メール受信設定のご確認をお願いいたします。

AdverTimes.からのメールを受信できていない場合は、
下記から受信設定の確認方法をご覧いただけます。

×

【はじめに全文公開】「呪い」の時代から「祝い」の時代へ。――『コピーライター式 ホメ出しの技術』より

share

「宣伝会議のこの本、どんな本?」では、弊社が刊行した書籍の、内容と性格を感じていただけるよう、「はじめに」と、本のテーマを掘り下げるような解説を掲載していきます。言うなれば、本の中身の見通しと、その本の位置づけをわかりやすくするための試みです。
今回は、新刊『わたしの言葉から世界はよくなる コピーライター式ホメ出しの技術』(澤田智洋著)の「はじめに」を紹介します。

澤田智洋著『わたしの言葉から世界はよくなる コピーライター式ホメ出しの技術』
本体1800円+税

 

コピーライター思考で、「呪い」の時代から、「祝い」の時代へ。

「ホメるのが苦手です」

そんな声をよく聞きます。仕事仲間を、友達を、子どもを、もっとホメたい。だけど、何をホメていいかわからない。どうホメていいかわからない。それどころか、口をついて出てくるのは意に反して小言だったりする。

ホメるのが難しい時代でもあります。よかれと思って、男性上司が女性の部下に「髪切った?似合ってるね」とでも言うものなら、「セクハラ!」とフロア中に響く声で叫ばれかねません。

では、もう私たちはホメなくていいのでしょうか?私はそうは思いません。なぜなら、適切なホメ言葉は、相手にいい未来をプレゼントし、風通しのいい人間関係につながり、なにより社会にいい空気をつくるからです。

人類は言葉を手にしてから、高度なコミュニケーションを行うようになりました。言葉があるからこそ、宗教や文化、社会そのものが形成されてきたといっても過言ではありません。
言葉はテクノロジーです。そして、すべてのテクノロジーは、光と影の両面をあわせもちます。例えば火は、人を温めることや、肉や魚を焼くことができる一方、人に火傷をおわせることがあります。
言葉も例外ではありません。人の支えになったり、背中を押したり、生きる希望になることがある。その反面、人を傷つけたり、絶望に陥れたり、社会に影をさしたりすることがあります。
だからこそ私は、言葉を、より光として使っていきたいと日々奮闘しています。

それは、「増大しつづけるダメ出し」という社会課題に対して楔を打ちたいからです。

今日もツイッターには、百花繚乱のダメ出しが咲いています。政治家に対して、企業に対して、インフルエンサーに対して。恐ろしい量のダメ出しが蔓延しています。面と向かっては言わないことを、匿名だから、直接会う機会はないからと、辛辣で悪意のこもった言葉や表現で、誰かを攻撃する。私が標的になっているわけではないのですが、こちらも傷つきます。憎しみのこもったネガ言葉は、触れた人もケガをしてしまいます。

ツイッターだけではありません。企業では上司が部下の働き方にダメ出しをし、家庭内では妻が夫の言動にダメ出しをし、OB訪問では社会人が学生にダメ出しをしています。ダメ出しの総量が増えている実感があります。何故でしょうか?一つには、「ダメ出すのは簡単だから」というのがあります。相手が何を言っても、しかめっつらで「おもしろくない」「俺はどうかと思うよ」「考え直してきて」と言うのは実に簡単です。インスタント・マウンティングの完成です。

また、超情報社会の到来により、それぞれが日々大量の情報に触れるようになり、各自が「自分ってちょっと賢いのかも」という勘違いの全能感を抱き始めたことも大きいと思います。いわゆる一億総評論家、総ツッコミ社会というやつです。それにより、自分の価値観からズレた人を見下したり、冷笑したり、叩く傾向が強まっています。

これは「呪いの時代」と言えます。マイナスな言葉を相手に発することにより、生気を奪い取り、とことん弱らせる。ダメ出しは呪いです。社会がどんどん窮屈になってきていると感じるのは、呪いが蔓延しているからかもしれません。

例えば「意識高い」という言葉は、やる気と好奇心を奪ってしまう、ひどい言葉です。相手の思考を縛り、行動範囲を狭め、可能性を削っていくのが「呪いの言葉」なのです。

だからこそ意図的に、言葉の力で「祝いの時代」をつくるべきではないでしょうか。私は知り合いから、「あのときもらった言葉を今でも覚えている」「あの言葉が糧になっている」と言われることがよくあります。日常的に祝いの言葉をつくり、大切な人に届けることを心がけているからです。

