コラム

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市場浸透とロイヤルティは対立しない? 顧客を開拓しながらロイヤルティを維持する方法

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収穫逓減の法則とロジャースの普及理論をベースにした市場浸透の上限

北の達人コーポレーションのECを通した商品の購入者は、適切に獲得できる場合はそのマーケティング費用は比較的小さくて済みますが、継続的に購入してもらえなければ最終的な利益向上にはつながりません。また顧客が増えていけば、ある程度まではマーケティング費用が抑えられても、しだいに獲得費用は上がっていくでしょう。

木下氏はこのマーケティングの考えを広告による収穫逓減の法則とロジャースの普及理論から説明しています。初動で買ってくれる顧客の多くは、情報感度が高く新しいものを積極的に試すイノベーター層です。この層は市場の2.5%しか存在しません。顧客を広げていくと、次に反応してくれるのはアーリーアダプター層で、少し大きい市場の13.5%を占めています。木下氏はイノベーター層の獲得費用は仮に500円だとすると、アーリーアダプター層の獲得費用は1000円にといったように上がっていく。さらにターゲット層がより大きなアーリーマジョリティ(34%)へと広がっていくほど獲得費用が大きくなると想定しています。

そして同氏は、この顧客獲得のコストの上限を決めていると言います。この上限とは、どこまで顧客を拡大して良いか、という意味の上限でもあります。なぜなら、顧客獲得コストは顧客が拡大するにつれて上がっていくからです。木下氏は顧客獲得コストの上限の根拠を、自社が利益を最大化できる市場の範囲(顧客の数)として想定しているわけです。広告の投資で言えば、最初は広告を増やせば売り上げは上がりますが、次第にその効果が少なくなっていく。それは言い換えれば顧客獲得コストが上がっていくということです。

もちろん、北の達人コーポレーションはEC事業体なので、それぞれの取引にかかる費用を把握できるためこのような説明をしているわけです。これがもし通常の消費財パッケージグッズの大企業のメーカーなら、全国のスーパーマーケットに卸すだけで人口のカバー率はアーリーマジョリティまでの市場浸透可能な50%までは達することができるはずです(もちろん営業や物流含めての総費用から、この獲得費用を割り出すことになりますので、ECほど簡単ではありません。流通のバイヤーに商品を扱ってもらうには、彼らの利益や直接的な消費者に対するマーケティング費用も含めてかかるはずですから、ECよりは利益幅が薄くなることは想像できます)。

当然ながら北の達人コーポレーションでも、購入者にイノベーター層、アーリーアダプター層とラベルをつけられるわけではないので、顧客ごとに識別ができているわけではありませんが、顧客層を広げる際にマーケティング費用が上がっていくということ自体を前提としているわけです。

このような発想は、ECだからできることではあるものの、木下氏が既存企業のメーカーと異なるのは、市場浸透にかかるコストをこのような形で顧客ごとに可視化できるため、利益が最大化される顧客の数、つまり狙うべき市場浸透度の上限を設定していることです。つまりある程度の獲得コストがかった段階で、それ以上の市場浸透は目指させないという意味でもあります。

ロイヤルティの面においても、イノベーター層、アーリーアダプター層、といった顧客のほうが確率的にも継続購入率が高いと想定できます。言い換えれば、顧客層が拡大するにつれてロイヤルティの低い顧客が増えていくというわけです。カテゴリー消費という面でいえば、ヘビーユーザーからライトユーザーに顧客層が移っていくということです。

次ページ 「ロイヤルティユーザーは市場浸透によって構造化されている」へ続く

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