コラム

嶋野・尾上の『これからの知られ方(仮)』

第9回 誰かに言いたくなる店「不純喫茶ドープ」(後編)

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【前回】「第8回 誰かに言いたくなる店「不純喫茶ドープ」(前編)」はこちら

これから新たに商売やビジネスを(主にネットで)始める方に向けた「知られ方」についての連載です。知られるための第一歩として、とても大事なのが、自分のセールスポイントの中から「何を強みとして選ぶか」。このコラムでは、広告業界でさまざまな成功事例をつくってきた広告クリエイターの2人が、個人の商売・ビジネスでの「強みの選び方」と「その知られ方」について、役立つ情報を発信していきます。

※本記事は、2021年1月に取材した内容を記事化したものです。
ご感想などはこちらから:『嶋野・尾上の「これからの知られ方」』へのお便り

カンヌライオンズに行って来ました

嶋野:はい、では後編です。その前に、我々ちょうどカンヌライオンズに行かせていただいておりまして。どうでしたか?

尾上:面白かったですね。今回のカンヌは。欧米はもうすっかり元どおりって感じで、キャンペーンも割とコロナ前みたいなユーモア系の施策だったり、シンプルに盛り上がるようなものが多かったです。

嶋野:なんかおすすめありますか?「これからの知られ方」の読者に参考になるような。

尾上:いやー、なんでしょう。「duoling」って翻訳アプリのキャンペーンで、タトゥーを翻訳してあげるっていう施策が好きでした。カタカナで「トイレデーモン」って入れちゃってる人とか。「実は変なタトゥー」って万国共通の笑いのネタであり、そこに着目して話題にし、知名度を高めたっていうのが面白いなと思いました。

嶋野:そういうのが、これからの時代のブランディングなのかもですね。私は逆の方向になるんですが、インドのユニリーバがやってた「Smart Fill」が面白いと思いました。ペットボトル自体の削減のため、家で持っている容器ならなんでも再補充(Refill)できる仕組みをスーパーで展開したものとか。これって、SDGsの文脈でありつつ、「すでに知られている」企業の方が有利な仕組みなんですよね。日本でもポカリスエットのリターナブルが話題になっていましたが、メジャーブランドの戦い方としては面白いなと思いました。

尾上:なるほどですね。そんなカンヌの事例とはまた違う面白さが詰め込まれている「不純喫茶ドープ」の後編パートです!

民主主義的なつくり方はしたくない

嶋野:井川さんが独りよがりにならないために、気をつけていることはなんですか?

井川:逆説的になりますが、わりと独りよがりにつくることを意識しています。特にビジネスのものづくりは、まともな大人が何人かでテーブル囲んであーだこーだってやると、最終的にめちゃくちゃ丸くなったものが出てくる。だから、あえて人の意見を聞かないである程度着地まで持っていきます。普通に考えたら、飲食店に「ゴミ捨て場」なんてキャッチつけないじゃないですか。この店ができた後で言うからまだ伝わるけれど、何もない状態で話してもチープになっちゃうし、絶対伝わらない。だからできあがるまで社内でもあまり言わないです。ある程度できてから説明します。最初にこういう言葉だけ出てきても、反対されますし。

嶋野:どの辺が反対されました?

井川:「ゴミ捨て場」って大丈夫?みたいなのはあります。わかる人少ないでしょ、みたいな。

嶋野:逆にちょっとやりすぎちゃった、アクセル踏みすぎちゃったなってことはありますか。

井川:その調整は自分の中でずっとやっている感じはあります。やりすぎて伝わらないのは絶対にあるじゃないですか。そのサイズ感の調整はめちゃくちゃ大事。でもそれはいろんな人の意見を聞いて民主主義的につくることとイコールではない。

尾上:これだけ話題になってると、いろんな意見がありそうですけど。何か言われて気になっても、取り入れないぞって決めたりしてますか?

井川:取り入れないです(笑)。キリなくないですか。

嶋野:そうですね。僕ら広告の人間はわりと気にしちゃうので。

井川:気にはしますけどね(笑)。でも取り入れないです。その人達は何の責任も負ってくれないので。やっぱり数が増えると、ディスは増えます。全然的を得ていないのも多くて、そういう芯を食ってないものは気にしないようにしてます。一方で、例えばお店で提供されるべきものがされていなかったようなことがあれば、一個一個訂正はしていきますし、直で謝ったりもします。

 

自分たちの投稿でバズらせようとは思わない

尾上:今シュッとしてカッコいい店はいくらでもあるから、ああいう緩さやダサさ、個人の色が出ると逆に異質性が高く見えますね。先ほどのお店のネーミングを導き出すまでの話がすごく面白かったんですが、一番自分的に盛り上がるのってどういう瞬間なんですか?

井川:そもそも文脈をネーム含めて考えるのは好きなんですよ。ネタが最初にあって業態をつくったりしているから、それがハマって自走する状態になっているときかな。

嶋野:だんだんこのコラムの主題に近づいてきました。SNSの向き合い方で、知られ方や広がり方とか、受け取られ方も含めて意識していることはありますか。

井川:よく聞かれますが、SNSの運用に必殺技はたぶんないです。ユーザーが投稿したくなるコンテンツづくりをして、ユーザーが投稿するサイクルを生むことは意識しています。いくら店側が精度の高い投稿をしても、実際のユーザーが上げる情報の信頼性にかなわないから。逆に言うと、SNSは工数を下げて運用できるようにしています。例えばお客さんが上げてくれた写真でいいものがあったら、DMして使わせてもらう。そうすればうちは撮影しなくていいし、お客さんの写真の方がリアルな視点で撮れているし。
結局SNSは伝達方法でしかないので、伝達方法だけをごにょごにょやっても意味がないと思うんですよね。

尾上:自分たちの投稿がバズるより、ユーザーの投稿がバズったらいいと?