では、私がもともと人を日常的に「祝う」ことが得意なタイプだったのかというと、?全然そんなことありません。むしろ逆です。私は帰国子女で、日本の大学に入るまで、13年以上を海外で暮らしていました。自分がアジア人で、英語が不得意という事実に押しつぶされ、なかなか海外の学校に馴染めずにいました。いつしか人が苦手になっていました。人の目を見て話すことができなくなりました。それどころか、人を「ヒト」として見るようになっていました。つまり、人を自分とは違う異質な生物として見るようになってしまったのです。

例えば、ある時から私は、人の顔に毛がはえていないことに恐怖を覚えるようになりました。全身の毛を刈られたプードルを見るとき、違和感を感じますよね?それと同じです。ツルッとした、ケアされた女優さんの肌が一番苦手でした。もちろん鏡に写る自分の肌さえも。高校3年生のとき、私は自分を見られることさえも嫌になりました。朝だろうが屋内だろうがサングラスをかける時期もありました。他人と目を合わせたくないし、自分がヒトであるという事実にすら嫌気がさしていたのです。

そんな私がなぜ、人に祝いの言葉を積極的に贈るようになったのか。自分でも不思議だったのですが、ある日その謎がとけました。それは、私がコピーライターとして働いているからです。

そもそもコピーライターとは何者でしょうか?その定義自体、時代と共に揺らいでいくため「何をしているかピンとこない」方も多いと思います。端的にいうと、「言葉で、企業や社会、そして人をより良い状態へと導く人」です。

わかりやすいのは、「そうだ 京都、行こう。」「ぜんぶ雪のせいだ。」のように、いわゆる企業広告やキャンペーンなどに使われるキャッチコピーを書く仕事です。コピーライターが書いた言葉を、皆さんもネットやテレビ、電車の中などあちこちで自然と目にしています。

また、企業の理念や姿勢を体現する「ビジョン」「ミッション」「パーパス」を、経営者や社員の皆さんと一緒に考えることもあります。「社名から一緒に考えてよ」と言われることもあります。また、最近では行政や自治体のキャッチコピーや、例えば県全体のスローガンを考えることもありますし、社会の現象に名前をつけることもあります。

では、コピーライターはどうやってコピーを書くのでしょうか?そこには、基本姿勢とステップがあります。

まずは対象となる商品や企業に「惚れる」こと。つまり最大限「肯定する」というモードに切り替えること。ダメ出ししよう、という目線では見ない。「絶対に素晴らしい魅力がある」という前提で、相手と向き合うのです。そして徹底的に観察をする。すると、必ず魅力の「発見」へとたどり着きます。あとは適切な言葉でそれを「表現」する。これでコピーの完成です。

お気づきでしょうか。実はコピーライターの思考法とは、「ダメ出し」のそれとは真逆の思考法なのです。相手の粗探しをしたり、否定的・批判的な言葉を投げつけたりするのではなく、徹底的に相手の魅力を観察し、発見し、そして言葉にする。

この仕事をつづけるうちに、知らず知らずのうちに、私は広告作業だけではなく、周りの大切な人とのコミュニケーションにも、この前向きなコピーライター思考を応用するようになっていきました。そう、ホメるとは、相手のキャッチコピーを考えるようなものなのです。

一連のコピーライター思考を人に対して行うことを、私は「ホメ出し」と呼んでいます。なぜ「出す」という言葉が入っているかというと、それは「わざわざ」することだからです。私たちクリエイティブ職の人間は「案出し」といって、ゴールと締切を設定してアイデアを考えます。ダメ出しも同じです。言わなくていい負の言葉をわざわざ口にしていているわけです。翻ってホメ出しとは、意図的に、相手に祝いの言葉を贈るという概念です。

それは簡単なことではありません。脳に汗をかかなければいけません。ときには時間がかかります。なかなかいい発見に至らないかもしれない。適切な表現法が見つからないかもしれません。でも、それでいいのです。ホメ出ししようとする、その態度がまず大事なのです。

例えば、タクシーに乗ったとしましょう。運転手さんが散々道に迷い、想定時間をはるかにオーバーして目的地に到着したとき、あなたはどんな言葉をかけますか?

「ひどい運転手にあたった」「最悪の気分になりました」「親会社に連絡してクレーム入れておきますね」

ダメ出しをするのは簡単です。でも、よく考えてください。あなたがダメ出しをしたときの運転手さんの気持ちを。自分でも(道に迷ってしまった)(やってしまった)という自責にすでに苛まれていたのであれば、あなたのダメ出しはダメ押しになります。
暗澹とした気持ちを引きずり、次のお客さんを乗せたときにも上の空で再び道に迷うかもしれません(いやもしかしたら、あなたの前のお客さんからダメ出しをされしたショックで道に迷ってしまったのかも)。
ダメ出しは、ドミノ倒しの一枚目のように、連鎖的に社会全体にダメージを与えることがあるのです。

