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コラム

世界で活躍する日本人マーケターの仕事

世界で活躍する日本人マーケターの仕事(アダストリア上海 小澤隆行さん)後篇

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【前回コラム】「世界で活躍する日本人マーケターの仕事(アダストリア上海 小澤隆行さん)前篇」はこちら

海外に出て世界で活躍する日本人のマーケターにオンラインでインタビューを実施する本コラム。インタビューを通じてコロナ禍の今、さらにAfterコロナの時代に、ブランドはどう行動していくべきか、そのヒントを探っていきます。9回目、最後の“訪問”先は、再び中国。上海でニコアンドをローンチし、中国のEコマースで勝つためにあえてオフラインに注力されている小澤さん。中国で7年間過ごされる中で感じた中国のEコマースで日本ブランドが勝つためのアプローチや、ウィズ・アフターコロナという言葉すら存在しない中国の現状についてお話しいただきました。

アダストリア上海
経営企画室長兼マーケティングEC部長
小澤隆行氏

1983年10月16日生まれ。2006年株式会社ポイント(現株式会社アダストリア)入社後、店舗での現場経験を経て、2012年にスーパーバイザーとして上海に赴任。その後、アダストリア中国北京支社長、アダストリア日本本部で秘書室長を歴任後、現職はアダストリア上海にて経営企画室長兼マーケティングEC部長。

 

Eコマースで勝つために、あえてEコマースを最初から展開しなかった

―旗艦店のローンチは素晴らしい成功を収めたとと思いますが、Eコマースはどうされたのですか?

意図的にEコマースはオープンのタイミングで開始しませんでした。Tmallのオープンは時期をずらしてやった方が良いと判断し、それよりも前に上海におけるブランドのイメージを作っていくことに注力しようと決めました。旗艦店の体制を築いてから待望のEコマースオープンという流れにした方が良いと考えたのです。

中国のアパレル小売業のEコマース構成は3割程度です。日本は1割後半ですので、倍以上あります。私も1回目の中国赴任の時に、Eコマースの広がりや影響力は感じていました。実際、中国のマーケットは、Eコマースが強く、リアル店舗が弱いという構図ができあがっています。そのため中国ではどこのモールに行ってもリアル店舗で力を入れていると感じるブランドはあまりありません。そういう状況だからこそ素敵なリアル店舗を作れば、他のアパレルブランドと差別化できると考えました。

これはニコアンドを中国事業の核にしたことにつながります。ニコアンドを選択した3つ目のポイントに、コト・体験ということをお話ししましたが、店舗ではお店の中でワークショップをや、オープン前に店内でヨガ教室をやったりしています。店舗でないと体験できないこと、Eコマースでは味わえないことを提供し、ピカピカのかっこいいお店を作り続けることができれば、勝てる要素になると考えていました。それがEコマースで勝つことにもつながると思っています。

1回目の赴任の際に携わっていた複合業態の時もTmallのお店は開いていましたが、圧倒的にブランド力が足りないので、売上を上げるためにはセールをするしかありませんでした。さらにはアリババとの交渉力もない立場でした。その結果、なかなか当社にとって旨みのあるビジネスを展開できませんでした。こうした形でEコマースを進めるのではなく、アリババに呼ばれるくらいのブランドになって彼らと交渉ができるようになること。それまでは一度Eコマースはストップすると判断しました。Eコマースに手を出すのは簡単ですが、玉石混交の環境です。さらに一度手を出してしまったら、簡単には体制を変えられないので、Eコマースには手をつけませんでした。Eコマースで勝つために、まずはリアルから勝っていくという道を選んだわけです。

おかげさまでローンチが大爆発して、ローカルメディアでも多く取り上げてもらったこともあり、狙い通り翌月にはアリババからTmallで店を出さないかと声がかかりました。そこからアリババと交渉して当社にとっても旨みのある体制を作ることができ、旗艦店オープンの半年後の2020年6月にTmallをオープンしました。

Tmall旗艦店のページ。

―中国はOMOが盛んと聞きますが、こちらへの対応はどうでしたか?

ローンチ時にリアル実店舗の運営に注力したわけですが、当然実店舗で顧客情報を取得できる準備はオープン前から始めていました。具体的には、WeChatのミニプログラムという機能を使い、実店舗での購買情報はデータとして収集できるようにしています。このミニプログラムはアプリ上で会員バーコードが表示され、それを実店舗で商品をご購入いただく時にスキャンしてもらうと、どの会員がどの商品を購入されたのかといった購買情報が個人と紐づくものです。

お客さまにとってはポイントが貯まって商品を安く購入できたり、限定商品の先行販売やワークショップに参加できるなどの特典が貰えたりするメリットがあります。その結果全体の売上の7割は会員情報と紐づけることが可能になっています。

WeChatのミニプログラムの会員ページ。

―Eコマースと実店舗はどう使い分けているのですか?

ブランドを知ってもらう、好きになってもらうのはリアル店舗の役割だと考えています。Eコマースではブランドの世界観の表現にはどうしても制限があります。スタッフによる説明ができなかったり、空気感を伝えにくかったりするものです。

店舗を通してブランドを知ってもらう、ブランドのファンを作ることができれば、その後は便利に買い物をするためにEコマースを使ってもらおうと思っています。ですので、お客さまのカスタマージャーニーとしてはまずはリアル店舗、その後にEコマースという流れを考えています。

現在、上海に2店舗を構えていて、他の地域に店舗はないので、Tmallでの売上の半分は上海のお客さまからです。まずは上海で勝つことを目指します。リアル店舗出店に比重をおきながらブランドの知名度を作り、成功体験を重ねることで、上海でしっかりと足元を固めます。それがEコマースで勝つことにつながると考えています。

―他にEコマースで勝つためにも今から意識されていることはありますか?

中国におけるリアル店舗の役割は日本と大きく違うと思っています。Eコマースが当たり前の国ですので、店舗は半分倉庫という考えで運営しているブランドが多いのです。Eコマースでお客さまが買い物すると、最寄りの店舗から商品を配送するのです。現在私たちの店舗運営ではそこまで対応できていませんので、こうした対応を進めるためにも、チャネル間における在庫共有化は大きな要素となります。こうした事業基盤はいち早く着手しないといけないと考えています。

 

次ページ 「コロナによって旗艦店オープンの課題を振り返る時間ができた」へ続く