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コラム

コピー年鑑と私

コピーは読み物(文・三島邦彦)

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東京を中心に日本全国で活躍するコピーライターやCMプランナーの団体である東京コピーライターズクラブ(TCC)。「TCC賞」応募作品の中から、コピーの最高峰を選ぶ広告賞「TCC賞」の入賞作品と優秀作品を収めた『コピー年鑑』は1963年に創刊、2022年度で60冊目を迎えます。各年鑑はその時々の時代性を広告という側面から反映した貴重なものとなっており、特に、コピーに関してはバイブル的存在として受け入れられています。
そんな『コピー年鑑』をテーマに、本コラムではTCC会員であるコピーライターやプランナーが執筆。第1回目は、Netflix「人間まるだし。」などを手がけられた三島邦彦さんです。

コピーライターに何か資質があるとすれば、それは書く力ではなく読む力なのかもしれません。コピーから多くのものを受け取る人。たとえそれが勘違いだとしても、これは自分に向けたメッセージだと思ったり、これを超えるものを自分はいつか書くだろうと夢想したり、コピーを夢中で読みふけることができる人は、コピーライターに向いていると思います。

ある時ラジオで翻訳家の岸本佐和子さんと小説家の高橋源一郎さんが対話をする中で、岸本さんは「翻訳とはものすごく深く読むということ」と言い、高橋さんは「人は書くときに同時に読んでいる。手は書きながら、目は読んでいる。」と言っていました。これはコピーにも通じる話ではないかと思います。人はコピーを書く時、同時にコピーを読んでいる。その読みの厳しさが、コピーのクオリティを決める。自分に厳しくなればなるほど、他人の基準に左右されることはなくなっていく。そのためにはたくさん書くのと同じくらい、たくさんコピーを読む必要があります。

コピー年鑑は、コピーをまとめて読むことの大きな助けになります。そこにあるのは審査委員たちがコピー年鑑に載せるにふさわしいと考えたコピーの集積。つまり、コピーライターたちが読むに値すると認めたコピーの集まりです。

コピーは選ぶことがいちばん難しい。いい眼を持った先輩の下についたり、いい眼を持ったクライアントに鍛えられたりする必要がある。でも、そんな幸運が誰にでもあるわけではない。だからこそ、コピー年鑑はあるわけです。

コピー年鑑にあるコピーを読む。そして投票結果や、審査員のコメントを読む。賛成してもいいし、反対してもいい。自分なりの眼を養うことに意味がある。そしてコピー年鑑を読む時のその厳しい眼で、自分自身のコピーを見返せば、コピーの質は格段に上がる。ここに、コピー年鑑の教育的な意義があります。

コピーは自分で上手くなれ、という今思えばとてもありがたい教育方針だったため、コピー年鑑をひたすら読むことから僕の修行は始まりました。分類や分析をすることなく、コピーそのものを無心になって読みました。このコピーが好きだ、と思うコピーは自然と覚えました。やがて、この人が書くものは好きだ、と思う人の名前を覚えていきました。その頃の記憶で、今も働き続けています。その頃の記憶だけで仕事していると言っても過言ではありません。

コピー年鑑は高いという人がいます。でも、年間6兆円を超える日本の広告費から生まれる一冊だと考えると、コスパがいいと言えるかもしれません(それはちょっと言い過ぎかもしれません)。コピー年鑑を買うには覚悟がいるという人がいます。でも、覚悟のいる買い物こそが人生を形作るということが言えるかもしれません(それはちょっと言い過ぎかもしれません)。

コピー年鑑は面白い読み物です。その時々の自分が抱えている悩みに応じて、遠回しなアドバイスをくれます。コピーはもっと自由でいいし、もっと面白くていいし、もっとカッコよくても、もっと美しくても、もっと感動的でもいいんだよ。と語りかけてきます。憧れで終わらせることなく、評論家で終わることなく、あくまでも自分自身が書くために眼を鍛える。そのために、どうぞ、コピー年鑑を読んでください。

三島邦彦 みしま・くにひこ
TCC2020年入会

長崎県長崎市生まれ。東京大学文学部英文科卒。2008年電通入社。第4CRプランニング局所属。近年の仕事は、Netflix「人間まるだし。」「再生のはじまり」「上を見ろ、星がある。下を見ろ、俺がいる。」など 受賞歴はACC総務大臣賞/グランプリ、小田桐昭賞、TCC新人賞、TCC賞、ONESHOW、CLIO賞、ADFEST、広告電通賞、朝日広告賞・OCC賞・FCC賞、ピンクリボンデザインコンテストなど

 

※4月27日より六本木「文喫 」にて「ことバー Presented by TCC」が開催中です。
開催期間:2022年4月27日(水)~5月26日(木)
営業時間:9:00~20:00(L.O. 19:00)
店休日:不定休
観覧料:入場無料

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関連リンク
『コピー年鑑2021』東京コピーライターズクラブ (編集)