始まりがあれば終わりがあり。終わりが近づくと名残惜しくなってくる、というのが世の常であり。
この「伝説の授業採集」の連載も、今回で最終回。全部リスペクトしてる授業だから、全く手抜きができない。調べ直し、インタビューし直しつつ、全力投球の原稿を2週間に1度上げるのは、好きで始めたとはいえ、実は結構苦しくもあった。このマラソン、ゴールまで辿り着けるのだろうか…と思っていたが、何とか着いた、ここ、最終回に。
最後は、パーソナルな、家庭内の伝説の教育事例で、締めくくりたいと思う。
子どもの頃、「近所の本屋で本を好きなだけ、ツケで買って良い」と言われていたというスゴイ話。
この教育を受けたその人は、世の中の人にもっと本を読んでもらうために「ブックディレクター」という職業を作り出して、奔走している人である。本の虫、本の男、幅允孝くん。
「ツケで買って良い、という話。あれって、そもそもどんなことだったの?」
10年以上前に個人的に聞いていたこの話をほじくり返して、Zoomで改めて聞かせてもらった。
幅
「母親が本が好きで。特に近代文学が好きだったんですね。僕はいま城崎温泉の仕事をしてるから、志賀直哉、武者小路実篤、有島武郎とか、今でこそ白樺派などいっぱい読むけれど、当時から実家にはすでにたくさんありました。
ずっと主婦だった彼女は、本の関係の仕事に就くわけでも、子どもたちにそっちにいって欲しかったわけでもなかったと思うんだけれど、そんな母によって、お小遣いについて、早い段階から始められてたのが、『本だけ小遣い別制度』。小学校1年生の頃ですかね?」
倉
「そんな名前だったんだ!?」
幅
「今となってはね、後付けでそんな名前で。要は、お小遣い、本だけは別でいいよっていう話です。
小1の時は確か、お小遣い500円。小3から1000円に値上げしてもらったんですけど、とはいえ1ヶ月で1000円だと、当時流行ってたガンプラとか、キン消しとか、ビックリマンチョコとか買うとすぐ消えます。で、お小遣いなくなって困ったら行くのが、本屋さんっていう。

