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コラム

澤本・権八のすぐに終わりますから。アドタイ出張所

人から役柄をつくる、今泉作品の魅力の裏側(ゲスト:今泉力哉)【後編】

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撮影当日に脚本を書き加えて、俳優にもスタッフにも呆れられた

澤本:脚本は大体どのくらいの期間で書かれたものなんですか?

今泉:結構かかっていましたね。少なくとも半年以上は書いていたかも……。頭から書くことが普段できないので、パーツごとに思いついていく感じ。古着屋で働いている主人公が自主映画に出演依頼をされるけど、撮影は素人なんでうまくいくかどうか分からない、という話が最初にあって。その前後の恋愛や、人間関係、色んな事情をあとからどんどんつけていきました。撮影の2、3週間前に一回本読みをメインキャスト集まってやりましたけど、本読みの脚本と完成した映画は全然違っていて(笑)。

澤本:へ~、違うんですか。

今泉:その段階では、まだ全然間に合っていないというか、面白くなっていなかったんです。成田凌さんもワンシーンくらいの出演でしたし。「ここからより面白くするんで!」と本読みはやっていただきました。それで製本された脚本からさらにシーンが4つ5つ変わって、ラストシーンにいたっては現場で撮影始まってから思いついて、書き起こしました。そのラストシーンを助監督さんとかに渡したら、意外と理解されなくて……。「これは面白くなるのか?」みたいな……。製本された脚本で納得していたから追加されたことでみんなを不安にさせちゃいました。

さらに、別のラストを現場で当日の朝に思いついて、台本の後ろにある白紙のページを破って、僕が手書きして、それを「役者さんに今から覚えてもらうのに、これ何枚かコピーしてきてほしい」とスタッフに渡したら、さすがにみんな呆れだして……。でもコピーしてきてくれて。普段穏やかな若葉さんも、「……これ、いつ書いたやつなんですか?」みたいな(笑)。

一同:ははは!

今泉:「今から覚えるんですか?」みたいになって。結局それは覚えてもらったけど、撮らなかったっていう(笑)。

一同:ははは!

今泉:2パターン撮りますって言っていたんですけど、実際に上映しているラストを撮ったら「大丈夫でした」みたいな。

澤本:僕は映画の脚本は書くけど、監督はしないじゃないですか。たぶん権八も監督はしないけど、CMの撮影中とかはよく思いついたことを書いて、渡しちゃうじゃない?

権八:はいはい。

今泉:あっ! CMの方も?

権八:そうですね。

澤本:僕らはどちらかというと、そうやるように教育されたというのかな。その場でもっと面白くなることを思いついたら、それを渡してやって頂く。結果として面白いものを納品するものが僕らの役割だって教育されてきました。普段のCMのときはやっているんですけど、映画の脚本は監督がいるから、できないんですよね(笑)。

権八:はいはい。

澤本:撮っている時に、「あっ!」て思うけど、僕が動こうもんなら、後ろの方から怖い目で見ている人がいるので(笑)。むしろ僕は、監督の横にいてモニターの前に座るのがCM制作のときの癖になっています。でも、映画の現場だと監督の横に座っていたら、スタッフに呼ばれて「そこにいちゃダメです」って言われたり(笑)。

今泉:ああ~。

澤本:監督を向くか僕を向くかという視線に困るから、「あなたは後ろにいてくれ」と。「じゃあ、ここに僕いても何もすることないな」って思って。

今泉:難しいですよね。現場で脚本家の方が横にいるのは。理想だけでいうと、俳優さんもそうだしスタッフも、面白くなるアイデアが思いついたとき、全員が言える環境にあれば本当はいいと思う。でも、脚本が別の場合や、オリジナルでなくて原作がある場合は、脚本家が書いたものに気をつかおうと思っています。壊さないように。でも、「出来上がりが面白くなれば」とは、ずっと思っています。CMのお仕事で言えば、2020年にちょっとだけ、JA共済の仕事をさせてもらったりしましました。

澤本:(有村)架純ちゃんのCM?

今泉:そうです。それもテレビ用の15秒、30秒じゃなくて、WEB用なんで尺も1、2分でちょっと緩くて良かったんです。なので、台本に書いてあったり、現場で用意されている後ろの部分が伸びちゃったりしてもOKしてもらえました。そこに面白さがあったりはするので、現場の空気でできたりはやっぱりあるかなと思います。ただ、もし今後15秒、30秒できっちりやる機会があったとき、間尺を必要とする自分の見せ方みたいなものが、どうしたらできるんだろうとか、考えたりもしました。すごく難しそうと思ったりしますね。

中村:『街の上で』の、あの不可思議な……「アーッ!」って叫びたくなるような感じはどう出しているのかが気になります。はじめ下北沢っていう舞台設定があって、監督が「ここを描きたい」みたいなテーマから枝葉をつくっていく書き方なんですか?

今泉:毎回「前の映画はどうやって書いたんだろう」というくらい、何のストックもなくゼロからになっちゃってすごく迷うんです。今回はどうだったんですかね……。まず、街を題材にと言われたときは、今まで人物しかやっていないから困りました。全部部屋でしゃべっているだけになっちゃうかも知れない……っていう怖さもあって、「どうやって撮ろう」と悩みましたね。そのときに思ったのは、本当に自分が知っている店や通り、自分の過ごしたことのある場所でやろうと。出てくる飲食店、カフェとか……。ほとんど自分が行ったことのある場所だったんで、それで想定して書いていきました。

そして、景色を映画に残すこと。その辺はこの映画のテーマのひとつになるだろうなと思っていました。あと、僕がつくる前後で一番興味のあることなんですけど、例えば映画の撮影や公開の日って、「ハレの日」「ケの日」でいうと「ハレの日」で、映画の中にある時間も基本的には「ハレの日」なんですよね。実はその前の準備だったり、撮影はしたけど編集で切り落とされた時間、その誰も見ることのない時間に僕はすごく興味があるんです。

映画のなかで、ひとりで過ごしているシーンって、お客さんだけが見てる時間じゃないですか。その誰も見ていない時間を映画で見せることが、ただ生きていることを肯定することになっていくなと思っています。例えば12時からオープンのお店で、11時から扉や窓だけ開放して、ひたすら準備している店員さんの様子とか。その時間に準備しているのはその人にとって日常だけど、それを窓外から見たときに「この時間って誰も見ていないかも。でも、すげえいい時間だし、いい絵になるな」と思ったんです。

「これを映画の中に残す方法ってどうしたらいいのかな。こっちの目線、カメラの位置はどうしたらいいんだろう? もしかしたら死んでいる人とか、幽霊みたいな目線がいいのかな。透明人間風にしないと撮れないのかな?」と考えたり。『街の上で』では、そんな誰も見ていない時間を撮るというのは意識していましたね。

中村:冒頭のシーンにもちょっとつながっていますよね。

今泉:そうです!

権八:女の子のモノローグみたいな。

今泉:そうですそうです!

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