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中部エリア発祥のコメ兵と対談 広告主の課題意識の向上をどう実現する?

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2021年4月に事業を開始し、1年が経過したデジタル広告品質認証機構(JICDAQ)。まずは広告主側がデジタル広告の品質に対する課題意識を共有することが、活動の推進には欠かせない。首都圏のみでなく全国へと活動を広げていくうえでは、どのような取り組みが必要なのか。中部に本社を置くコメ兵との対談を行った。

月刊『宣伝会議』2022年7月号(6月1日発売)では「デジタル広告品質とコンテキストターゲティング」と題し特集を組みました。
ここでは、本誌に掲載した記事の一部を公開します。

日本アドバタイザーズ協会(JAA)
専務理事補佐
デジタル広告品質認証機構(JICDAQ)
事務局長
小出 誠氏

 

コメ兵
マーケティング部
ゼネラルアドバイザー
諏訪弘樹氏

 

取り組みに賛同する広告主は100社に 安心して取引できる市場を目指す

デジタル広告品質認証機構(JICDAQ)とは

日本アドバタイザーズ協会(JAA)、日本広告業協会(JAAA)、日本インタラクティブ広告協会(JIAA)の広告関係3団体が、デジタル広告市場における品質課題を解決することによる市場の健全な成長を目指して立ち上げた認証機構。2021年3月に設立され、同年4月に事業を開始した。広告主が安心して取引できる「デジタル広告の事業者」を認証という形でわかりやすく発信している。

 


 

JICDAQでは「アドフラウドを含む無効トラフィックの除外」と「広告掲載先品質に伴うブランドセーフティの確保」に関する業務プロセスの監査基準を制定し、基準に準拠して業務を適切に行う広告会社、DSP会社、アドネットワーク、媒体社などの広告事業者を認証。広告主企業が認証事業者を選択することで、国内のデジタル品質の向上を図っている。2022年5月1日時点で、品質認証取得済みの「品質認証事業者」は89社、認証申請中も含む「登録事業者」は130社となった。また、JICDAQの取り組みに賛同する広告主は、理念賛同を表明し登録手続きを行うことで「登録アドバタイザー」として登録される。登録アドバタイザーは同じく5月時点で100社となっている。

企業ブランドを重視するコメ兵 社内において対応の必要性が浸透

―コメ兵ではどのような体制でデジタル広告を運用しているのですか。

諏訪:当社では、デジタル広告の運用自体は基本的にパートナーである広告会社に依頼させていただき、週次で定例会議を実施しています。その場で広告の状況や実績を報告してもらっているというのが、現在の体制です。JICDAQさんが取り組まれている、“広告取引の透明性”という点については、コメ兵としても課題を感じていました。現在は、アドベリフィケーションツールを導入し、ブランドセーフティやアドフラウド対策を行っています。

小出:アドベリフィケーションツールの導入など、ブランドセーフティへの対策を行うと、短期的には広告の効果が落ちたようにも見えてしまいます。ブランドの価値を守り、安全な広告出稿を続けていくために、避けては通れない“一瞬の痛み”のようなものではあるのですが、それを理解してくれる経営層が必要です。その理解がないと、担当者は一時的にでも数値が下がることをなんとしても回避しなければならないという状況に追い込まれ、対策を導入できないという悩みの声も耳にします。コメ兵さんがツールを導入される際には、このような課題はなかったのでしょうか。

諏訪:デジタル広告の取引の透明性に対する課題は数年前から抱いていましたが、投資の判断に際しては、多少の時間が必要でした。実際に導入を始めたのは最近なのですが、「インプレッションやコンバージョン、ひいてはその先にある収益が下がるのではないか」という意見もあり、議論を重ねました。

小出:最終的にアドベリフィケーションツールを導入するという決断をしたのはどのような経緯だったのですか。

諏訪:コメ兵は二次流通の業界で、ブランドのリユース品を扱っています。ブランドの価値を見極め、適正な価格を定める“目利きのKOMEHYO”というポジションは、企業としての重要なアイデンティティ。このように、“ブランドの価値”を重視したビジネスを行っているコメ兵の広告が、例えば海賊版サイトや、“偽物”などのキーワードが書かれているページに掲載されていたら、お客さまからの企業に対する信頼にかかわります。こうした観点を社内でも説明し、ツールの導入に至りました。まだまだ、十分な対策ができているとは言えない状態ですが、品質向上のための第一歩になったのではないかと思います。

小出:コメ兵さんはツールを入れ、対策を進める決断をされましたが、同じような議論で対策を進められない企業は多くあります。そのためには現場だけでなく、決裁権をもつ役員やトップ含め、企業全体にこの意識が浸透する必要があります。JICDAQでもそのために発信を続けていかなければと思いますね。

