成果を出すのはクライアントの仕事、広告会社は成果にコミットしなくていい!?
— 広告会社から事業会社に移られて、広告会社に期待することは何ですか?
日本の広告業界にも成果主義という考えが広がっていると聞きます。しかし、私は広告会社の仕事は、クライアントの成果にコミットにするということではないと思います。なぜなら結果を出すのはクライアントの仕事だからです。そもそも広告会社がクライアントの課題を解決する、クライアントの事業における成果を出す、と言っていても、クライアント企業が実質、大半のデータを握っていて、直接、顧客とつながっているのですから、冷静に考えると馬鹿げた発想だなと思います。
本来、広告会社には違う能力があるはず。広告会社は面白いことを考える、時代を変える、人の流れを変える、そういうことができる会社ではないでしょうか。そういう発想で生み出されたものが、例えば昔の日産自動車の「セレナ」の「モノより思い出」の広告キャンペーン。この広告では、セレナには何人の家族が乗れてここが便利なんだよといったことは謡ってない。しかし家族で思い出をつくる、そのジャーニーに寄り添いたいというメッセージがコンシューマーに響いたのだと思います。だからこそクライアントの結果ではなくて、社会への影響を考えるべきではないでしょうか。
広告会社は社会に対して影響力を持っているはずです。デジタルで細かい数字が可視化されることによって、その数字たちを達成することがゴールになっていくのはもったいないこと。広告会社に集まる人は、きっと世の中を変えることが目標だったのではないかと。就活時には、この人たちは世の中を変えているな、動かしているなと思ったから入社したのではないかと思います。
例えばナイキでは、インスパイア&エネイブルという考えで、靴ではなくインスピレーションを売っていました。人がなんらかのインスピレーションを得ると、その人たちが何かをしたいと思ってアクションを起こします。コマーシャルに靴をほとんど映さなくても、伝えたいメッセージがあって、それによって人をインスパイアしたら、その人たちはアクションを起こしたくなります。なので、それをサポートするアクティベーションを考える。そのアクションとインスピレーションを準備してキャンペーンをつくっていくということをやっていました。時代を変える、人の流れを変える、そういうことを期待したいと思います。
【オンライン“訪問”を終えて】
加藤さんとは以前ポートランドのナイキの米国本社にて直接お会いしたことがあります。そのため今回はそれ以来の”再会”となったのですが、生い立ちから新入社員時代の苦しみ、そしてアメリカでのチャレンジなどを初めて聞かせていただきました。中でも私が驚いたのが、新入社員時の経験、家族が留学生のホストファミリーをしていた経験、高校生の時に単身渡米し生計を立てながら地元の学校に通っていた経験一つ一つが加藤さんに大きな影響を与えているということでした。渡米時に最初、マイノリティであるアジア人でいることを恥ずかしいと感じていた時代から、それらの独自の体験を通じ、逆に珍しがられる新しさ、面白さに気づいたとのことです。何かの型にはまる必要はないし、周りの人の見方も関係ない。自分の中で好きなようにいたらいいんだなと教えてもらったと。最後に海外で働きたい人へのメッセージとして、自分でリミットを決めるのではなく、もっと大きく夢を見ていいと思うとおっしゃっていました。日本人にはその力があると。
玉井博久
広告会社側(リクルート、TUGBOAT)のクリエイティブと、広告主側(グリコ)のブランド構築の両方の経験を生かして、デジタルを活用した顧客体験(CX)を手掛けカンヌライオンズなど受賞多数。著書に『宣伝担当者バイブル』(宣伝会議)、『「売り方」のオンラインシフト』(翔泳社)。2015年より5年連続シリコンバレーに、2018年より3年連続CESに、深圳、イスラエル、また米中のテックジャイアント本社に足を運び最新のデジタルテクノロジーを視察。得られた知見をマーケティング、Eコマース、コンテンツプロデュースに活用。シンガポールにてASEANのECビジネスを2年で10倍以上拡大させる。2012年より日本のポッキーの、2016年より全世界のポッキーの広告を統括。ポッキーは2020年に世界売上No.1*として、ギネス世界記録™認定。
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