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パーパスを軸に、状況に合わせて軽やかに変化する企業コミュニケーション

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文:齊藤三希子

近年、広告界を中心に注目され、多くの企業があらためて考えるようになった「パーパス」。新型コロナウイルスによるパンデミック禍で、パーパスを軸に企業コミュニケーションを展開した企業の事例を、『パーパス・ブランディング』著者である齊藤三希子さんが解説します。

今年9月、 WHO(世界保健機関)のテドロス・アダノム事務局長が、ようやくコロナ収束が視野に入ってきたと語りました。2020年初旬のパンデミック以来、企業のあり方や戦略を変えなければならないところは多くあったことでしょう。

前回のコラムでは、パーパス起点でCMキャンペーンを展開し、カンヌライオンズで受賞した作品をご紹介しましたが、今回はコロナによるパンデミックがCMに与えた影響について考えてみたいと思います。

マイクロソフトのBtoBオンライン会議サービス、Teams。米国でのコロナ禍でのCMは、「世界は変わった。人々は新しい方法でつながり始めた」というメッセージで始まり、BtoB顧客がパンデミックの間もどのように仕事を続けたかの体験談を次々と紹介し、「チームを止めるものはない」と締めくくられていました。

このCMについて、マイクロソフト365のバイスプレジデント、Jared Spataroはマイクロソフトのパーパス「地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする」を挙げ、「このCMによってマイクロソフトの存在理由が表現された」と説明しました。同CMは、まさしくこのパーパスに沿ったものでした。

Microsoft – The Power of Team

ソーシャルディスタンスが必須の環境では、Microsoftが通常作っている質の高い凝ったCMは実現できませんでした。そこで、監督やスタッフ、照明、マイクなどの設備を一切やめ、ウェブ会議の映像のままCMを作ることに切り替えたのです。その核となるアイデアはパーパスでした。このように、パーパスを軸にやり方を変えることを、エスエムオーでは「パーパス・ピボット」と呼んでいます。 

パンデミックという緊急事態の中、マイクロソフトは他の大企業と同様に医療機器や備品の寄付といった慈善活動を広く行なっており、その数々を広告でアピールするという選択肢もあったはずです。その方法でも好感度アップに繋がったことには違いないでしょうが、パーパスと結びつきがあるCMのほうが、よりブランドらしさを感じるものになります。このようにマーケティング、PR、IRなど、企業のあらゆるコミュニケーションにパーパスを取り入れることで、よりブランド価値を高めることができるのです。

では、ブランディングの観点からいくと、CSRは積極的に発信しない方がいいのでしょうか?ここでも、パーパスを常に起点にすると、企業の活動やコミュニケーションに一貫性が生まれ、解像度の高いブランドイメージを育成することができます。それは発信というよりもその前の段階の、CSR活動そのものがパーパスと連携されている必要があります。それでこそ、そのCSR活動における発信がブランディングにより貢献することができるのです。

ここで、CSRを中核的な活動として行っている企業のひとつ、日本が世界に誇れるゲーム会社、任天堂のアメリカでの取り組みをご紹介しましょう。

任天堂は、全世界を通して「娯楽を通じて人々を笑顔にする (putting smiles on the faces of everyone we touch)」という理念を核に、積極的なCSR活動を展開しています。任天堂の最新のCSRレポートを見ると、任天堂はCSR活動を以下の4つのカテゴリーに分け、それぞれのカテゴリーの人々を笑顔にしていくことをゴールに活動していくと書かれています。

①お客さまを笑顔に
②サプライチェーンを笑顔に
③社員を笑顔に
④環境負荷の軽減

NINETENDO USA CSR REPORTより。

それらはおおまかに、
①子供が安心して遊べるような環境整備 
②取引先との良好なコミュニケーションを通じたCSR調達 
③社員が能力を発揮できる職場環境 
④オフィスにおける環境配慮や、製品のリサイクル対応
といった取り組みです。

さらに、次世代育成の取り組みとして、世界中で地域の特性などに合わせて、人々を笑顔にするさまざまな活動を行っています。

中でも、「人々を笑顔にする」に特化した取り組みについてクローズアップしてみましょう。2015年、任天堂アメリカでは、スーパーマリオ30周年のキャンペーンの一環として、マリオをテーマとした撮影ビデオをユーザーから募集し、投稿動画をYouTubeで公開しました。そこから得られた広告収入は、任天堂からの寄付額も加えられて、オペレーションスマイルという国際チャリティーへ贈られました。

Nintendo – Let’s Super Mario!

このオペレーションスマイルという団体は、途上国にいる口唇裂・口蓋裂という疾患の子供達に修復手術の支援をするNPOです。この疾患は、唇や口の中の天井にあたる口蓋に裂け目がある状態で生まれてくるもので、口を開いて笑顔を見せたり、上手く食事が出来ることが困難な場合があります。複数回にわたる手術をすることにより、笑顔を手に入れて普通の人生を送れるようになるのですが、途上国では医療が進歩していなかったり、高額な手術代と保険システムが整えられていないことから、手術を受けられず、家族にさえも笑顔を見せられない子供たちがたくさん存在します。
そうした子供たちへの支援につながるこちらの寄付活動は、キャンペーンそのものとCSRが、直に理念である「人々を笑顔にする」につながっている特徴的な事例と言えましょう。

事業の中核でないことであっても、すべての戦略において、理念やパーパスに忠実に沿って実行し、発信をしていってこそ、その組織の信頼性を高め、ブランドづくりに貢献していくのです。

さて、貴方の組織のその取り組み、そこにパーパスは、軸は、ありますか?

『パーパス・ブランディング』
齊藤三希子 (著) 
ISBN: 978-4883355204