コラム

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「USP」はヘーゲル? 「超人」はバーンバック? 広告界のレジェンドを哲学で読み解く

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レオ・バーネットの個々の商品がもつ、キルケゴール的「実存主義」

次に紹介する「広告の哲学者」は、レオ・バーネット(1891-1971)です。1935年にシカゴで広告会社を起業したバーネットは、ニューヨークのマジソンアベニューの「都会的でクール」な他のレジェンドたちのアプローチと違って、より親しみやすい、ある意味で泥臭い広告を作り出したことで有名です。バーネットの有名な広告は、「マルボロのカウボーイ」や「グリーンジャイアント」のような、キャラクターが立ったものが多いのも特長ですが、それは彼がもとにした広告の哲学に基づいています。

バーネットは、商品を買うことを説得する短く覚えやすいセールストーク、というUSPを打ち出したリーブスとは違い、より個別に広告する商品と向き合う姿勢を出発点としました。バーネットはそれを「(商品に)内在するドラマ(inherit drama)」という呼び方をしています。リーブスが理性に基づいて、同じカテゴリー内の競合と比較したうえでの合理的な差別化を便益として打ち出すのとは違い、バーネットは、個々の商品(ブランド)がもともと持っているものを見出すことを主眼においたのです。

そこにはある意味、その商品が持つものが何であれ、それを的確につかまえることを主張しました。その意味でバーネットが得意としたのは、食品カテゴリーにおける「発見」で、ピルズベリーのケーキミックスでの広告において、分厚く層になった美味しそうなケーキの断面をそのまま写真でアピールする広告や、グリーンジャイアントの広告では単に「新鮮にパックされた」という元々の説明を、「月明りのもとで収穫された」というコピーに変え、商品の独特の物語を作り出しました。

このバーネットの「個々の商品の物語を見出す」という哲学は、ヘーゲルが作り出した弁証法に対して、「質的弁証法」を唱えた哲学者のキルケゴールを思い出させます。ヘーゲルが現実世界、人間世界一般の普遍的な理性の効用について語るのに対して、キルケゴールにとってそれは抽象的なもので救いにならないと批判し、より個別的、事実的な「この自分である人間」に注目したのです。

バーネットも商品カテゴリー内で争われる便益の競争ではなく、商品そのものが持つ個別的な魅力に注目することによって、それが語る物語を広告の源泉としたのです。キルケゴールは、哲学史においては、個人の生き方そのものに関わる実存主義の始祖といわれていますが、バーネットが作り出したグリーンジャイアントやケロッグのトニー・ザ・タイガーのような広告のキャラクターも、決して一般的便益に還元されることのないブランドの固有の価値を今でも持ち続けています。バーネットはその意味で、ジェニー・ローマニアックが主張する「独自のブランド資産(distinctive brand asset)」を積極的に作り出すことを当時から実践していたアドマンでもありました。

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