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コラム

マーケティング・ジャーニー ~ビジネスの成長のためにマーケターにイノベーションを~

広告の「クリエイティビティ」は抽象的でも革命的でもない

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クリエイティブの定義に隠れた政治的な「革命」への無意識

クリエイティブ(Creative)という言葉は広告業界特有の言葉です。形容詞であるクリエイティブという語を名詞的に使い、広い意味で制作する人や広告制作そのものを指しています。クリエイティビティ(Creativity)という言葉も歴史が浅く、もともと語源的には狭い意味でのクリエイション(Creation創造)という言葉しかありませんでした。これは神による創造を意味した言葉です。私たちは今、普通にクリエイティビティという言葉を使っていますが、最近は広告だけでなく、一般的な創造的なアイデア全般を含んだ言葉として使われるようになっています。

元・JWTの村尾俊一氏は広告ビジネスにおける戦略とクリエイティブについて歴史的に論じた『創造性と戦略(2021年刊)』のなかで、クリエイティビティの意味を「新しくてオリジナルなものを創り出す能力」という説明をもとに、芸術一般でのクリエイティビティと区別して説明しています。そして広告のクリエイティビティには「目的志向性と問題解決」があると指摘しています。芸術は作品自体に意味がありますが、広告のクリエイティビティは、それを何らかの目的のために使うということです。広告において戦略がクリエイティブにおいて大事なのはこの点です。

フェルドウィック氏は前述の『Why Does the Pedlar Sing?』のなかで、哲学やビジネスにおけるクリエイティビティの定義を参照したうえで「独創性(originality)と有用性(appropriateness, usefulness)」という意味を見出します。そして、この定義に対するクリエイティビティについての不満をあげています。

そこには確かに役立つ、つまり戦略的な目的志向があるのですが、それだけであればなぜ独創的である必要があるのか? 役立つだけであれば新しさは必要ないのではないか、と問いかけます。またこの語の組み合わせは審美的(aesthetics)な側面や技巧(artistry)、演出に優れているものなどは含まれていません。そしてここが肝心なところなのですが、この定義はむしろ現在、使われているイノベーション(innovation革新性)という語にとても近いということです。

広告業界で使われるクリエイティビティという言葉は、普段はたしかにイノベーションと同じように使われています。たとえば、広告クリエイターの三浦崇宏氏はそのクリエイティブの思考法を紹介した著書『Super Creative超クリエイティブ(2020年刊)』の中で、「クリエイティブの本質は、演出的なスキルではなく、革新的な変化のきっかけをつくり出すことだ」と述べています。

実際、そしてこのような意味でクリエイティブをイノベーション同義の「変革」に基づいたトーン&マナーは、日本に限らず欧米でも一般的です。カンヌ「クリエイティブ」フェスティバルや、イケてる「クリエイティブ」エージェンシーでは、「たわごとを吹き飛ばせ(Blow shit up)」といったアグレッシブなスローガンや、抽象的でユニークなモダンアートや家具に囲まれたオフィスを思い出させます。

フェルドウィック氏は、このようなイノベーションと同じ意味で使われるクリエイティビティの定義に伴う男性的で、暴力的なトーンに対しても否定的です。これらはイノベーションとしての変革に重きを置くあまり、政治的な意味合いでの革命を先導するものとして無意識に訴えかけているからです。

それに対してフェルドウィック氏が言うのは、むしろ三浦氏が表面的であると指摘する、クリエイティブの具体的な職人による「演出的なスキル」そのものがクリエイティビティの本質なのではないかというのです。

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「広告のクリエイティブの本質は具体的な独自の資産(コピー、キャラクター、フォーマット)」
へ続く