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コラム

澤本・権八のすぐに終わりますから。アドタイ出張所

ベストセラー作家による魂の叫び「普通にできないという呪いが解けない」(ゲスト:燃え殻)【前編】

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普通にできないという呪い

権八:ちょっと話を戻すと、樋口さんは何で燃え殻さんに書いた方がいいっておっしゃられたのかな。

燃え殻:飲みに何度か行かせていただいていたんです。そのとき、思ってくれたんじゃないかな。ちょっと聞いてないんですけどね、なぜかは。

権八:でも、物語の中でも度々、「若い頃から実は小説家になりたい」というか……「なりたいんだろう?」みたいに友達に言われたりするシーンが出てくるじゃないですか。あと、なんといっても、伊藤沙莉ちゃん演じる彼女から「大丈夫だよ。君は面白いから」って言われていて……。いきなり核心かも知れないですけど、若い頃からああやって、ずっと励まされたり言われたりしてきたんじゃないですか?

燃え殻:確かに。今そういう話をしながら思ったんですけど、誰かがそういうふうに言ってきてくれたのかも知れない。彼女から「大丈夫だよ」「面白いよ」って言われたんですよ、本当に。自分が一番、特につまんなかった頃に言ってくれていて。面白くなかったんですけど、「面白くなれ」ぐらいに思ってくれていたんじゃないかなと、今は思ってますね。

でも、彼女がすごく好きだったんで、その期待に応えるために、「俺、面白くなりてえな」みたいな。「これ面白くない? 面白くない?」って、ずっとやりたくなっていましたね。一生懸命、自分が面白い人間になりたいっていう気持ち悪い衝動が、正直言うとそのときはありました。

権八:はい。

燃え殻:「最初から僕、面白かったんです」って言いたいんですけど、全然そんなことなくて。さらに自分が今面白いかっていうと、そうじゃなくて。面白い人間になりたいって、それこそ諦めてなくてずっと思っているっていう感じなのかなって。小説家にもなったって、全然思わないです。

権八:へえ~。

燃え殻:ただ、小説を書くことだったり物を書くってことは続けたいとか、さっきの樋口さんみたいな人になりたいってふうには、すごい強烈に思いますけど。

権八:『ボクらはみんな大人になれなかった』にも出てくるし、『これはただの夏』にも出てきたような気がするんだけど、「普通」っていうキーワードがあるじゃないですか。たぶん燃え殻さんのおばあちゃんはそうじゃなかったかもしれないけど、お母さんは燃え殻さんに「普通になりなさい」って言ってました?

燃え殻:そうですね。言ってた。

中村:そうなんですね。そんなお母さまだったんだ。

燃え殻:「とにかく普通にしてくれ」「普通に大学行ってくれ」「普通にいいとこに入ってくれ」「普通に結婚して、普通に子どもをつくって……」っていうのが、うちの母親の願いで。それが、まず大学行ってないですからね。

権八:はい。

燃え殻:それでもうダメだって思って。そういう普通ができないってことがコンプレックスになっていましたね。

中村:「俺は普通なんかなりたくない」っていうことじゃなくて?

燃え殻:いろんなことが足りないんですよね。ちゃんと努力ができないとか……。一生懸命やろうと思うんですけど、できないですよ。それがうちの母とかは嫌だったと思うんですよね。周りの友だちが大学に行っちゃったときも、「どうやったらいいんだろう」と悩みながら、「でも普通になれない」って思っていました。それが「普通以下だ」って思ったとき、「面白い人になればいいんじゃないか」みたいに思うようになって……。もうひどい反則攻撃のようなんですけどね。でもそれは、僕の周りでは誰も望んでないことなんですよ。

中村:面白くなることが。

燃え殻:そう。面白くなりたいって言っても、「そういうことじゃないから」「普通にやれ、普通に」って言われるばかりでしたね。それがすごいコンプレックスでした。小説にも全部書いちゃっているんですけどね。普通にすることが苦手な人たちは、何かが優れていたり、普通なんかつまらないって思っているんじゃなくて、普通ができないんですよ。

普通ができないから、特殊なことをやっちゃったり、逃げてしまう。それで、「こっちでこうやってるからいいよね」といってるんだけど、それは普通にできないだけ、という呪いが解けないんですよ。

中村:分かる、分かる…。

燃え殻:クラスで頑張らなくても真ん中にいる人とか、サッカーで先生から選ばれて「ミッドフィルダーな」って言われる人間と、「バックな」って言われる人は違うじゃないですか。僕、太ってもいなかったのに「キーパーな」って言われたんですよね。

一同:ははは。

燃え殻:「そういう感じなんだな……」って。真ん中のヤツはずっと真ん中なんですよ。

権八:そうですね。

燃え殻:ソイツらからしたら、「普通にやればいいじゃん」なんですよ。やりたいんですよ、こっちだって。でも、できないんですよ!

中村:分かる…。

燃え殻:成果も出ないんです、それで!

中村:僕もずっと、左サイドバックでしたよ……。

燃え殻:あんまりボールも回ってこないじゃないですか。そこが一番いいって人、いないじゃないですか!

中村:いない。めちゃくちゃ共感する……。

権八:長友(佑都)選手とかに失礼じゃない(笑)?

燃え殻:あ、そうか。

〈END〉後編につづく