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コラム

マーケティング・ジャーニー ~ビジネスの成長のためにマーケターにイノベーションを~

個人について知らなくても集団の動きは予測できる パーコレーション理論がデータ利活用に規制のある時代にマーケターに与えるヒント

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パーコレーションクラスター3つの戦略

オンライン上のパーコレーションクラスターによる把握と分析は、テロ攻撃を予測できるだけでなく、それを防ぐ戦略も合わせて示しています。

  • 1. すべてのオンラインの行動を見る必要はなく、一部の少数の集団に注目するほうが効率が良い。
  • 2. 最も影響力が高い「スーパースプレッダー」をアルゴリズムにより特定し、そこに打撃を与えるほうが効果的である。(ちなみにスーパースプレッダーは最もリンクが多いノードとは限らない。つまりフォロワーが最大数であるソーシャルメディアアカウントがスーパースプレッダーとは限らない。)
  • 3. クラスターが解散するフラグメンテーション率を高める。森林火災の際に、野焼きのように木を火災の閾値から引き離すように、ネットワークを伝播しやすそうな元から分離すること。

反ワクチン派の広がりは制御パラメータが優位なため

ジョンソン教授は(現在ジョージワシントン大学に在籍中)、新型コロナウイルスに対する「反ワクチン運動」に関するフェイスブック上での広がりについての論文を2020年に発表しています。そこでは、パーコレーションクラスターの捉え方で、なぜ北米のフェイスブック上で「反ワクチンのデマ」が広がっているかを指摘しています(ニューズウィーク 2020年5月19日松岡由希子「反ワクチン派がフェイスブック上で優勢となっている理由が明らかに」)。

実際には人数(規模)では、ワクチン支持者のほうが反ワクチン派より多いのですが、クラスターの広がりの制御パラメータのひとつであるコミュニティの数は反ワクチン派のほうが3倍近く多くなっています。しかも、まだワクチンに対する意見が未決定の人たちに対して、この反ワクチンのコミュニティの声が届きやすくなっており、300パーセント以上の成長を遂げているというのです。

また、ワクチン支持者のコミュニティは、その主張が「予防接種の公衆衛生上の利点」のみフォーカスしているのに対して、反対派のコミュニティは、その論点が幅広く、「安全性の懸念」「個人の選択の尊重」「陰謀論」などの多様な視点から主張を展開しているところもその特長です。また、ワクチン支持者は、規模の大きい反対派のコミュニティのみに反発しており、その裏で反対派の中規模のコミュニティが拡大しています。

つまり反ワクチン派は、もうひとつの制御パラメータでいう「感染力」が高く、それは大きく目立つクラスターではなく、中規模のグループで広がっているということが言えます。

パーコレーションクラスターで、様々な感染拡大も説明可能 

ジョンソン教授が主張する通り、オンライン上のテロリストの行動と反ワクチン派のフェイスブック上での行動はパーコレーションクラスターが同じ「数学的な確かさ」で動いていることが示されています。また、これらのジョンソン教授が示した3つの戦略は、テロリストの活動だけでなく、反ワクチン派の運動のような社会的信条や、投票などの政治的行動、また疫病の感染拡大にも適用できます。また先ほどのオンライン上の発言や行動をとりあげれば、ソーシャルメディア上のマーケティングにも応用できます。

このパーコレーションクラスターの戦略から、新型コロナウイルスの拡大を抑制するために政府は、ジョンソン教授のアイデアのように、スーパースプレッダーの特定や、クラスターのフラグメンテーション(家族以外の集団の集まりをリモートワークや移動の制限で禁止、飲み屋での人数制限など)を指示していましたが、これはコロナの拡散を防ぐためにクラスターの数と感染力を抑えるために意図されていたことがわかります。人口密集地である都会に感染者が多いのも、このクラスターの多さで説明できます。

マーケティングに適用したクラスターの感染戦略

ジョンソン教授の考えをマーケティング活動に当てはめてみましょう。と例えば、先のワクチン支持派のように、大きな市場シェアを持つブランドは、大きな規模のコミュニティだけに注目して、そのなかで支持されやすい便益だけを繰り返し主張する傾向にあります。この大きな点だけに注目すると、市場を攻めるのが難しいと感じてしまうでしょう。しかし実際、市場を攻める場合には、そのカテゴリーが持つ様々な便益や状況やグループの特性にあわせて、数々のコミュニティを見ることで、そのコミュニティの規模よりも、クラスターの多さに注目することが大事です

このクラスターの種類の多さで考えると、地域単位や、組織単位、制年齢別単位などだけでなく、市場におけるカテゴリーエントリーポイント(CEP)といったものも想定できます。つまり、ファッションのような嗜好性だったり、食品における食事の機会のTPOだったりします。アレンバーグ・バス研究所のジェニー・ローマニアック氏によれば、このようなCEPは、トップブランドが最も幅広い連想をもち、強いことが示されていますが、それはトップブランドが常にカテゴリーを代表する立場になるからです。

しかしながら、先ほどの反ワクチン派のコミュニティの多さと主張の幅広さのように、より多くのCEPに関連付けて働きかけられる可能性が高いブランドであれば、それを小規模のグループから「感染させる」ことで成長することはできそうです。

そうやって、それぞれのクラスターの特性にあわせて、ブランドが適していることを示して「感染させる」ためには、感染力の高い、つまり影響力の高い「スーパースプレッダー」を引き入れること、つまりインフルエンサーを活用することがひとつのアプローチです。ただそのインフルエンサーとは、単にフォロワーが多いことが条件ではなく、そのコミュニティにとっての影響力のあるエンゲージメントを示す「感染力」で判断する必要があります。

ジョンソン教授は、このようなクラスターの動きを見ることで、全体の動きを予測できることから、「個人については何ひとつ知る必要はない」と主張しています。つまり、パーコレーションクラスターの考えでは、現在デジタルマーケティングで問題となるプライバシーの問題については、なるべく避けて対応できるということです。パーコレーションクラスターの理論は、個人を理解するのではなく、人間の行動の全体構造を捉えることで結果的に個々人に働きかける適切な戦略が導き出せるという方向性を提示しています。
ワントゥワンでコミュニケーションを行うような営業活動と異なり、マーケティング活動が相手にするのは、個人の集合体です。規模の大きい集団の予測が求められるマーケターにとって、こうした理論を知ることはますます重要になってくるのではないでしょうか。