井川:うちのアカウント発信でバズらせようとも思わないですし、バズったこともないです。ユーザーが上げてくれる数が増えればどこかで引っかかるはずだと思っています。

あとSNSで意識していることは、オフラインとオンラインの対応を変えないようにすることです。飲食でありがちなのが、現場では過剰なまでに接客サービスしているのに、SNSではお客さんの声をフル無視してしまう。お店でお客さんがおいしかった、ありがとうって言ってくれたら、お店の人間も当然ありがとうございますって言いますよね。それはSNSでもシームレスに対応するべきだと思っていて。自分たちも全部はできていないですが、極力意識しています。

尾上:めちゃくちゃ大事ですよね。このお店の空間性もそうですけど、体験できることとSNSで広がっていくことのギャップがない感じも、今のお話とつながってるんだろうな。

井川:ギャップはありますけどね。SNSでアクティブなのは若い女の子が多いので、バズると女の子視点で切り取られた画角で展開されていく。不純喫茶ドープもめちゃくちゃ可愛い店みたいになってるけど、実際に来てもらうと、そんなに可愛いって感じでもなくないですか?そういうギャップは多少出てきます。それが悪いということではないですし、もしかしたら単純に世代間ギャップなのかもしれないですけど(笑)。

嶋野:何も知らないおじさんもふらっと入って来たりしますか?

井川:男性のお客さまも来ますよ。それこそヒップホップ好きな、30〜40代のおっさんも。20代の若い女の子とヒップホップ好きなおっさんが混ざっているのが気持ちいいですね。

嶋野:それはすごくいいですね。お店に来てこういう世界観があるんだって発見があって、逆に今度は純喫茶巡りにハマったり、そういうことがあると文化が混ざった感じがしますね。

井川:そうです。いろんな楽しみ方があっていいんです。例えば「せつない気持ちのゴミ捨て場」っていうワードも、こういうことですって答えは出していない。コンテンツとして余白があった方が楽しみが広がると思っているので。このワード自体ヒップホップのリリックだけど、それを知らない若い子が「このワードやばくね?」って盛り上がっているのも気持ちいい。

 

カワイイものが好きな人も、ヒップホップ好きも、いろんな楽しみ方ができる空間。

力を失いかけているコンテンツにワクワクする

嶋野:最後に、これから自分でビジネスを立ち上げたり、ブランドをつくろうとする人にアドバイスがあれば。

井川:アドバイスとかするような立場じゃないですけどね。一つ言うとしたら自分の引き出しの中からしか物事って出てこないと思うんですよね。ひらめきってポッと出てくるイメージを持ちがちですけど、いま引き出しの中に入っているものの掛け合わせでしかありません。だからその引き出しの中の好きなものの深度を増やしていくこと。あとは「好き勝手やる」。自分がやりたいことをやって、やめたいことをやめる感じでいいんじゃないですかね。すべての人に当てはまる話じゃないかもしれませんが、自分はそうです。

嶋野:いまのお話を聞いて、親世代から町の中華屋をやってきた2代目が、自分らしさを入れていいんだってなって気づいて変わったらすごく面白い。

井川:町中華なんてめちゃくちゃ面白いと思うんですけどね。コンテンツ力を失いかけているもののブランディングをもっとやりたいですね。銭湯や純喫茶のほかにも、スナックビルやシャッター商店街とか。もっと大きいところだと廃校や過疎地とか。

尾上:個人の熱狂がいろんなものにハマっていくと、多様な面白さが生まれるし。それに面白くないとされちゃったものを面白くっていうのがいいですよね。

井川:実際に価値があるものだったりするから。

嶋野:そうですよね。これ以上新しいものをつくるよりも、あるものに目を向けようぜって感じに共感します。最後に、コロナ禍で環境が変わるなかで、今後の井川さんの戦略や狙いについて教えてください。

井川:コロナ禍でたくさんのお店がデリバリーを始めたけれど、家でそれを食べるのと店の空間で食べることってやっぱり全然違う。トータルの体験として、特に酒場なんかは価値があるとすごく認識しました。だから今後もこういう空間や体験を増やしていきたい。コロナ禍で飲食や酒場がなくなっていくとも言われるけど、一方でその価値を再認識する人もいるはずなので、そこをがんばりたいと思います。

 

嶋野:ということで、以上が不純喫茶ドープ後編でした。今回はなんといいますか、本当に理想的なやり方かもですね。自分らしさが、ある意味勝手に話題になったところもあり、計算したところも、計算してなかったところもそれぞれお客さんに受け入れられて。

尾上:最後に「次は町中華とか」っておっしゃってましたけど、そういうみんなが大好きだったけど古くなってしまったものを、井川さんが手掛けることで、元の魅力を大事にしたまま新しくなるところが素晴らしいですね。

嶋野:尾上さんなら、何をモチーフにしますか??

尾上:古本屋とかですかね。店の空間は結構工夫され尽くしてる気がするので、本自体の文脈をつけて売るような古本屋とかいいんじゃないかなあとか思ったり。

嶋野:あー、なるほど。らしいね(笑)。文脈を大事にするってことが今回のキーポイントだった気がします。喫茶「じゅんじゅん」から「不純」ってワードが出たみたいに。

尾上:このやたらと期間があいてしまいがちな連載の文脈は次どこにつながっていくのでしょうか・・・というわけで今回はここまでです。お便りやご質問お待ちしております!

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