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営業×コピーライターの僕ら流「ヤングスパイクス」の戦い方/マインドセット篇

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3月7日に結果が発表された、アジア太平洋地域の広告アワード「スパイクスアジア」における若手クリエイターのコンペ「ヤングスパイクス」。日本からはデジタル部門で津島英征氏(博報堂 ビジネスプラナー)と中西亮介氏(博報堂 コピーライター)のチームがゴールドを受賞しました。今回はこの2人によるヤングスパイクス体験記を前後篇の2回にわけてお届けします。

はじめまして。津島英征です(写真右)。普段は博報堂で、ビジネスプラナー(営業職)をしています。「Poo-Lastic(プラスチックのうんち)」という一見ふざけたアイデアで国内予選を勝ち抜き、日本代表として、「スパイクスアジア」の中で行われる30歳以下のコンペ「ヤングスパイクス」にペアの中西亮介くん(写真左)と参加してきました。


結果、「Tinder GREEN(若者の下心をとらえる環境キャンペーン)」という企画でデジタル部門における最高賞「ゴールド」をいただきました。


【関連記事】
スパイクスアジアの若手コンペ 博報堂の津島&中西チームがデジタル部門ゴールド

僕はそもそも現在、「クリエイティブ職」ではありません。ヤングスパイクスでゴールドをいただくことが、とても珍しいことだと思います。なので、そうした視点も交えながら体験を共有できればと思います。

後篇では、僕たちの超スイートなアイデアを紹介しつつ、進行の具体的なテクニックを中西が整理してくれているので、あわせて読んでいただけるとうれしいなと思います。
 

0. この記事のキーワード

アイディエーションの方法や、企画のまとめ方にはそれぞれの方法があると思います。なので、ここでは異職種のアイデアマンが2人そろったときのケミストリーマッチについて考えます。簡単にいいかえると、2人で勝つための楽しみ方です。

というのは僕らが海外コンペに臨むにあたって、文化や言語を超えた本能的な楽しさに訴えかけることを戦略の中心に据えたからです。この記事のキーワードである「ラフに、イージーに」は僕の矜持でもありますが、予選や練習の中で自然とできていった、僕らの暗黙的な約束のようなものです。楽しい企画を目指すには、そもそもアイデアマンたちが一番楽しむ必要があると思います。

1. 相方選びについて

さて、相方選びはとっても大事です。いろいろな形のペアがあるかと思います。僕らの場合は腹を割って話せる、「2人で成長できるなと思える相手」と組んだことが、成果につながったと思います。

いくら仲がいいから、といっても僕は営業職、中西はクリエイティブ職。よく誘ってくれたな~と思います。ですが、アイディエーションは、一部を別として学校で専門的に訓練した人はあまりいないものです。皆とスタートラインが近いのは若手コンペの特徴だと思うので、単純に、腹を割って話せる相手とやるのがよいのではないかと思います。

2. 「一人二役、計4人」の演劇をしよう

複数回の練習を通じて気づいたのですが、ペアチームは実質的に「計4人」になる必要があると思います。どういうことか?

まず、アイディエーションは「方向づけられた」「思考の拡散」だと思います。「拡散」のキードライバーは、否定されえないという「心理的安全」です。「方向づけ」のキードライバーは探索の姿勢と「ロジカルシンキング」です。

拡散する無邪気な人格と、ロジカルに案を方向づける人格。それが2人で計4人。この4人を、潔く切り替えることが大事です。「無邪気」どうしで拡散しあう時、「冷静」どうしで方向性を決める時、片方が無邪気」片方が冷静になる時、、、どっちつかず、どっちかしかできない、となると、コミュニケーションのミスマッチが生じます。ペアワークではお互いの距離が近いので、この切り替えを上手にすることが要のように思います。


3. 「心理的安全」の使いみち・つくり方

特に、思考の拡散に大切な「心理的安全」に注意を払うべきだと思います。なるべくラフに、イージーに。相手にとっても自分にとってもいいことしかありません。

(1)アイデアを場に出すハードルを下げる
(2)発想の幅を広げる
(3)特定のアイデアへのこだわりを消す

2人ともこれが上手かったので、最終的に文句なしのアイデアにたどり着けたと思います。お互いがお互いに心理的な安全を提供できるようになるまで、予選から本選までの間、練習や夕飯、一緒に広告事例を眺める時間など、中西とはたくさんの時間を過ごしました。

4. だらだらと初期仮説を話そう

特に僕がこだわるところですが「心理的安全」のために、オリエン後すぐの2人の時間をたっぷりと取ることをおすすめします。ペアワークでは2人の頭のなかにあることしか出ません。最初にアイデア、ファクト、発見、仮説を枯れるまで出すことで、後々困ったときに振り返る資産をつくることができますし、その後心残りなく進むことができる、というメリットもあります。

