「♪チャーチャチャララチャー チャチャーチャーチャーン」と鼻歌で自身のヒット曲『夢芝居』を口ずさみながらレモンサワーをつくる梅沢富美男さん。グラスに氷を入れ、レモンサワーの素、ソーダを注ぎ、マドラーで1回ステアしゴクリ。そして、「サントリー」の一言で締めくくられる。

「中尾孝年さんからメールで企画書が届いたときに、これはあのCMのオマージュでは、と思い、話を伺いました。するとやはり、サミーデイヴィスJrの『サントリーホワイト』のCM(1973年)のオマージュであると。そこで、ホワイトのCMを最大限にリスペクトしつつ、その“こだわり酒場のレモンサワー版”をつくろうと決めました」と黒田秀樹監督。

当時のCMにならい、ワンカットで撮影。美術も必要最小限。当初の企画と変更する形で衣装は割烹着からスーツに、背景は黄色から白ホリに。スーツの光沢感やシンプルな背景が、自らつくるレモンサワーならではの、改まった至福の時間を演出する。30秒ピッタリで演技をしてもらうために、大きなデジタルタイマーをレンズの横に用意。足でリズムをとりたい、と梅沢さんから申し出があり、音が出ないように、床には毛布を敷いた。

「シンプルだからこそ準備が大切です。僕は、撮影は狩猟で、編集とMAは厨房だと思っています。撮影が諸条件で思うようにいかなくても、編集MAでクオリティを保証するのがディレクターの矜持です。でも今回はワンカットでFIX。音も基本的には生音。獲ったものを刺し身にして出すようなものだから、狩猟次第で決まってしまいます」。氷の音や注ぐ音はSEで強調。耳を澄ますと、時々聞こえる足踏みの音は別録りし、リズムを出すために追加している。

「15秒版は30秒版を現場で編集してみて、音楽的に辻褄が合わない箇所を別撮りしようと考えていましたが、必要ありませんでした。編集でカットした鼻歌の時間経過がむしろ活きている、と中尾CDと判断しました」。

撮影はわずか10テイク程度で終了。「ホワイトのCMが好きだったという梅沢さんのパフォーマンスは最初から完成していて、1テイク目から誤差は2秒程でした。今回の演出部の仕事は舞台を用意すること。梅沢さんのエンターテイナーとしての底力とホワイトのCMの凄さに改めて敬服しました」。

黒田秀樹（くろだ・ひでき）

ディレクター。1958年大阪府生まれ。電通映画社を経て独立。「24時間タタカエマスカ」の三共「リゲイン」、サントリー「ペプシマン」、マンダム「GATSBY」、資生堂「TSUBAKI」、明治「メルティーキッス」、「Indeed」、など。福山雅治、サザンオールスターズ、SMAPなどのMVも監督。Cannes Lions、ADC賞、ACC賞など受賞歴多数。

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【連載】
・CMの裏側 サントリースピリッツ/こだわり酒場のレモンサワー「はなうた」篇
・リサーチ主導のデザイン 文:山崎みどり
・プロトタイピング発想のデザイン 文:三冨敬太
・広告少年 松田翔太×吉兼啓介(博報堂)×浜崎慎治×佐藤渉(TYO)
・C-1グランプリ 岡野鉄平(電通)×岡野草平(電通)
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