時計の針を、あなたがタクシーを降りる時に戻します。もしもあなたの脳裏に「ホメ出ししよう」という選択肢があったら、もしかしたらこう言うかもしれません。
「ブレーキの踏み方が柔らかくて、リラックスできました。ありがとうございます」
あなたが運転手だったらどうでしょう?ましてや(やってしまった)と思っていたら。救われた気持ちになるのではないでしょうか。(次こそは道を間違えないようにがんばろう)と思えるのではないでしょうか。
もちろん、運転手さんに自己批判力がまったくなければ、(ラッキー!)と無反省のまま、学習と成長のチャンスを逃してしまうかもしれません。
しかし、ホメ出しすることにより、前向きなドミノ倒しの連鎖がはじまる、とあなたが信じなければ、祝いの言葉は贈ることができません。

1981年の高度経済成長期真っ只中。変わりゆく日本を表すキャッチコピーがあります。

“女性の美しさは、都市の一部分です。(資生堂)”

女性の社会進出や美意識の向上が、社会の活力になったことを象徴するコピーです。この言葉を本書のコンセプトに即してアレンジすると、こう言えます。

あなたの言葉は、社会の一部分です。

そう。あなたの言葉には「影響力」があるんです。SNSという拡声器がだれの手にも渡った今、なおのことです。全員メディア時代だからこそ、一人ひとりがダメ出しではなくホメ出しをしていくことで、空気がやわらかくなり、社会の居心地がよくなる。それは、言葉により、アウェイと感じている世界をホームに変えていくということです。

これまで、「ホメ方」の本は数多と出版されてきました。しかし本書は、コピーライターの思考法を補助線に、名作キャッチコピーを参照しながら、「ホメ出し」を深掘りしていく一冊です。コピーというのは、企業や商品を「祝う」ための言葉です。今まで「ホメる」という文脈で語られてこなかったのが不思議なくらいです。

100年という長い人生において、ホメ出しを習慣づけるのと、つけないのとでは、大きな差が出ます。そんな「コピーライター式ホメ出し」とは何かを、一つひとつひもといていきます。

目指しているのは、ホモサピエンスならぬ「ホメサピエンス」を一人でも多く社会に増やすことです。ダメ出しによって人類を衰退させるのではなく、ホメ出しによって社会全体をエンパワーメントしていく存在。それが、ホメサピエンスです。

この本では、ホメサピエンスになるための3つの進化ステップを詰め込みました。まずは「姿勢」。意外かもしれませんが、ホメ出しにおいて姿勢を整えることが大切です。この点をおさえるだけでも、日常的に使う言葉が変わります。
つづいて「着眼点」。やみくもにホメればいいわけではなく、そこには特徴や留意点があります。ホメのアクセルとブレーキを知っておくことで、ホメ出し力はあがります。
最後に「表現」。どのような切り口で、言葉で、ホメ出しを表現するかによって相手の受け止め方や言葉の波及力も変わってきます。
本書のページをめくる度に、あなたはホメサピエンスへと着実に進化していくでしょう。また、読み終わるころには、コピーライターとしての素地も身についているかもしれません。

SNSでは、集中的なダメ出しをすることを誰かを「叩く」といいます。その瞬間、「叩く快感」があるかもしれませんが、その行為は長い目で見たときに何を生み出すでしょうか。それよりも、言葉でだれかをそっと「抱きしめる」ことを目指すのが本書の役割です。

叩く言葉から、抱きしめる言葉へ。
呪いの時代から、祝いの時代へ。
ダメ出しから、ホメ出しへ。

ホメ出しというコミュニケーションで、是非あなたの人生を、社会全体を好転させませんか?

詳細・購入はこちらから

 

澤田智洋
コピーライター

1981年生まれ。言葉とスポーツと福祉が専門。幼少期をパリ、シカゴ、ロンドンで過ごした後、17歳で帰国。2004年、広告会社入社。アミューズメントメディア総合学院、映画『ダークナイト・ライジング』、高知県などのコピーを手掛ける。2015年に誰もが楽しめる新しいスポーツを開発する「世界ゆるスポーツ協会」を設立。これまで100以上の新しいスポーツを開発し、20万人以上が体験。また、一般社団法人障害攻略課理事として、ひとりを起点に服を開発する「041 FASHION」、ボディシェアリングロボット「NIN_NIN」など、福祉領域におけるビジネスを推進。著書に 『ガチガチの世界をゆるめる』(百万年書房) 、『マイノリティデザイン』(ライツ社)、『コピーライター式ホメ出しの技術』(宣伝会議)がある。

修正:一部に誤りがありました。正しくは〈意図的に、言葉の力で「祝いの時代」をつくるべき〉となります(2022年6月24日)