本棚を見せる収納にしたことで与えた子どもへの影響とは
松尾:僕もまだ小さい子どもがいるんですけど、こういう話を思い出しました。僕、お客さまを招くことが好きなんだけど、いろんな私物をお見せするのは恥ずかしいって気持ちもあって、自宅の収納で本に関しては“見せない収納”をずっとやってたんですよ。本棚を見られるのがすごい恥ずかしくて。
一方で、レコードとかCDはそれこそ万単位であるんですけどね。万引きされても気づかないぐらい(笑)。そこから万引きしてたMummy-Dってラッパーが、今「RHYMESTER」(ライムスター)として活躍してるぐらい。
澤本&権八&中村:(爆笑)。
松尾:こういう話をしてるだけでも全然元取れてるんですけど(笑)。だけど本に関しては、ずっと子どもにも見せてなかったんですよ。それで「親がこんなに本が好きで書くこともやってんのに、あんまり影響を与えてないな」って感じる理由はそれなのかなと思って。収納をガラス戸のものに変えてみたり、むき出しにしたりしたんです。子どもに見せたくないような本も含めて、背表紙だけでもわかるようにバッと解禁したら、それだけでもずいぶん語彙が増えたんです。急にびっくりすることを言ったりするわけですよ。「あれ、そんなコトバ教えたっけ?」って言うと、子どもが「本があったから」って。だから、極端に言うと背表紙見ているだけでも子どもには影響を与えるんですよね。
澤本:似たような話で言うと、僕は本棚隠してないんですけど、結構部屋の奥の方にあって。うちで誰もそれ読んでないと思ったら、ある時子どもがものすごい『天才バカボン』に詳しいんです。「あれ?」って思ったら、僕の本棚から勝手に引っ張り出して『天才バカボン』を全部読んでた。親が知らないうちに、子どもは影響されて興味を持って読んでる。だからいつの間にか伝わってるんだと思いますね。
松尾:そうであってほしいですね。自分もそうだったのかな、なんて思いますしね。子どものときは自分の小遣いで買えるレコードなんて限られてるから、ジャズ好きだった父親の古いレコード聞いてましたよ。「本当はもっと流行ってるのが欲しいんだ」と思っても、とりあえず家にあるのをたくさん聞いていった。それが今の財産なんですよね。さっきアーカイブスっていう言葉をお使いなりましたけど、自分の知識として。
あとは、勉強と意識しなくてインプットしたものほど、仕事で役立つものはないのかもしれませんね。さっきの質問に遅れてお答えすることになりますが、好きなことを仕事にするっていうのは、それだけで甘美な響きがありますけど、人って見たいものしか見ないから、限りなく汎用性の乏しい人間になっていくっていうリスクがある。僕は確かに好きな仕事というのは選んでる。でも、その中でも都度都度ディシジョンを求められるときは、自分にとって遠回りになりそうなものを選ぶっていうのは心がけてきたことかもしれません。それは勉強になるだろうし、遠回りしても好きな仕事ではあるかなと思って。
ショートカットばっかりでいくのは、もちろん「早く辿り着いてそこでゆっくり休めばいい」っていう考え方もあるかもしれないけど、そのプロセスで見えるものを見落としちゃうのはもったいない。東京から熱海に行くとき、新幹線で行くと早いけど、違う乗り物で行くと遅いうえに高価だったりしますよね。そういうことって人生の中でも都度あるんじゃないかなと思います。本だって、「こんなに早く読める」っていう人のことはあまり信用しない方がいいなと思いますよ(笑)。遅読の効用っていうのかな。だからこそ、各駅停車の番組が人気あるんだなと思いますしね。新幹線に乗るだけの番組なんてできないですもんね。
澤本:それは面白くないですね。
松尾:新幹線がどうしたとか、エミレーツ航空がどうしたとかって、そんなの『GOETHE』の読者だけがわかればいい話な気がします。
澤本:松尾さんってこうやって喋っていると、思ってることを文字化・文章化するのがものすごく上手じゃないですか。会話してるとそりゃ松尾さんに「本書いてみない?」って言いたいよね。
権八:確かに。もうそれも最初から感じてました!
松尾:そうでしょうか?
澤本:ただ面白いんじゃなくて、ちゃんと文章として面白くまとめて喋られるから。「じゃあ本も」って思うよね。
松尾:今日やばいな。こういうこと言われて今「うっとり汁」が出過ぎだ(笑)。
一同:(笑)
中村:松尾潔さんの新作『永遠の仮眠』。ぜひよろしくお願いします。
<END>
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