広告主と広告事業者 両者に必要な課題感と危機感

―広告会社の意識という点でも意見を聞かせてください。諏訪さんはパートナーである広告会社とも、デジタル広告に関する課題や危機感を共有しているのですか。

諏訪:先ほどお話ししたように、広告会社とは週に1回打ち合わせの場を設定しており、その場で情報共有やベクトル合わせを行っています。そこで課題は共有できていると思います。加えて、当社の場合は広告会社と私たちで、ある程度役割分担をしています。パートナーの方には、当社側で置いたKPIやKGIに対して成果を最大化することを最優先事項にしてもらっている状態で、ダイレクトマーケティングによる売上の最大化という観点で品質の向上に貢献していただいているイメージです。ブランドセーフティといった観点での広告品質については、私たちブランド側が方向性を決め、広告会社に提案をする役割でないといけないと考えています。広告会社にすべてを丸投げするのではなく、一緒にお客さまとのコミュニケーションを考えていくということが前提になっていますね。

小出:JICDAQでは、広告主企業が課題を正しく認識し、JICDAQの認証獲得の有無でパートナー会社を選択するといった判断基準を持つことが広告業事業者の取り組み意欲を引き出し、日本のデジタル広告の品質向上につながると考えています。さらに、これを東京に本社を置く企業だけではなく、全国に広げていく必要があります。コメ兵さんのように地域に本社を持つ企業がこの課題を意識高くとらえていることは、私たちとしても非常に嬉しいことです。

地域の広告主にも意識の浸透を 横のつながりを築く環境構築

―JICDAQでは、全国を対象とした発信も進めているのですか。

小出:各地域の広告団体と連携してセミナーや意識調査を行っていきたいと考えています。現在も、全国にある37の広告協会と共同で、“デジタル広告の課題の認知度”に対するアンケート調査を6月に実施し、その後、調査結果を発表する計画をしています。また、デジタル広告の掲載品質の状況について定期的に発表するスキームができないか、検討を進めている状況です。ただ、比較的新しく設立された企業の中には広告協会とのつながりがない企業も多く、そのような企業の方がデジタル広告を活用しているといった事実もあります。協会とつながっていない企業に対していかに発信を行っていくかが課題だと考えています。諏訪さんは、日頃どのようにデジタル広告に関する情報収集を行っているのですか?

諏訪:コメ兵は協会などには加入しておらず、企業が開催しているセミナーに参加したり、過去に仕事でお付き合いをしたことがあるデジタル領域の方に話を聞いたりと、基本的に自ら情報は取りにいっています。また、コロナ禍以前は同じツールを使用している企業とのユーザー会のようなもので、定期的に意見交換を行っていました。ブランド同士の情報共有は重要だと思うので、今後も何かしらの形でつながりは築いていきたいです。

―コメ兵のデジタル広告における今後の展望を聞かせてください。

諏訪:デジタル広告には、「広告取引の透明性」以外に、「ユーザーの広告体験」という課題もあると思います。コメ兵はリアル店舗での接客を大切にしていますが、それと同様に、デジタル上で接触したお客さまにとっても、良い体験を提供していきたいと考えています。例えば、「昨日100万円の商品を購入いただいた人に対して、今日も同じような購入を促進するような広告が出ている」という状態は、ユーザーにとって心地よい体験とは必ずしも言えないのではないでしょうか。Cookie規制も鑑みて現在、CDP(Customer Data Platform)の構築を進めており、ほぼ土台は整った状態です。自社で保有するデータを統合し、活用できる仕組みをつくることでCXの向上を目指したいですね。これからもデジタル広告の課題に対して、「企業・ブランドの価値を守り、高める」という点と、「ユーザー体験の向上」という2軸で取り組んでいきたいです。

小出:アドフラウドや無効なトラフィックといった課題は、あくまで広告主と広告業事業者のBtoBの話。その先の一般ユーザーに対してのアドエクスペリエンスの問題(邪魔な広告フォーマットや嫌悪感につながる広告表現)は、広告業界全体にとって重要な、もう一段スケールの大きな課題だと考えています。JICDAQでは、現在、アドフラウド、ブランドセーフティといったところに注力をしていますが、その次のステップとして、アドエクスペリエンスの領域も取り組みの対象として考えています。この課題は、取引の透明性における課題以上に、あらゆる広告主を巻き込まなければ解決できません。今後、デジタル広告の発注における広告主の知見の有無が、ますます問われてくる時代になるのではないでしょうか。