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土地・空間・体験を巻き込む OOHは最も自由度の高いメディアへ

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家の中以外で触れるものであれば、全てがメディアとなりうるOOH。クリエイター視点では、どのような活用可能性があるのだろうか。これまで街全体をメディアとしたコミュニケーションを手がけてきた、電通の加我俊介氏が解説する。

不特定多数の“間”に、“気になる”ものを置いてあげる

新型コロナウイルスにより、あらゆるものの価値観が変容したと言われていますが、OOHもまさにそのひとつではないかと感じています。度重なる外出自粛などにより、街から人の姿が消え、街の中の広告媒体であるOOHは、その価値を大きく毀損しました。

しかし、私たちの生活様式同様、未曾有の事態だからこそ新たに生まれる価値観や考え方があります。OOHも“今”を制限されることで“別の側面”に光が当たり、その中で新しい価値が見出されました。正確には、以前からもその価値はありましたが一層重視されるようになりました。それが、従来のテレビCMをはじめとするマス広告のリーチを補完するという発想ではない、「カンバセーション・ソース=話題拡散の起点」としての活用方法です。

媒体視点で考えると、その代表格が渋谷駅前ハチ公広場に設置されている「渋谷憲章シート広告」ではないでしょうか。グランドレベルに設置された大型看板で非常にシェアされやすく(目につきやすく・写真に撮りやすい)、かつニュース番組のお天気カメラに映り込む場所で、テレビやSNSでの二次拡散を通じて、その場にいない人の目にも触れることの多いOOHです。そのため、コロナ禍においても、さまざまなプロモーションで重用されていました。

例えば【写真1】は、渋谷憲章シート広告とその背後にある東急百貨店解体時の仮囲い広告を組み合わせて活用した、Netflixオリジナルシリーズ『全裸監督 シーズン2』の事例です。

写真1:全裸監督2「上を見ろ、星がある。下を見ろ、俺がいる。」
描かれたのはセリフと「Netflix」のロゴのみ。全裸監督を知っている人だけに伝わる表現が話題を呼んだ。

主人公の名言であり本作品を象徴する台詞「下を見ろ、俺がいる」に、高層ビルの壁面という媒体特性を活かして空を借景した「上を見ろ、星がある」という言葉を組み合せたキャッチフレーズを開発。仮囲い広告の上段・下段と、グランドレベルの渋谷憲章シート広告。この巨大な3段の屋外広告枠にひとつのメッセージだけを掲げる大胆な構成で、テレビのお天気カメラの映り込みをはじめ日本中が視認できる仕掛けとして展開しました。

突然、目にする「上を見ろ、星がある。下を見ろ、俺がいる。」という謎のフレーズは、全裸監督を知っている人“だけ”に深い意味がわかる広告で、「あれ何?」「何のメッセージ??」「全裸監督の広告!?」「あの台詞だ!」「すごいスケール!!」などと数珠繋ぎで大量のカンバセーションを生み出し、作品に対する話題や興味を広く喚起することができました。

これは、公共空間に置かれるOOHが持つ、「多様なバックグラウンドを持った不特定多数が同時に接触する」という媒体特長に起因していると思います。異なる思想や価値観を持った人々が、思い思いの行動をしている時に突然出くわす広告。だからこそ、そんな不特定多数の“間”に、“気になる”ものを置いてあげることで、知識や情報量の格差、思想や価値観の違いをレバレッジにして、「あれ見た?」「どういう意味?」「僕は好きだな」などと自然と会話が生まれる。カンバセーションをハックすることができるのです。

「OOHを中心にしたい」が当たり前になりつつある

これまでOOHは前述の通り、マス広告のリーチや接点を補完するメディアとして計画されることが多かったと思います。それが、コミュニケーションの起点として活用されるようになってきた。これは大きな価値観の転換ではないでしょうか。日々のプランニング業務においても、「OOHを中心にプロモーションを立ち上げたい」「話題化に特化したOOHを考えたい」などの会話が当たり前になった気がします。

補完ではなく起点。その視点で捉え直すと、これまで以上の使い方/それに即したクリエイティブ表現が考えられるはずです。その中でも私が特に期待しているのが、街のあらゆる場所をメディアとする「アンビエント型」、そしてOOHとイベントを融合させた「エクスペリエンス型」のOOHです。

街にも徐々に賑わいが戻り始めています。すると渋谷駅前などの一等地以外の様々な場所が活用できるようになります。話題起点という意味では、発見した時の「伝えたい欲求」を刺激するアンビエント型OOHも効果的な手法のひとつだと思います。

また、東京オリンピックをはじめとする大型イベントだけではなく、あらゆる企業イベントが中止・延期になってしまったこの2年余り。今年からはOOH同様、消費者により深いブランド体験を提供することができるイベント施策も徐々に再開してくると思われますが、その時、同じ「場」を起点とした仕掛けだからこそ、OOHとイベントを融合したエクスペリエンス型OOHも注目を集めると思います。

世の中には、すでにたくさんのエクスペリエンス型の好事例がありますが、私が昨年末に担当した、昭和40年代の浅草を舞台にしたビートたけし誕生物語、Netflix映画『浅草キッド』のプロモーションを紹介します。渋谷道玄坂下にあるポップアップスペース「ZeroBase渋谷」を活用して、作品の舞台である「浅草フランス座」を舞台美術の書割の発想で(ビル壁面を活用して)再現しました。

その上で、紅白幕に覆われた会場内では昭和のノスタルジーを感じる福引イベントを開催。現実世界に視覚的違和感を作り出す二次元表現、一夜のうちに突如誕生したフランス座、昭和感丸出しのイベントは、多くの人が行き交う年末の渋谷で注目を集めるとともに、1週間の開催で3万人以上に深い体験を提供することができました。

冒頭の『全裸監督』の事例のような短い・強いコピーのOOHは話題になりやすい反面、情報を先鋭化した表現のために、伝えられる情報量に限りがあります。一方で、イベント的なアプローチには体験者数に限りがある。そこで、一定以上の接触者数を担保しながら【OOHの良い点】、プラスアルファの情報を提供する/深いブランド体験を提供する【イベントの良い点】のハイブリッドになるかもしれないと期待しています。

OOHは、グラフィック表現やコピー表現はもちろん、映像や音声、土地性・空間性・体験性など様々な軸を持ち込んで表現できる最も自由度の高いメディアです。そこに、カンバセーションやコミュニケーションの起点という新しい価値が付加された。私自身も、今後OOHがどのように発展していくのか、どのような楽しいOOHが街を彩るのか楽しみで仕方ありません。

電通
クリエーティブディレクター/コミュニケーションプランナー
加我俊介氏

大学卒業後、外資系コンサルティングファームに入社。その後ADKを経て、2012年電通入社。マス広告、デジタル・イベント・PR、そして話題拡散装置としてのOOH等を組合せた統合的な広告コミュニケーションを数多く手がける。近年は広告領域に限らず、音声ARなどのサービス開発、展覧会や店舗の企画プロデュース、ドラマ制作など幅広い領域に従事。