、この感覚を大事にしてほしいと思います。


 

『広報会議』通巻150号特別号

6月1日発売の『広報会議』通巻150号特別号では、広報の実務家の皆さんに「おすすめ本」をはじめ、コロナ禍で取り組んだ改革や広報の仕事の醍醐味をご紹介いただきました。こちらもぜひご覧ください。

(広報会議150号誌面より抜粋)

特集
新サービスPRからリスク対応まで
社会の変化に対応する
「状況判断」力

これからの広報観1
周囲を喜ばせるパワーをサッカーの広報活動へ
発信後のリアクションが、成長機会になる
中村憲剛(川崎フロンターレFRO)

これからの広報観2
今や誰でも社外に発信できる時代に
広報は「オーガナイズ」する存在に進化すべき
青野慶久(サイボウズ代表取締役社長)

ベテラン広報に聞いた
取り組んだ改革、広報の醍醐味
アメリカン・エキスプレス/オムロン/サイバーエージェント/新生銀行/スクウェア・エニックス・ホールディングス/ダイドードリンコ/帝人/流山市役所/プリンスホテル/メルカリ/リスト/MSD/日本電気(NEC)/東邦レオ

著者に聞く広報観
広報は、報道・表現の自由を守り育てる一員
高木 徹(『戦争広告代理店』著者、NHK国際放送局 チーフ・プロデューサー)

これからの広報観3
どんな発信もコミュニケーションも
「伝わる」にはタイミングと選択
刈屋 富士雄(立飛ホールディングス スポーツプロデューサー)

これからの広報観4
対話で得た評判と実態の乖離を問い
無形資産づくり、ESG経営の担い手に
伊藤邦雄(一橋大学 CFO教育研究センター長)

なぜ「パーパス」「従業員エンゲージメント」に
関する取り組みが必要なのか
片岸雅啓(経済産業省 経済産業政策局 産業人材課)

CASE 中の人に聞いた
社会動向との接点を活かした
投稿事例6選
全日本空輸/太田記念美術館/日本マクドナルド/キングジム/スターバックスコーヒー ジャパン/森田アルミ工業