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コラム

コピー年鑑と私

年鑑以外に知らなかった(文・栗田雅俊)

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東京を中心に日本全国で活躍するコピーライターやCMプランナーの団体である東京コピーライターズクラブ(TCC)。「TCC賞」応募作品の中から、コピーの最高峰を選ぶ広告賞「TCC賞」の入賞作品と優秀作品を収めた『コピー年鑑』は1963年に創刊、2022年度で60冊目を迎えます。各年鑑はその時々の時代性を広告という側面から反映した貴重なものとなっており、特に、コピーに関してはバイブル的存在として受け入れられています。
そんな『コピー年鑑』をテーマに、本コラムではTCC会員であるコピーライターやプランナーが執筆。第8回目は、サントリー「人生には飲食店がいる」「話そう」などを手がけられた栗田雅俊さんです。

コピーライター1年目に、コピー年鑑を10年ぶん買った。ペーペーには高い買い物だったけど、それ以外に勉強法を知らなかった。

痛手を少しでも回収したくて、舐めるように読み込んだ。何年のどのページに何が載っているか、大体わかるくらいの感じになった。

いま思い返すと、この脳内アーカイブ感がけっこう役に立った気がする。事例の想起も速くなるし、偉大な名作に刺激されるし、アイデア被りも防げるし、重宝がられるし。

思うに、どんなジャンルでも、まず10年ぶんくらいの歴史を異常なくらいアーカイブしてる状態をつくると、その後、だいぶ楽できるんじゃなかろうか。

もうひとつ。
ある時ふと、「このコピー、前に見たのと“感じ”が似てるな」と思うものがあることに気づいた。概念の扱い方、言葉のリズム、違うコピーなのにどこか似ていた。

「もしかしてコピーって法則あるのでは…?」

法則という視点で見つめ直すと、年鑑は宝の山だった。『○○だけでは××できない』みたいなレトリックから、『商品が必要な状態を描く』みたいな考え方の法則まで。夜な夜な年鑑に潜り、コツコツと自分なりの法則を発掘してはリスト化していった。どんな企業や商品がやってきても、この法則シートに当てはめればコピーが量産できるぞ!みたいな気がしてワクワクしていた。

もちろん実際はそんなうまくいかなかった。小手先のメソッドだけでなんとかなるほど簡単な世界じゃなかった。けれど、言葉の使い方や考え方を、自分でも使える道具として整理しようとするその過程が、思考パターンを固めてくれたのは間違いなかった。それは、なんの能力もない自分が暗闇を進むためのささやかな灯りだった。

年鑑は、ただ持ってるだけではあんまり意味がないかもしれない。けれど、それを自分の頭の中に再編集しておければ、かなりいい気がする。

広告もいろいろな時代で、勉強方法も増えた。ただ、コピーを勉強したいとなったら、今でもなお、年鑑はかなりいい教科書だと思う。

価格はインパクト抜群だし、デジタル版なども一切存在しないし、鈍器のように重いけれども、結局まだ私はこの年鑑以上にいい方法を知らない。少なくとも現時点では。

もうしばらくするとAIとかがコピーを教えてくれるかもしれないので、未来のことはわからない。

栗田雅俊 くりた・まさとし
TCC2009年入会

dentsu zero クリエーティブディレクター / コピーライター / CMプランナー
近年の主な仕事に、カップヌードルPRO、クイックワン、ビンゴ5、サントリー「人生には飲食店がいる」「話そう」、ユニクロ、デカビタC、KINTO、大和ハウスD-room、パートナーエージェント「ドロンジョとブラックジャック」、カシワバラ「大規模修繕な人々」、Netflix「リラックマとカオルさん」など。

※六本木「文喫」にて「ことバー Presented by TCC」が開催中です。
開催期間:2022年4月27日(水)~6月5日(日)
営業時間:9:00~20:00(L.O. 19:00)
観覧料:入場無料

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関連リンク
『コピー年鑑2021』東京コピーライターズクラブ (編集)