ペアでのアイディエーションは実質、長い長い会話です。「初期仮説」の時間は24時間の長い長い会話の、アイドリングにもなります。本選の時は、外で煙草を吸いながら、ぼんやりと仲良く話すような感じでした。


5. 否定のテクニック

いいチームは、案をつぶすのが上手いと思っています。変な案のつぶし方をしてしまうと、どうしても人間どうし(しかも若い!)なので、どっちかがちょっとイラっとしたまま議論を続けることになります。大きなロスです。

相手が盛り上がっている時には全肯定しておいて、違うなと思っていたら、すっと次の話題を振ればよいです。必要に応じてですが、冷静になった時に「こっちかこっちかだったら、こっちのほうがいいよね?こうだから。」といって、後でふりかえる時につぶせばよいです。

6. 2種類の「微妙なアイデア」を往復する

微妙なアイデアは、以下の2種類に大別されます。

(1)アイデアは面白いんだけど、勝ち筋には沿わない。
(2)お題に合ってるけど、光るものがない。

お互い冷静なとき(重要!)に微妙なアイデアは微妙だ、と言いきっておくとよいと思います。
で、個人ワークにうつって、潔く新しいアイデアを考えます。

(1)と(2)を往復して答えに近づいていく地道な道中を、どうにかこうにか楽しんでいくことが重要だと思います。

7. アイデアを祝福する

「これだ」というアイデアが出たら、2人で絶対に盛り上がったほうがいいです。「このアイデアってここがいいよね」という会話は、そのまま具体的なプレゼンの材料になります。また、最高の思い出にもなります。

3回目の個人ワークのあと僕から「Tinder Green どうかな?」と、共有した瞬間。中西がしばらく沈黙して一言、「いいじゃん……!」。その後、堰を切ったようにアイデアの良さを交互に話して盛り上がりました。予選の時もそうでしたが、忘れられない瞬間になりました。盛り上がりはアイデアの「合格」の基準にもなります。

8.制作フェーズでは鬼になる

アイデアが決まったら、極限までシンプルにプレゼンをまとめていきます。ここではケンカになっても大丈夫です。単純に、ロジックがうまい方がいいアウトプットになるから。

また、プレゼンに必要な素材選びも、厳格に。残り時間要因での妥協ならOKですが、精神的にもう無理、というところの妥協は、当たり前ですが許されません。お互いがお互いに厳しくし合い、ギリギリまでクオリティを積み上げます。

9. 楽しんで勝つ方法、勝てる楽しみ方

まとめると、僕たちの勝利は「ラフに、イージーに、ストイックに」を軸にして

(1)相方に腹を割る
(2)信頼関係を育てる
(3)初期仮説をだらだら話す
(4)相手をうまく否定する
(5)アイデアを無邪気に祝福する
(6)最後はお互い鬼になる

の6つのポイントでできていると思います。

僕は英語もしゃべれませんでした。迫りくる現業タスク。慣れないクリエイティブ職の世界に独りぼっち、という状況。めちゃくちゃ不安でした。

が、上記を意識して、うまいこと国内予選、本選と、狙い通りのアイデアが出せました。本当に、楽しかったー!


10. ビジネスプラナー(営業)のクリエイティビティ

2022年度のはじめ頃、大好きな営業職の先輩2人から「コンペ、やってみてもいいんじゃない?」と背中を押していただきました。結果、それから参加したコンペのうち3つで賞をいただくことができました(小林さん、田中さん、本当にありがとうございます…!)。

広告会社の営業職は、チームが登る山の全体像を描く力や、特定の広告的表現の枠に収まらないビジネスデザイン力、あらゆるステークホルダーを組み合わせて力を引き出す統合力、チームデザイン力など、特有のクリエイティビティを持つと思います。

特にプラットフォーマーの巻き込み方と、社会的なインパクトを狙うアイデアを求められる「デジタル部門」ではそうした力を評価につなげられると思います。

一人のアイデアマンとしても、ビジネスプラナーとしても、この勝利はうれしいものでした。

さてさて、ここまではやや俯瞰的な内容でした。ここからは二人で走りながら考えた、数々の工夫を(ちょっと打ち明けすぎなくらい)中西がまとめてくれています!後篇へ続く!
 

津島英征(つしま・ひでゆき)
博報堂 ビジネスプラナー

1994年東京都生まれ。2020年博報堂入社。プライベートで都市研究、アーティストコミュニティ立ち上げ支援、スタートアップ支援など。受賞歴:2022年ヤングスパイクス デジタル部門日本代表 / 本戦GOLD / メトロアドクリエイティブアワード。

中西亮介(なかにし・りょうすけ)
博報堂 コピーライター/アクティベーションプラナー

1994年愛知県生まれ。2020年博報堂入社。マス広告や統合プラニングから商品・サービス開発まで幅広く携わる。 受賞歴:2022年ヤングスパイクス デジタル部門日本代表 / 本戦GOLD / メトロアドクリエイティブアワード。